時間外労働はいかに削減すべきか-座談会レポート(後・匿名編)

  • 2018年11月12日

違反すれば刑事罰、訴訟・賃金倍返しも
弁護士と大手6社による「本音」の意見交換

短期間に多くの対策で「ひずみ」が
意識改革のその先にも問題は山積

谷口氏  多くの社員が会社のノートパソコンを持ち帰り、“自主的に”仕事をしていると見られる問題については、弁護士の谷口和寛氏も発言し「持ち帰りを管理することは難しいが、基本的にはオフィスの内外や勤務時間の内外を問わず、会社は社員が働いた分の賃金を払うことが大原則」と解説。もしも裁判に発展した際については「社員側は『○時○分にクライアントにメールを送った。この時間までは事業所外で働いた』と発信時刻を証拠に主張すると思う。そうすると会社側は反論に窮することになる」との見方を示し、具体的には「会社側が『この時間に送る必要は無い』とはっきり言えるなら良いが、(ある一定の時間の)全メールを確認して反論をしていくのは苦しい」と述べた。

 あるパネリストの「メールは送っておらず、パソコンのログインとログアウトの時間だけが残っている場合などは」との質問に対しては、「社員側が、作業したファイルのプロパティで最終更新時間を示すとともに、オフィス内での作業に使った同じファイルと比較して『その差の時間分はオフィス外で働いた』などと主張したりできるのであればともかく、具体的な資料などがないのであれば反論はあり得る」と回答。会社側が敗訴した場合についても「言い分通りに賃金を払うことにはならないケースが多い」と解説したものの、最終的に貸与した機器の持ち帰りについては「一定のリスクを抱えることになるので、禁止するのであれば徹底する必要がある」と総括した。

 複数のパネリストが開始を伝えた、管理職の人事評価における働き方改革関連項目の追加については、あるパネリストが「全体におけるウェイトは低くても、上位職者に少しでも意識してもらえるようにしたい」と期待を込めたことを説明。しかし他のパネリストは「現在の上位職者は『長時間労働の結果としての成功体験』を持つ人が多い。まずは意識を変えることが大事」と指摘した。ただしそのパネリストの会社でも「現時点では目標を数値化したりはしていない。あくまでも意識改革のための施策の1つにとどまっている」という。

 この日はモデレーターとパネリストを合わせて6社のさまざまな取り組みが披露されたものの、あるパネリストは「短期間に多くの対策を始めたことでひずみが生まれている。今後も試行錯誤が続く」とコメント。他のパネリストは、大手企業における職種は多種多様であることから、時間外労働の削減の度合いに開きが生まれていることを指摘した。そのほかには「上位職者は部下をしっかり管理しているつもりでも、部下は『コミュニケーションや説明が足りない』と感じていることがアンケートで可視化されている。意識に乖離がある」と伝えたパネリストもおり、管理職者の意識改革のその先にも、多くの課題が横たわることを改めて確認したかたちとなった。

山田氏  モデレーターを務めた東武トップツアーズ執行役員能力開発室長の山田徹氏は、セミナーの締め括りにあたり「法改正に加えて、若い世代の価値観や環境の変化もあり、時間外労働の削減は待ったなしの課題」と再び強調。その上で「人事担当者だけでなく、現場の管理職、営業職を含むすべてのスタッフが同じ思いで、そして業界全体が思いで取り組まないと未来は開けない」と呼びかけた。

 終了後に本誌の取材に応じた谷口氏は「働き方改革は大手・中小を問わず、各企業がこつこつと時間をかけて、しっかり管理する体制を強化することが必要」と総括。あわせて「現在は未払賃金の請求訴訟がある意味で “ブーム”のようになっていて、社員側に有利な結論が出る可能性が高い。気軽に労働審判を申し立てるケースなども見られるので、今後は各社で一層の労働時間管理が進むとは思う」との見方を示した。