もう1つの年頭所感-平成最後の田川氏新春インタビュー(後)
JATA年頭所感にないテーマを中心に
後編は旅行会社の存亡、自身の10年後など
田川 最も必要なのは「シナリオを書く力」だ。それは消費者の旅行に対する意欲を喚起し、実際に旅行を楽しんでもらうまでの流れを…といった技術的なものではなく、「自分を語る力」とでも言い換えることができる。「私は旅行でこんなことを実現したい」と言う思いをシナリオや物語の形で語り、世の中に提示するためには、旅行や自分が好きなことだけではないさまざまな経験を積んで、人間力を養う必要がある。自らを語れない人間が造る旅行では人を惹きつけられない。
だからといって必ずしも、“旅行好き”でなければその仕事が務まらないわけではない。勿論、旅行が嫌いでは駄目だし、根幹の部分では旅行好きであってほしいが、単に旅行が好きなだけや、時刻表を偏愛しているだけのような人材は要らない。何度も述べていることだが、観光産業は裾野が極めて広い。そして英語に「トラベル&ツーリズム」という言い方があるように、我々が関わる世界は「トラベル」だけがすべてではない。ツーリズムは旅行業や運輸業、宿泊業などトラベルに直結する産業の枠を超えて、広範な分野に広がっている。
私もJTBに入社した際には「トラベル」だけのために入ったわけではなかった。先程話したように、70年の大阪万博で添乗員たちが多くの人々を見事に動かしているに姿に感動し、旅行会社ではない「人を動かす会社」に入ったつもりだ。その結果、入社後には「杜の賑い」など多くの人を動かすイベントの立ち上げに関わることができた。これからの時代を担う若者にも、広い視野を持ってこの世界に入ってきてほしい。
そのほかには基本的な能力として、コミュニケーション力を求める。この業界は、まずは「他人のお世話をしたい」というホスピタリティの原点とも言える気持ちが不可欠で、人と話し、人をまとめることができてナンボの世界だ。その上でさらに「シナリオを書く力」を持ってほしいと考えている。
田川 現在は日本エコツーリズム協会の会長なども引き受けているが、各地で開催される全国大会では、日本の自然に密着した文化の強さや素晴らしさを知る機会が多い。エコツーリズムの意義や魅力を日本でも根付かせるために、10年後も何らかの形で取り組みに関わっていると思う。これからは自然と融合できない人間の営みは減らさなくてはいけない時代だ。そうした世界の潮流に沿って、エコツーリズムは存在している。
だから将来を担う若者にも、もっとエコツーリズムに触れてみてほしい。多くの日本人にとって京都が、ふとした時に行きたくなる場所である理由の1つには、修学旅行での経験があると思う。修学旅行で感じた京都の魅力が、若者の心には刷り込まれている。同様に、若いうちにエコツーリズムに触れ、自然の魅力や大切さを感じ取ってほしい。10年後もそのような活動に携わっていたいと思う。