【コロナに負けず】LGBTQ市場の可能性-アウト・ジャパン取締役会長の小泉氏

コロナ禍の今こそLGBTQへの取り組みを
旅行需要の回復速度に期待

小泉氏(写真提供:アウト・ジャパン)  新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で落ち込む旅行需要の早期回復が期待されるのが、LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クイア)市場だ。2001年の9.11のときもLGBTQの旅行需要がいち早く戻ったというが、コロナ禍のなかでも旅行意欲は高い。では、観光業界はLGBTQ市場にどう向き合えばよいのか。IGLTA(国際LGBTQ+旅行協会)のアジアアンバサダーで、LGBTQ研修などを請け負うアウト・ジャパン取締役会長とLGBTQ向けランドオペレーターのSKトラベルコンサルティング代表取締役社長を務める小泉伸太郎氏に、市場の特徴や今後の見通しを聞いた。インタビューは8月12日に実施した。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

まずは、コロナ前のLGBTQ市場について教えてください

小泉伸太郎氏(以下敬称略) 国際旅行において、ゲイとレズビアンの旅行者が占める割合は全体の10%にあたる約7000万人と言われている。その市場規模は約2020億米ドル(約22兆円)と試算されており、大きな市場だ。

 LGBTQの旅行者は、差別や暴力を受けることなく安心して過ごせる「LGBTQフレンドリー」な旅行を望み、同じ場所を繰り返し訪れる傾向がある。欧米のLGBTQフレンドリーを掲げる都市では、毎年1億米ドル(約106億円)以上の経済効果を得ている。

 19年に米国のLGBTQ調査会社が実施した意識調査によれば、米国におけるLGBTQの結婚率はゲイで49%、レズビアンで56%、トランスジェンダーで44%。LGBTQは共働きをするため可処分所得も高く、結婚式や新婚旅行の需要が高い。また、近年は子供がいる同性婚の家庭が増えており、ゲイは14%、レズビアンは31%、トランスジェンダーは32%となっている。このため、今後は家族旅行に注目が集まると思っており、実際に海外では需要が増えつつある。

LGBTQの旅行市場は事件や疫病などの際、どのように動くとお考えですか?

小泉 当時はLGBTQビジネスを始めていなかったので先駆者から聞いた話だが、9.11で旅行需要が冷え込むなか、最初に旅行を始めたのはLGBTQだったそうだ。悲しいことではあるが、LGBTQは日々、ヘイトクライム(憎悪犯罪)を受ける恐れと隣り合わせで生きているという現実がある。それゆえ、9.11の後も、多少の不安はありつつも、早く愛するニューヨークに飛んで行きたいという気持ちを行動に移せたのではないか。また、80〜90年代にはエイズ禍も経験しており、未知のウイルス感染症に対しても冷静に、医学的な見地からの対処の仕方を見極め、適切に予防に努めながら、必要以上に恐れることはないとわかれば、あとは普段通りの生活を送るという心構えができていると思われる。

 自らをLGBTQと自覚しながらも周囲に隠している人は多い。そういう人が旅行に行くことで、本来の自分を表現し、似たような境遇の友人と会って楽しみ、日ごろのストレスを発散する。普段とは違う土地で「自分自身でありたい」と思う意識が強いのだと思う。