基幹産業の誇り持って交流を死守-JATA、会員の事業存続を最重視

JATAロゴ

 日本旅行業協会(JATA)が3月12日に開催した定例会見でJATA理事・事務局長の越智良典氏は、新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大によって旅行需要にも大きな影響が出るなか、観光はこれからの日本社会を支える基幹産業であり、感染を防止するために旅行を止めて社会が立ち行かなくなっては意味がなく、旅行業界は「ダメージやリスクをコントロールし安全安心を確保しながら、プロとして何ができるかを研究し続ける」べきであると訴えた。

 越智氏の発言は、一般メディアなどで「観光に偏りすぎた弊害が出ている」「観光が厄介者のような感じ」の取り上げられ方がされていることを受けたもの。これに対して越智氏は、人口減少のなかで「地域経済は誘客でしか成り立たないために観光立国が成長戦略になった。終息した時に観光に代わるものがあるのか」と強く非難した。

 越智氏によると、観光の日本経済への貢献度は、2017年で直接消費額が27.4兆円、波及効果と含めれば55.2兆円に達した。インバウンドはその1割程度で、「全体の観光が止まってしまえば55兆円の金が動かなくなる。12ヶ月で割れば4兆円くらい。あらゆるものに影響が出ていく」と強調。今回の新型コロナウィルスに関連した国会議員と意見交換のなかで、「(地元産の)メロンが売れなくなったと思ったらホテルに客が来ないからだった」という声も聞かれたという。

 そしてこうした情報を列挙したうえで越智氏は、「逆にいうと観光産業はそれだけ基幹産業になっているということ。我々がおたおたしていてはだめだ」と指摘。「(基幹産業としての)自信と誇りをもって立ち向かわなければ地域経済が崩壊する」と奮起を呼びかけた。

「過去に例ない」非常事態、経営者向け勉強会も

 JATAとしては、2月12日に対策室を立ち上げて、2月18日、3月3日と隔週で対策部会も開催。ウェブサイトでの情報発信や影響の把握、勤務体制や取消料、修学旅行の対応、社員や顧客に感染者が出た場合の対応策などについて情報収集や議論を進めている。越智氏によると、「現地の判断でお客様を止められたり病院に入れられたり色々なトラブルが起きているのは事実」であるといい、「それらを含めてどう動いていくかを話している」ところだ。

 また、需要減退に伴って経営への影響も大きくなるなか、越智氏は「全方面売るものがなにもない、(SARSや新型インフルエンザと比べても)ここまでの非常事態は過去に例がない」とし、「いかに会社を継続してつぶさないようにするかが第一」と言明。そして、現在は感染拡大を防ぐだけではなく企業を存続する大事な時期であり、資金繰りの支援や雇用調整助成金の対象拡大などの取り組みを進めていると語った。

 支援策のなかでは、風の旅行社代表取締役の原優二氏を講師に招いて経営者向けの勉強会を東京で実施。さらに名古屋、大阪、福岡での開催も予定している。また、雇用調整助成金については、現在は助成の割合が北海道のみ大手で3分の2、中小企業で5分の4、それ以外の地域は大手が2分の1、中小が3分の2となっているところ、影響は地域に関係なく起きていることから一律での割合引き上げを働きかけているという。

 このほかJATAの主催事業では、3月15日の東京と仙台での国家試験は中止し、3月24日までは定期研修なども延期。一方、3月25日以降の研修は、開催日までの4日間について体温測定の結果の提出を求めるなど工夫をしながら開催していく予定。また、3月16日には旅行会社30社が参加する「JATA旅行・観光業界就職セミナー」も開催する予定で、現時点で700名を超える学生から申し込みを受けているという。

 さらに、終息後のリカバリーキャンペーンに向けた準備も進めているが、「いつかわからないリカバリーキャンペーンを待っていてもその間につぶれてしまう。ゴールデンウィーク前に旅行を楽しんでもらえる状況を作らないと間に合わない」とコメント。そして、「電気はある、電車も走っている、ホテルも旅館も営業している、いないのはお客様だけ。そういう状態で何ができるか」と語り、旅行会社としてサプライヤーの感染症対策の状況をヒアリングするなどしながら、消費者に旅行の可能性を提案していってほしいと呼びかけた。