キーパーソン:JATA理事・事務局長の越智良典氏(前)
旅行会社は「確かな情報」でテロに対抗
安心と安全を確保し、確実なツアー催行を
─他社と違う判断を続けることに不安はありませんでしたか
越智 02年にバリ島で爆弾テロ事件が発生した時には、他社は1週間から2週間程度ツアーをキャンセルしたが、KNTは催行した。CRはテロ組織の動向や地区ごとの危機管理体制などに限らず、その土地の伝統的な価値観などまで総合的に分析した上で、行動の仕方を示してくれる。最終的に、リゾートホテルが集まるエリア内であれば安全を確保できると判断し、ツアーの催行を決定すると、全国の支店から「JTBが中止しているのに大丈夫か」と問い合わせが殺到した。どの会社も最大手に倣うのが当たり前の時代だ。
勿論、お客様に何かあれば大問題だし、自分も首が飛ぶ。非常に大きな責任が伴ったが、それでも「確かな情報をもとに判断した」と自信をもってお客様を送り出し、ご満足いただくことができた。他社に倣っているだけではノウハウは磨かれない。その後もCRだけに頼らず、現地の日本大使館にも電話して情報を入手するなど手を尽くした上で、テロの可能性がある都市では郊外の現地資本のホテルに泊まる、人が多い観光地では長居を避けるといった試行錯誤を続けた。その甲斐もあってか、しばらく経つとJTBにも「リスク管理だけはKNTにかなわない」と言われるようになった。
当時はJTBの決定に横並びする雰囲気があった時代だったが、しかしどの旅行会社も同じ判断をしなくてはいけないようでは、中小企業などは困ってしまう。そこで03年にはクラブツーリズムやワールド航空サービス、ユーラシア旅行社などの8社で、情報交換のための「フロンティアツアー研究会」を立ち上げた。「危なそうだから止める」という発想だけでは、旅行会社の価値は高められない。外務省がレベル1や2の危険情報を発出していて一見危なそうな国でも、旅行会社が充分な目利きをして、旅行会社ならではの真価を発揮すれば、安全にお客様を送り出すことはできる。
これまでの交渉の成果もあり、外務省にもレベル2までの地域については「プロの集団である旅行会社がしっかりとした安全対策を取っているのなら、ツアーを催行しても構わない」と理解を示していただいている。例えば、ごく稀にしかその地域へのツアーを催行しない会社では心もとなくても、しっかりとリスク対策に努め、現地に信頼できるスタッフも常駐しているような旅行会社であれば、ツアーの安全度は全く違う。
─15年には外務省の危険レベルの表記が改定されましたが、旅行会社への影響は
越智 改定のための検討会には私も参加させていただいたが、最初に提示された変更案は一般の人々の海外旅行に対する意欲が減退しそうな厳しい表現だった。「渡航の是非を検討してください」から「不要不急の渡航は止めてください」に変更されたレベル2の表記などが論点になったが、危険度2でも「止めて」となると、アフリカ専門の旅行会社などは経営が危うくなる。交渉して「旅行会社が催行するツアーは話が別」といったことを外務省のウェブサイトに注記していただいていることの価値を知ってほしい。
外務省の危険情報は確かに重要だが、あくまでも一般の人々を含む、専門的な情報収集が難しい人たちに向けたものであることを理解しておく必要があると思う。
※後編は近日中に掲載します