クルーズから宇宙旅行まで-東大でグローバルヘルス合同学会
渡航医学会など3学会が最新の研究発表
キリンは「プラズマ乳酸菌」をアピール
医薬品以外でも免疫力強化をプラズマ乳酸菌が持つ可能性とは キリンホールディングスとの共催による3日目のランチョンセミナー「渡航者医療における課題と新しいアプローチについて」では、日本渡航医学会理事長で川崎医科大学小児科学主任教授の尾内一信氏と、キリン事業創造部主査の藤原大介氏の2氏が講演。前半は尾内氏が日本の渡航者医療の現況とその課題について解説し、後半は藤原氏が、同社グループが商品展開する「プラズマ乳酸菌」が海外旅行者にもたらすメリットについてアピールした。
尾内氏は、日本人の海外渡航の頻度が年々上昇して、渡航中に細菌性の下痢やさまざまなウイルス感染症に罹患する確率が高まっている一方、「渡航前の受診率やワクチン接種率は依然として低いレベルにある」と指摘。他の先進国に比べて日本でのワクチンの承認が遅い「ワクチン・ラグ」の状況は改善しつつあるものの、引き続き渡航者にさらなる情報を提供し、専門の「トラベルクリニック」を普及させる必要性を強調した。あわせてワクチン接種以外の、広範に免疫力を高める手法の登場にも期待を示した。
尾内氏の講演を受けて藤原氏は、キリングループによるプラズマ乳酸菌研究について発表。プラズマ乳酸菌とはキリン、小岩井乳業、協和発酵バイオのグループ3社が共同で研究している、免疫細胞の活性効果のある乳酸菌で、すでに風邪・インフルエンザ様症状のリスク低減や、ロタウイルス感染症状の緩和などについて効果を確認しているという。
藤原氏は乳酸菌が、ワクチンや抗ウイルス剤などの医薬品と比べて汎用性が高く、効果がマイルドで身体への負担が少ないことから「免疫力を高める手段として注目を集めている」と説明。「単なる整腸剤ではなく、新たな可能性を持つ素材」として研究を進めた結果、同社が感染防御機能を担うプラズマサイトイド樹状細胞の活性化機能をもつ乳酸菌を世界で初めて発見し、動物実験とヒト試験で風邪やインフルエンザの防御効果を確認して商品化に至ったことを紹介した。
講演の終了後は、座長を務めた同学会副理事長の濱田篤郎氏と尾内氏、藤原氏によるディスカッションを実施した。藤原氏は、乳酸菌は通常1日から2日程度で排泄されるため、効果を得るには毎日飲み続ける必要があるものの、1日あたりの費用は100円程度で済むことを強調。濱田氏は「健康食品による予防は日本人が好む手法。ヒト試験のデータはまだまだ限られているが、今後も旅行者や出張者でエビデンスを積み上げていけば」と述べ、尾内氏も「予防の手段としてあってもいいのでは」と肯定的な見方を示した。
終了後に本誌の取材に応えた藤原氏は、旅行会社との協働による認知度向上などに関心を示し、「例えばパッケージツアーの参加者にお試しいただくなどして、効果を実感していただければ」と語った。次回の日本渡航医学会学術集会は今年の7月21日と22日に、愛媛県の松山市総合コミュニティセンターで、「さあ、海外へ! ~地方からも発信する渡航医学の意義~」をテーマに開催する。
※訂正案内(編集部 2018年1月25日16時10分)
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