多様性の活用でグローバル時代を勝ち抜く-JATA経営フォーラム
女性や外国人の登用など、ダイバーシティ(多様性)への取り組みは、日本の産業界全体の課題となっている。もちろん旅行業界においても喫緊の問題であることは明らかだが、他業種に比べて遅れているといわざるを得ない。旅行商品の質の向上、価値創造産業への脱皮には多様で優秀な人材確保が不可欠とされながら、なぜ対応は進まないのか。業界として今後どのようにこの問題に向き合えばよいのか。2月に行われたJATA経営フォーラム2013の分科会Dでは、「女性・外国人の能力を活かせ!~激変するグローバル時代を勝ち抜く多様性の活かし方~」の表題のもと、他産業の例を参考にその対応策が議論された。
JTBグループ本社人事部ダイバーシティ推進室長 五十嵐潤子氏
パネラー
スプリー代表 安藤美冬氏
日本マイクロソフト執行役カスタマーサービスアンドサポート ゼネラルマネージャー 佐々木順子氏
エクスポート・ジャパン代表取締役 高岡謙二氏
▽経営や営業の現場に欠如する外国人目線
モデレーターとして、個性豊かなパネリストたちの意見を束ね、議論を進めたのはJTBグループ本社人事部ダイバーシティ推進室長の五十嵐潤子氏。冒頭「弱者救済のイメージにつながりやすい問題だが、先入観を払拭し、『ダイバーシティがいかに経営を強くするか』という論点で捉えてほしい」と会場に向けて語った五十嵐氏は、まずダイバーシティに取り組んできた自社の歴史を振り返りながら、日本の政治や企業を取り巻くダイバーシティの現状を紹介した。
ここで浮き彫りにされたのは、他の先進国に比べて取り組みの遅れている日本の企業や政治の現状だ。女性社員比率に対して女性役職者率が格段に低く、外国人に至っては役職者比率がほぼゼロに近いという旅行会社へのアンケート結果も報告された。
続くパネルディスカッションでは、パネラーたちが自身の経験をもとに熱のこもった意見を交換した。まず、「何年も課題として取り上げられることに違和感を抱く」と、ダイバーシティの進まない現状に疑問を呈したのは安藤美冬氏。大手出版社での7年間の勤務を経て自身の会社スプリーを起業し、企業と個人を結ぶ多彩な活動を行っている安藤氏は、会社員時代から今に至るまで積極的に異文化に飛び込んできた自身の経歴から「さまざまな背景を持った人と働くことで、自然と寛容になり、自由を尊重するようになり、合理的にもなる」と、多様性の重要さを訴えた。
アメリカ、フランス、台湾、中国など多国籍の社員を雇用し、外国人目線の日本紹介ウエブサイトを制作するエクスポート・ジャパンの代表を務める高岡氏は「街の看板や外国人向けの予約サイトなどから見えてくるのは、外国人目線の欠如。これは経営や営業などの現場に外国人がいないため」と分析、外国人と共に働く現場から問題を提起した。
一方、長年、IT業界で企業におけるダイバーシティ&インクルージョンの推進に携り、企業研修や講演などをおこなっている日本マイクロソフト執行役カスタマーサービスアンドサポートゼネラルマネジャーの佐々木順子氏からは、人材多様化の意義などについて基本的な見解が示された。
佐々木氏によれば、雇用側のメリットは(1)異なる価値観や視点によるイノベーションの促進、(2)多様化した市場ニーズへの対応、(3)多様で優秀な人材の確保、(4)組織やプロセスの透明度の向上の4点。「あうんの呼吸が通じなければ、万人にわかりやすいプロセスが示され、それが結果的に生産性を上げる」と語る。実際、ダイバーシティを進めた企業では明らかに業績がアップしているとし、女性役員比率の高さと業績の相関関係を示した米国のデータなどを紹介した。