インバウンド×デジタルの可能性探る-IDMセミナー盛況、ピッチイベントも
一般社団法人インバウンド・デジタルマーケティング協議会(IDM)が12月13日、東京で年末セミナーを開催した。訪日外客数が3000万人を突破するなどますます成長を続けているなかでも、例えば地方へのFIT送客など「デジタル」を活用可能なテーマは幅広い。セミナー冒頭で挨拶したエクスポート・ジャパン代表取締役でIDM理事長の高岡謙二氏は、「デジタルマーケティングは互いの強みを組み合わせ、コラボレーションを通し外国人旅行者へのサービス提供がしやすい」と語り、また基調演説ではWILLER代表取締役社長の村瀬茂高氏が「Eastern Hokkaido Nature Pass 北海道ネイチャーパス」の取り組みを紹介し、さらにパネルディスカッションとピッチイベントも開催されるなど多様な可能性が議論された。
旧来型旅行モデルから個人向けサービスへ
村瀬氏の基調講演のテーマは「テクノロジーによってインバウンドの移動はどう変わっていくか」。WILLERとしては、15年前に高速バス事業を軸として訪日向けの多言語予約システムを構築し、バスの写真や利用方法、発着時間などについての細かい説明も掲載することで「移動の見える化をはかってきた」といい、さらに現在はフェリーやホテル、レストランなども扱い、特に交通についてはバス会社93社、フェリー会社37社のチケットを同一方法で購入・乗車ができるようになり、現在は訪日外国人だけで年間約15万人の利用があるという。
また、「必要のある所に交通を」という社是のもと、現在は着地型旅行「Eastern Hokkaido Nature Pass 北海道ネイチャーパス」の販売にも取り組んでいる。その名の通り釧路や知床、摩周湖や阿寒湖、冬の流氷といった魅力を有する道東へ送客するものだが、「観光地へのアクセスが不便で、レンタカーもすべての旅行者が利用できるわけではない。さらに現地の旅行販売スタイルも昔ながらの日本人向け団体旅行モデルが中心で、国内外の個人旅行客に対応できるホテルや店などが不足し、個人客向けのインフラが追い付いていない」といった課題があるという。
北海道ネイチャーパスでは、こうした課題に対して釧網本線利用による「JR釧路駅~網走駅間フリーパス」、知床・摩周湖を周遊する「知床探検バス」、アイヌ文化の体験や、同社のレストランバスなどのアトラクションなどを同社サイト内でワンストップで購入できるようにし、チケットやクーポンはアプリを通して利用可能。9月は291人の利用者があり、うち外国人客も10%いたという。なお、飲食店や宿など地元業者との連携も重視しており、サイト内で事業者の体験イベントやサービス内容を紹介しているほか、クーポンなども提供するなどして地域全体のプロモーションを実施しているという。
このほか、WILLERでは現在シンガポール、ベトナム、台湾にグループ会社を設立し、各地で観光バスやタクシーなどの交通事業を運営しているが、シンガポールでは19年2月から試験的に自動運転車による観光サービスの提供を開始する計画で、「レンタカーの自動運転化は遠い話ではない。日本のリゾートでも運用可能なツールとなり得ると睨んでいる」という。
盛り上がるアクティビティ業界にも焦点
続いて催されたパネルディスカッションでは、グローバルで注目が高まっている分野である現地発着ツアーやアクティビティをテーマに設定。Voyagin代表取締役CEOの高橋理志氏、ライブラ代表取締役の鈴木康裕氏、エクスペディアでローカルエキスパートを務めるジョシュ・ブラウン氏が登壇、IDM副理事長でMATCHA代表取締役の青木優氏がモデレータを務めて「インバウンドアクティビティの最前線」について意見を交わした。
登壇者のうちVoyaginとエクスペディアは様々なツアーなどをウェブサイト上で予約可能にする「プラットフォーマー」、対してライブラはマジカルトリップのブランドで実際のツアーを提供する「サプライヤー」の立場だが、Voyaginの高橋氏によるとテーマパークチケットなど独自性の低い商材は価格競争に陥りやすいことから、最近では例えば有名寿司店「すきやばし次郎」と手を組み同店の貸切営業を組み込んだツアーなど、サプライヤー側に近い取り組みも開始しているという。また髙橋氏は、そうした取り組みをするうえでは協業する店側のニーズに寄り添うことが重要で、すきやばし次郎であれば香水を付けないなど「店に嫌がられることを徹底的に排除」していると工夫を語った。
このほかライブラの鈴木氏は、自ら旅行者を受け入れて商品開発を進めていくなかでの手応えを語りつつ、「満足度を維持しながら在庫を増やすのが難しい」と言及。またブラウン氏は、エクスペディアでホテルや航空券を購入したユーザーにアクティビティを提案する策を紹介し、ホテルなどの決済画面への表示や同時購入時の割引のほか、ホテルのチェックアウト日から3日間のユーザーにメールを送る仕組みも用意しているという。
新たなインバウンドのアイデアも提案
さらに「業界への新規参入ピッチ」として、新たな着眼点によるインバウンド商品のプレゼンテーションもおこなわれた。今回挑戦者としてプレゼンテーションしたのはミトコンドリア代表取締役社長の緑川岳志氏、UrDoc(ユアドク)エンジニアの中村優氏、BetterSpace代表取締役の中村和真氏の3名。
緑川氏は石垣島の観光地としての将来性とポテンシャルの高さを説明したうえで、不動産物件の購入を、ユアドク中村氏は訪日客向の現役ドクターが提供する多言語医療相談アプリを提案。さらにBetterSpace中村氏は「富裕層は混雑を好まない。ヘリコプターなら軽井沢まで45分、箱根まで30分と手軽で、移動中も富士山や芦ノ湖を望むといった体験もできる」と実例を挙げながら、シェアリングによりヘリコプターを移動の足とするアイデアを発表し、会場の参加者の興味を惹きつけていた。
閉会の辞として、やまとごころ代表取締役・IDM理事の村山慶輔氏は「今後も様々な地域・業種での取り組みを通じ、インバウンドのさらなる活性化を」と呼びかけた。