海外医療通信2017年2月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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・海外感染症流行情報2017年2月

1)中国で鳥インフルエンザH7N9型の患者数が増加
中国の沿岸部では毎年冬に鳥インフルエンザH7N9型の流行がみられています。今期は5回目の流行になりますが、今までで最も患者数が多く、1月中旬から2月中旬までに304人の患者が確認されました(WHO 2017-2-20)。地域別では江蘇省、浙江省、広東省などで多く、生きた家禽との接触が原因とみられています。広東省や雲南省では患者から家族が感染したケースも報告されていますが、ヒトからヒトへの持続的な感染はおきていません。なお、WHOは最近のH7N9型ウイルス流行に関する解析結果を報告しており、ウイルスにヒトからヒトに感染しやすい変異はおきてはいないと報告しています(WHO 2017-2-10)。
流行地域に滞在中は生きた家禽の販売されている市場などに立ち入らないようにしましょう。

2)アジアでのデング熱流行状況
今年は2月までにマレーシアで9000人、シンガポールで300人のデング熱患者が確認されており、この数は例年よりも少なくなっています(WHO西太平洋2017-2-14)。一方、スリランカでは今年になり1000人以上のデング熱患者が発生しており、例年よりも患者数が多くなっています(ProMED 2017-1-30)。

3)アジア太平洋地域での麻疹の流行
WHO西太平洋事務局の発表によると、今年はモンゴル、マレーシア、ニュージーランド、シンガポールなどで麻疹の患者数が増えています(WHO西太平洋2017-1)。人口100万人当たりの患者数は日本が1.2人ですが、いずれの国も20人以上になっています。ニュージーランドでは麻疹ワクチンの接種率が低い地域があり、とくに先住民のマオリ族の接種率が低い模様です(ProMED 2017-1-30)。
麻疹は空気感染する病気で、ワクチンが最も有効な予防方法です。日本では20歳代後半から30歳代の年代で、麻疹の抵抗力の弱いことが明らかになっていますが、この年齢層が流行国に滞在する際には、麻疹ワクチンの追加接種を受けておくことを推奨します。

4)ブラジルでの黄熱流行
ブラジル南部で昨年12月から黄熱が流行しています。2月中旬までに患者数は1,336人(疑いを含む)にのぼり、このうち215人が死亡しました(米州保健機構2017-2-23)。これは1980年以来の大きな規模の流行になっています。地域別ではミナス・ジェライス州(1,008人)やエスプリト・サントス州(177人)などで患者発生が多く、リオデジャネイロやサンパウロなど都市部での患者発生はみられていません。流行は2月中旬になり鎮静化していますが、ブラジルでは2月末にカーニバルで多くの人が移動するため、今後暫くは警戒が必要です。
黄熱の流行地域やその近隣に滞在する際にはワクチン接種を受けることを推奨します。黄熱ワクチンは1回の接種で生涯有効とされていますが、米国CDCはブラジルの流行地域に滞在する場合、最終接種から10年以上経過している者には追加接種を受けるよう勧告しています(米国CDC Traveler’s Health HP 2017-2-17)。

5)ボリビア入国時の黄熱ワクチン接種
ボリビアでは以前から、黄熱流行国からの入国者に黄熱ワクチン接種証明書の提出を求める措置をとってきました。この措置は実際に行われてきませんでしたが、ボリビア政府は今年の3月からそれを実行する旨を発表しました(在ボリビア日本大使館2017-2-10)。しかしながら、その後、在ボリビア日本大使館がボリビア政府に確認したところ、ワクチン接種は入国にあたり義務付けているのではなく、推奨しているとのことです(在ボリビア日本大使館2017-2-20)。今回の措置は、首都ラパスの近郊にあるCaranavi(標高900m)で1月にヨーロッパ人旅行者が黄熱に罹患したことに関連しています(米州保健機関 2017-2-16)。ボリビアは黄熱の流行国であり、高地以外に滞在する場合、短期であってもワクチン接種を受けておくことを推奨します。

6)中南米でのジカウイルス感染症の流行状況
WHOの報告によればジカウイルス感染症の流行地域に大きな変化はありません(WHO 2017-2-9)。中南米では雨季を迎えている国が多く、患者数は増加傾向にあります。南米では毎週6000人以上の患者が発生しており、とくにブラジルでの患者発生が多くなっています。

 
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2017年1月9日~2017年2月12日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2017.html

1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢16例、腸管出血性大腸菌感染症5例、腸・パラチフス1例、アメーバ赤痢7例、A型肝炎5例が報告されています。細菌性赤痢は前月の4例から大幅に増加しており、感染国としてはフィリピン(3例)や北アフリカのエジプト(2例)、モロッコ(2例)が多くなっています。なお、腸管出血性大腸菌感染症も3例がエジプトで感染しており、エジプトに滞在する際には飲食物の注意を十分にする必要があります。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が18例で、前月(13例)よりやや増加しました。感染国はフィリピン(6例)、インドネシア(3例)が多くなっています。マラリアは3例で、うち2例はアフリカ、1例はインドネシアでの感染でした。チクングニア熱は1例(インドネシアでの感染)、ジカウイルス感染症は1例(ベトナムでの感染)が報告されています。

3)その他の感染症:麻疹の輸入例が5例報告されており、感染国はインドネシア3例、ニュージーランド1例、ミャンマー1例となっています。風疹は2例で、感染国はインドネシア1例、フィリピン1例でした。また、ラオスでツツガムシ病に感染した事例が報告されました。

 
・今月の海外医療トピックス
海外への携行医薬品
前回の海外医療トピックスでご紹介した国際渡航医学会のTRAVEL MEDICINE NEWS25周年の記念集には、“専門家に聞く”というコラムで興味深い記事が掲載されています。
長期に海外へ滞在する場合、渡航先で慢性疾患等の治療をどのように継続すべきか、薬剤入手の可否や法的規制などが関係します。一般的には渡航先の法令に従い、主治医の診断書を持参することになりますが、“主治医がサインした英文書類”、“個人使用の目的で転売目的でない(大量でない)こと”、“商品名だけでなく一般名による記載”などが必要とされています。悪性腫瘍に対する疼痛コントロールで麻薬などを使用している場合は、国際麻薬統制委員会(INCB)のガイドラインなども参考になるようです。
ちなみに米国が禁酒法の時代、英国のチャーチル首相が訪米した際、アルコールが手放せなかったため、主治医より“気つけ薬”との書類を持参したそうです。現在、アルコールが禁止されているイスラム圏で同様のことをした場合、たとえ医師の診断書があったとしても処罰の対象からは免れないと思われます。(兼任講師 古賀才博)
参考:国際麻薬統制委員会(INCB)のガイドライン
https://www.incb.org/documents/Psychotropics/guidelines/travel-regulations/Intl_guidelines_travell_study/12-57111_ENG_Ebook.pdf

 
・渡航者医療センターからのお知らせ
第22回海外勤務者健康管理研修会(海外勤務者健康管理全国協議会主催)
今回は海外勤務者の感染症や過重労働対策に関する講演があります。
・日時:2017年3月18日(土曜) 午後2時半~午後4時半
・場所:エル・おおさか 視聴覚室(大阪市中央区) 
・プログラムや申込み方法は下記をご参照ください。
http://www.sigma-k4.jp/img/kenshu_22.pdf