新局面を迎えたホールセール商品、高付加価値化の中に見えた各社の方針

  • 2014年3月27日

 「手配旅行の市場を本気で取りに行く」――。最大手、JTBワールドバケーションズが新たな領域への展開を宣言した今年は、各ホールセラーの方向性における分岐点の年になりそうだ。全体的には「シニア対応」「品質重視」の流れは変わらないが、その内容や商品構成、アプローチの仕方は各社の強みや業態によって特徴が出始めている。この数年、おこなわれてきた商品改革の姿や輪郭が鮮明となり、その違いが目に見えてきた。大手5社の今上期の方針から、商品の特徴とともに今後のホールセール商品の展開を考えてみたい。


販売店を考慮した商品展開に

・JTBワールドバケーションズ(JTBW):FITにも「期待を上回る満足」

観光はポイント制で選ぶ。「スイスハイライト8日間」では300ポイントが付いている。追加購入も可能

 ルックJTBの主流は、赤パンフレットのパッケージツアーであることに変わりはない。2010年からの商品改革をさらに進め、「品質の向上」「量の拡大」「企画力の向上」に「新たな挑戦」をテーマに加え、「期待を上回る満足」の実現と確実な成長をめざす。この“挑戦”が手配旅行市場の取り込みであり、それを担うのが「私だけの旅」と「エアホ」だ。

 「私だけの旅」は、1つのコースに1000通りの組み合わせがあるガイド付き観光や食事を参加者が選ぶ添乗員同行ツアーで、パッケージツアーとFITの狭間の客層や高級志向のFITをねらう。「エアホ」は店頭対応が可能なダイナミックパッケージで1万コースを揃える。選択肢の多さは消費者のメリットになるが、造成側には「手配上のリスクがある商品でコストもかかり、初年度は利益確保が難しい」商品(JTBW代表取締役社長・北島文幸氏)。それでも販売に踏み切ったのは、「FIT市場が伸びているなか、グループのリテーラーに商品をそろえる必要がある」からだ。

 店舗側にとっては販売機会の増加が期待できる一方、説明や手配が煩雑になる懸念もある。「どこまで商品の内容を理解できるか」「グループに多数のリテーラーのあるJTBだからこその施策」という冷静な声も聞こえ、当面はルックJTB独自の商品形態となりそうだ。

・近畿日本ツーリスト個人旅行(KNT個人):旅のプロとして勧める「提案型」へシフト

消費者にも販売側にもわかりやすいようにパンフレットも工夫。ヨーロッパでは方面ごとの最初のページで企画担当者の意図や方面の魅力、地図などを掲載

 昨年に大幅な商品改革を断行したホリデイは今年、「わかりやすく、店頭で売りやすい商品を作る」(KNT個人代表取締役社長・岡本邦夫氏)方針を強化。昨年はパッケージツアーでのアレンジなど個への対応でアピールを強めたが、今年は販売側が自信を持って勧められる提案型の商品や、南米やアフリカなど「消費者が店頭の知識を必要とする方面」のSIT的なツアーを増やしたのが特徴だ。

 こだわりを持って旅行を選ぶシニアをターゲットに、販売店がしっかり対応できる商品をつくり、わかりやすいパンフレットを展開する。数を追う廉価商品を減らすため商品数は全体的に30%減となる予定だが、高付加価値の提案型ツアーは50%増やす計画だ。

 さらに、ホリデイの改革は商品のみならず、商品造成・販売に関わるすべての部門で実施。人材育成では5年後に“My顧客”200名、“カリスマデザイナー”1000名の育成を目標とする。「顔の見えるお客様に喜ばれることで、さらに熱心に勉強するようになる。旅行業の本当の醍醐味がわかるようになる」というゴールを、商品改革とともにめざしている。

・日本旅行:ターゲット重視の品質強化と販売機会にあわせた商品構成

ターゲットにあわせた商品を展開

 日本旅行も「販売店の売りやすさ」を意識。特に、確実な販売に結びつけるための商品構成の強化が特徴的だ。「柱をぶれさせず、一つ一つ手直しを加えることが実際的な策」(執行役員海外旅行事業部長・西川隆祥氏)という。

 日本旅行では昨年に引き続き、「熟年・シニア」と「女性」の重点顧客層に専用商品でアプローチを強化。その一環として、好評のビジネスクラス・プレミアムエコノミークラス専用商品では、数の少ない上級クラスの座席をより販売できることを念頭に、東日本ではハワイ、アメリカ、欧州を増加。西日本は路線の多いアジアと欧州を揃えた。また、間際の申込みは満席で受け切れないことから、早期割引も新設定。「手配と販売の問題に対応した」という。

 また、ターゲットに「女性」を掲げるのも日本旅行の特徴であり強みだ。今年は従来のF1、F2層から幅を広げる方針で、女性層が決定権を持つハネムーンやウェディングも女性層向けのアプローチを開始。さらに母娘旅行にも視野を広げ、追加プランや特典で対応していく。「市場の多様化には動向を見極めながら商品づくりで対応する」とし、現地観光プランや現地交通・サービスの拡充などオプションの選択肢の幅を広げていく方針だ。

>>次はジャルパック、ANAセールスの方針と各社の目標人数