「危機を無駄にするな」-世界の観光産業の今が分かるコラム
前編集長の松本が不定期で寄稿するこのコラム、初回をご覧いただきフィードバックをくださった皆様ありがとうございました。今回も海外メディアを通して見えてくるグローバルな観光産業のトレンドや気付きについて書いていきます。(Photo by Markus Winkler on Unsplash)
別の場所で昨日、往来再開に向けた歩みを整理するコラムを公開しましたので、今回こちらでは業界誌のコンテンツらしく、メッセージ性のある記事をいくつか取り上げたいと思います。どのようなメッセージかというと、コロナ禍はもう起きてしまったのだからむしろそれを奇貨とするべき、「危機を無駄にするな(never waste a crisis)」というものです。
例えば航空系メディアSimple Flyingの記事では、このような状況だからこそ実現できることとして、航空会社が増えすぎて過当競争となっている欧州航空市場では「いくつかの航空会社はこの危機を乗り越えられないだろうし、統合も大きな流れとなる」とするルフトハンザ・ドイツ航空CEOの言葉を紹介したほか、経営効率の改善や環境負荷の軽減も取り組むべき課題として挙げています。
欧州の航空会社の再編はKLMオランダ航空のCEOも予測しており、これまでの10年ほどで米系航空会社の間に起きたようなことが起きるだろうとコメントされています。また、有料媒体ですがSkiftも、「大手ホテルチェーンが成長する過程で肥大化してきた経営層や組織のあり方を見直す好機となる」という記事を掲載しています。このなかでは、そうして抜本的な見直しをすることでこそ宿泊業界として次世代の優秀な人材を確保できるようになるとも書かれており、これは宿泊に限らず観光産業全体に言えることではないかと思います。
さらに、Corporate Travel Communityの記事では、旅行テクノロジー分野の起業家の意見として、「2021年の旅行者数が2019年比で75%減となったとしても10億人の顧客が存在する。これは他の産業からすれば非常に大きな数であるわけだから減少を嘆くのはやめて、残った市場のなかで自らのシェアを確保することに注力すべきだ」と記し、旅行業においてもテクノロジーを活用したリモデルに踏み切る必要があり、コロナ禍でそうするための時間もある、と指摘しています。
この提言は、収入が絶たれたなかでなんとかしのいでいる事業者にとっていかにも「言うは易し」の感がありますが、それでも「そうしなければ逆にそれを実現した競合他社に対し、コストベースでもニューノーマル下でのサービス提供能力でも劣後するだろう」という主張に反論の余地を見出だすことは困難です。
危機をいかにして好機とするか、という具体論については色々な考え方があるかと思いますが、海外メディアでは観光産業のプレーヤーたちが積み重ねているあの手この手の工夫が沢山紹介されています。次回はそうした事例をいくつかご紹介したいと思います。(松本)