旅行の将来:ワクチンパスポートで国際線の復活なるか?-日本データカード、エントラストジャパン代表取締役社長スザンヌ・ケルソー氏 寄稿

  • 2021年3月16日

ケルソー氏  本人確認や識別認証は、今やビジネスを成功に導く重要な要素となりましたが、この傾向はますます強まるでしょう。というのも、パンデミックによる都市封鎖から世界が目覚めようとしている今、世界中の企業が中核事業に弾みをつけ、新たな収益モデルを確立する安全かつ低リスクな方法を模索しているからです。

 先日、オーストラリアの航空会社であるカンタス航空が、国境再開を見据え、人々の安全な渡航を実現する「ワクチンパスポート」の実用性を発表したのは、その良い例と言えます。 国際航空運送協会(IATA)は現在、この構想から発展したトラベルパスというアイデアを提案しています。航空旅行業界の中心的機関であるIATAが、旅行証明の確認を行う認定機関と連携して動いています。旅行証明は正式な新型コロナウイルスワクチンを接種した個人に対して発行されることになります。

 同様に、米国およびヨーロッパの複数の国もワクチンのデジタル証明書の開発に乗り出しました。証明書の提出が可能になることで、旅行や外食、イベントの再開が促進されると見ています。完全な保護を実現するワクチンは存在しません。それでも、このような免疫証明書は、国際・国内両方の便の運航再開を目指す航空会社に大きな自信を与えます。世界が再び動き出す日はそう遠くないかもしれません。

旅行者の信頼をテクノロジーで取り戻す

 現在は、人々の国境を超えた移動とその正当性を確認し、明確化するために従来型のパスポートが必要です。同様に、黄熱病のリスクがある国からの帰国者や旅行者には有効なワクチン証明が求められます。

 デジタル「免疫パスポート」もこのような性格をもち、根本的な安全性および不正に強い仕組みが絶対条件となります。デジタルパスポートは信頼という基盤の上に成り立ちます。まず、信頼される証明書が100パーセント本物であるという信頼。次に、そのパスポートには不正行為の疑いが微塵もないという信頼です。

 この信頼の達成にはデジタル署名の作成が必要となります。一般的に、このようなデジタル署名は、携帯電話などの便利なモバイルデバイスやスマートカードに保存されます。デジタル署名は、システムや関係当局と対話できるように設計されており、個人や、個人に関連する正式書類を安全に確認することができます。

 このような性質をもつデジタル証明書は、容易に複製できる紙媒体の記録や、公開ファイルやWalletアプリに保存される書類のデジタルコピーに比べて、本質的により高い安全性と恒久性を備えています。あらゆる方法で持ち主に紐づけられており、物理的保護とデジタル的な保護を提供します。例えるならば、このデジタルリンクは、個人のバーチャル証明書と、パスポートや携帯電話などの物理的な実体との中間に存在していると言えるかもしれません。ただし、安全な本人確認をもって紐づけられており、本人確認の多くは、顔認証や指紋などの生体認証スキャンが利用されます。

 新型コロナウイルスのワクチン接種者を確認するワクチン証明書について見てみましょう。この証明書にも、信頼を確立するための様々な仕組みが存在します。証明書の真正性は、本物のサンプルと照合するために必要な組み込みのセキュリティ機能を使用して証明できます。そもそも、証明書には承認機関に紐づけられるデジタル署名が含まれているため、証明書が本物であること、そして正しい機関から発行されていることの両方を確実に確認することができます。また、必要なデータが物理的もしくはデジタル的に改ざんされていないことを確認する機能により、書類の整合性も証明可能です。

 安全性の面から考えると、デジタル証明書は各個人に対して固有であり、信頼できるものです。これらの機能のおかげで、証明書が本物であると証明することが可能となり、また、必要なワクチン接種を受けた時には適切な記録を残すことができます。強固なアクセス制限と承認規則でプライバシーも保護されており、承認された担当者は必要なデータに対してのみアクセスする権限を有し、さらに、保存済みの個人記録や送信中の個人記録は暗号化されたままです。

旅行の将来を守る

 オーストラリア政府は、2021年後半のシナリオとして、入国者には、入国時にワクチン証明の提出を求め、提出できない場合には一定の期間隔離することを想定していると発表しています。

 真のチャンスは、人々のプライバシーを保護しながら旅行と政府サービスへのアクセスを合理化する方法でデジタル資格情報を組み込んだ国民IDプログラム、つまり、「デジタル市民」構想に向けた変革を促進することにあります。

 正式なデジタル証明書を持つ旅行者は、承認済みのトラベルパスで簡単に識別可能な承認マークや、暗号化されたワクチン接種の記録を発行して、出入国管理手続きの際に提示することになるでしょう。さらに、ホテルでの滞在や電車など公共交通機関の利用、遊園地や動物園などの観光地への訪問といった、旅行中の様々な場面で役立つでしょう。

 そして何より、ワクチンパスポートやその他の信頼性の高い証明書は、旅行者、航空会社やクルーズ船などの輸送業者、観光地、そして国境を管理する政府機関のそれぞれの間に信頼を確立する、強力かつ実行可能なソリューションとなる可能性があります。この信頼は、安全かつ便利で、管理された体制で国境を開き、人々の移動を再び可能にするために非常に重要です。

Suzanne Kelsall(スザンヌ・ケルソー)
日本データカード株式会社およびエントラストジャパン株式会社 代表取締役社長 2020年6月5日よりEntrustの日本事業トップとして、日本データカードとエントラストの代表取締役を務める。文化的および階層的な障壁を克服するための実行可能な行動倫理を持ち、成功のための現場のモチベーションアップを常に図っている。以前はAutodesk日本法人のインサイドセールストップ、サービスソース・インターナショナル・ジャパン、レノボ・ジャパン、デルで幹部職を歴任。