新春トップインタビュー:観光庁長官 田村明比古氏
訪日旅行は「次元の違うステージ」へ
海外旅行にも「一定のウェイト」
─観光業における雇用環境の改善や人材育成については
田村 「観光立国」をめざすとはいえ、観光業に携わる方々の地位は必ずしも高くはなく、魅力的な就職先ともなっていない可能性があるので、改善に向け政府を挙げて取り組んでいく。そのためには労働生産性の向上が必要で、付加価値を高めることができれば賃金や定着率も上がり、優秀な人材が集まってくる。例えば旅館などでも、マルチタスク化やレベニューマネジメントなどを進めるべきだろう。しかし取り組みの進み具合には各社でばらつきがある。
「おもてなし」には人手がかかるので、単に人員を削減すればいいという話でもない。しかし素晴らしいサービスを提供する宿泊施設ではそれなりの料金を設定し、リーズナブルな価格帯の施設ではサービスを簡素化するなど、色々と方法や努力の余地があると思う。
─新たな閣僚会議が年度内に策定する中長期ビジョンについては、どう見ていますか
田村 訪日旅行はすでに「何年までに何万人」という切り口だけで進むステージには立っていない。次の段階では量とともに質も重視して、抜本的に向上させることが重要だ。首相も「キーワードは地方と消費」と仰っており、多角的な議論で目標を設定することになると思う。私自身も「何年までに何万人」という目標については考えておらず、これまでの方向性を大きく変えて「次元の違うステージ」に立ちたいと考えている。
日本には極めて多様な観光資源があり、近隣には成長著しいアジア諸国がある。リピーターの獲得に向けた観光素材の磨き上げや幅広い提案などができれば、旅行者数の増加については大きな可能性がある。しかし数値目標だけが大事なのではない。すでに課題は多く出てきており、現状のままでは今後の大きな伸びは望めない。外国人旅行者がとにかく増え続けるこの状況に対応するために、できることにはすべて取り組む、という考えだ。
─先ほど仰った「おもてなし」という言葉はお好きですか
田村 それはなかなか難しい質問で、答えは「イエス&ノー」だ。海外からの旅行者を温かく迎えるための「おもてなし」の精神は非常に重要で、それは観光業の基本だと思う。しかし観光業はすでに国際競争や地域間競争にさらされていて、スポーツでいうところの「根性論」で乗り切れるほど甘くはない。温かい心と冷徹な計算、そして高度な技術を見に付けなくてはいけない。熱いハートも必要だが、それだけでホームランは打てない。
─15年の流行語大賞には「爆買い」が選ばれました
田村 マスコミが誇張した表現を使うことに口を挟む気はないが、行政が肯定的に捉えるべき言葉ではない。一部のマスコミからコメントを求められたので応じたが、最も伝えたかった「表現が適切かどうかは議論があるが」という部分が削除されて「大変喜ばしい」と答えた部分だけが報道されていた。国を挙げた取り組みの結果、多くの旅行者が日本を訪れて沢山の消費をしていただいたことは「大変喜ばしい」と思う。