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コロナがシンガポールにもたらした変化

  • 2021年2月16日

シンガポールの就労ビザの状況
ビザ厳格化、減少する外国人

2.Before コロナ vs After コロナ

 移民国家シンガポールは、好景気のときには新たな会社も増え、仕事のポストも増え、給料も上がるため、国民は不満を持ちません。もっと言えば、「外国人によって、もしくは外国の企業によって、職業が作られている」となるわけです(Before コロナ)。

 しかし、ひとたび不景気になると一気にそれが逆回転します。つまり、「外国人によって、仕事が奪われている」となるわけです(After コロナ)。

 これには理由が2つあります。1点目はシンガポールにある企業のほとんどは外国の企業であるということ(自国のマーケットが小さく、自国の企業が育ちにくい)。2点目は、雇用契約が圧倒的に雇用主に有利に作られていることです(実は、こういう労働政策を取ることで外国企業を引き付けてきた)。

 Google, Facebook, 日系の銀行や商社等、シンガポールにある企業は海外の企業ですし、その上位のポストは自国から派遣された人になっています。つまり、シンガポール人を多く雇用する構造にはありませんし、仮にシンガポール人を採用したとしてもシンガポール人が出世しにくい構造にあります(なぜなら、上層部は自国から派遣されてくるため)。その上、雇用主に圧倒的有利に雇用契約ができているので、法的には会社都合でいつでも人員整理ができる状態にあります(厳密に言えば、Notice Periodに対するルールはありますが、ここでは割愛します)。

 そのような構造ですので、不景気になると、外国企業はシンガポール人(ローカルで採用した人)を人員整理するとなりやすいのです。

 しかし、このコロナは以前の不景気とインパクトが違いましたので、シンガポール政府が動きます。

 シンガポール人の採用を維持した場合(外国人は対象外)に補助金を出し(日本で言う雇用調整金)、またシンガポール人よりも外国人を優遇した処遇あるいは給与カットをした場合に警告を出すと表明します。この警告は、今後Employment passが発行できないなど、ビジネス運営に支障が出るようなペナルティになることも多く、シンガポールで会社をしている人は、そこでリスクを取りたくないので従うしかないのです。

 このシンガポール政府の政策もあり、外国人の雇用がまず先に減りました。そのため、人口の統計にも表れたように、外国人の人口がまず先に減少しました。ビザを失うと、Personal Employment Passを取らない限り、2週間以内にシンガポールを出国しなければならないため、如実に人口減少となって現れます。2020年9月4日以降の統計はないですが、今も減り続けているのではないかと思います。

 いかがでしょうか?

 シンガポール政府のやり方もすごいですが、移民を受け入れて国家を運営するということは、こういうことなんだと痛感させられます。ある意味では、外国人就労者は、景気の浮き沈みによって増減させられる調整弁のような役割になっています。

 SARS以降右肩上がりに増えていた外国人も、このコロナ禍で減少しました。しかも、それはコロナで死亡したからではなく、コロナで失職し、ビザを失ったことで帰国の途についたことによります。改めて痛感しますが、コロナが与えた影響はすごいですね。。。

3.ビザ(EP)の厳格化

 さらに追い打ちをかけるように、政府はビザを厳格化しました。シンガポール政府、やるときは徹底的にやりますね。。。

 もともとシンガポール政府は、年齢、最終学歴、給与の3点を見てビザを発行します。つまり年齢が高かったり、給料が政府の定める基準より低い場合にはビザが下りにくいということです。

 政府は2020年5月に、EP取得に必要な月給額を3900シンガポールドル(約30万円)に上げたばかりですが、2020年9月に4500シンガポールドルに再び引き上げました。たった4カ月での政策変更です。申請者の年齢が上がるにつれて必要な月給額も高くなる仕組みで、45歳以上は8400シンガポールドル以上(約65万円)の月給がないとEPは取得できなくなりました。

専門職向けビザ取得に必要な月給

年齢 第1区分 第2区分 第3区分
45歳以上 65.5万円 65.5万円 65.5万円
40歳 58.6万円 60.3万円 62.1万円
35歳 51.6万円 55.2万円 58.7万円
30歳 44.7万円 50.0万円 55.4万円
対象の大学 東京、京都、東京工業 早稲田、慶応、上智、中央
立命館、北海道、東北
一橋、名古屋、大阪
立教、近畿、東京農業
静岡、国際教養、福井
東京芸術、津田塾、東京女子
お茶の水女子

(注)1SGD(シンガポールドル)=約78円で日本円換算
(出所)JACリクルートメント

 従来、早慶、一橋、大阪大学など約60の大学はこれまで必要な月給が最も少ない第1区分だったにも関わらず、今回の変更で第2区分に降格になっています。JACリクルートメントの試算では、早慶卒の30歳の日本人がEP取得に必要な月給は、2年前に比べ1.5倍近くに跳ね上がっている(これすごいですよね。。。)とのことです。学歴に対する基準が厳格になったため、給料を上げないとビザが取得できないという状況です。

 取得費用が1.5倍上がるということは、企業側から見た駐在にかかるコストが1.5倍上がるということです。今までは、「経験のために行かせていた」海外駐在もなくなり、日本人駐在員が減ることが予想されています。一説によれば、今後1~2年で日本人駐在員が2~3割減るとも言われています。

 おそらく、日本のシンガポール在住企業でも一部のポストを除き「現地化」され、日本からZoom等を使って遠隔でマネージするというスタイルが定着するのではないでしょうか。旅行会社にとっての良い面は、駐在需要が減るということは出張需要は増える可能性があるかもしれないということでしょうか。

 いずれにしろ、コロナがシンガポールにも不景気をもたらし、外国人の雇用が失われ、さらには、今後の企業の海外拠点戦略にも影響を与えるという結果になっています。コロナは、皮肉にも歴史的な大きな転換点になると思います。

4.鎖国化?それとも引き続きボーダレス化?

 このシンガポール政府のビザの厳格化は、すぐに変わることはないでしょうし、もしかしたら今後世界は鎖国化の方向に向かうのかもしれません。

 一方でシンガポール政府は、2021年9月末までに全国民にコロナワクチンを打つと表明しています。これは集団免疫を獲得し、海外からウィルスが持ち込まれても市中で拡大させないという意図なので、国境を早期に開けようとするでしょう。

 当面は、鎖国化 vs ボーダレス化のせめぎ合いが続くのかもしれないですね。シンガポールだけではなく、外国人が占める割合が高い国、アメリカやヨーロッパなどがどのような政策を取っていくかも注目すべき事柄だと思います。私個人としては、制限なくどこへでも行きたいのでボーダレス化してほしいですが、国家運営とも重なった難しい問題であることを痛感させられます。

 ワクチンの接種とともに国境は開いて、上記の懸念が杞憂に終わることを期待していますが、このような視点を持って日本や海外の国々を見てみるのも面白いことですね。

 コロナ禍の厳しい中ですが、お互いに頑張っていきましょう!!