新春トップインタビュー:観光庁長官 田村明比古氏
訪日旅行は「次元の違うステージ」へ
海外旅行にも「一定のウェイト」
2015年の訪日外国人旅行者数は12月19日までに1900万人を突破し、かつては20年までの政府目標としてきた年間2000万人の達成が、早くも目前に迫ってきた。一方で今後の「観光立国」の実現に向けた課題はすでに山積しており、いずれも解決が急がれている。昨年9月に国土交通省航空局局長から観光庁長官に就任した田村明比古氏に、15年の日本の観光業を振り返っていただくとともに、16年以降の展望を伺った。
─2015年は日本の観光業にとってどのような年でしたか
田村明比古氏(以下敬称略) 15年は、1970年以来45年ぶりに日本人出国者数を訪日外国人旅行者数が上回った、エポックメイキングな年だった。日本ではかつて、観光に対する行政の軸足が海外旅行に移っていた特異な時期が20年間から30年間ほど続いたが、その後は再び訪日旅行に重心が移り、10年から20年程度を経てこのような年を迎えるに至った。
訪日旅行は好調だったが、その一方で海外旅行は順調とは言えなかった。円安の問題に加えて、政治的な緊張関係にある近隣国への旅行が回復してない。韓国については中東呼吸器症候群(MERS)、中国は大気汚染などの環境問題もあった。近隣国以外では、政情不安やテロ事件の発生なども問題化している。国内旅行に関しては、消費税増税の影響を受けた前年からは随分と回復したが、それ以前のレベルに戻っただけで、まだまだ努力が必要だと思う。
2016年の訪日旅行市場については、現在の状況が大きく変化しなければ、まだまだ伸びるだろう。しかし15年のように前年の1.5倍近くで伸び続けるとは考えにくい。今後も着実に伸びていくためには、表出しているさまざま課題に取り組まなくてはいけない。
─宿泊施設の確保など「観光立国」の実現に向けた多くの課題にどう対処しますか
田村 宿泊施設については、東京や大阪などを中心に稼働率の高いホテルが増えているが、一方で隣県には空室が見られる。また、旅館についてはまだまだの状況で、東京などでもかなりの空室がある。適切な情報を外国人旅行者に提供できる体制を構築しなくてはいけないし、各地域と協働して、ゴールデンルート以外に送客する努力も継続しなくてはいけない。
また、長期的に見れば、東京や大阪でも大幅な宿泊施設の増加が予定されているわけではない。現時点で即効性のある対策としては「民泊」があるが、適切なルールなどが何もないまま、仲介サイトに登録される物件ばかりが増えていく実態があるので、しっかりとしたルールや方向性を早期に打ち出す必要がある。既存の業界との競争の公平化などさまざまな課題を抱えているが、厚生労働省と立ち上げた検討会では年度内にも中間的な論点整理をおこなう予定だ。
貸切バスについては、全国的に見れば必ずしも不足しているわけではないが、局地的な不足については聞いているので、営業区域の拡大やバス調達に関する情報提供などに可能な限り取り組んでいきたい。CIQ体制の拡充については年度内の緊急増員を2年連続で実施したほか、16年度もかなりの予算を要求しており、最新技術による効率化も進めている。そのほかにもWiFi環境の整備やSIMカードの普及など、可能なことにはすべて取り組む。