JATA東北復興支援、視察や意見交換で観光振興のヒントを-いわき視察より

  • 2012年12月25日

意見交換会は3つのグループに分かれて実施  日本旅行業協会(JATA)は12月3日から4日にかけて、「東北復興支援1000人プロジェクト」と題し、会員旅行会社を中心に総勢935名の東北地方の視察旅行を実施した。JATAは今までも東北でのボランティアツアーや視察などを続けており、今回のプロジェクトも継続的な観光振興のサポートが復興支援につながるとの考えによるもの。現地視察や地元の観光関係者との意見交換会を実施し有効な商品造成や送客につなげ、業界をあげた取り組みとする。弊誌は東北6県計28コースのなかから、福島県いわき市を訪問する日帰りバスコースに同行。意見交換会を中心に観光振興につながるヒントをまとめた。


震災復興への関心根強く
旅行会社へのサポート強化も

白水阿弥陀堂。この日は20人規模のシニア層の団体の姿も  今回参加した視察ツアーは、大手総合旅行会社やメディア系、業務渡航系旅行会社など旅行会社の企画担当者や営業を中心に33名が参加。いわき市石炭化石館ほるる、国宝に指定された願成寺白水阿弥陀堂、塩屋崎灯台付近で1軒だけ津波の被害を免れた土産物屋「山六観光」を訪問。最後に、魚市場や飲食施設、土産物屋などの複合施設「いわき・ら・ら・ミュウ」で現地の観光関係者と意見交換会を実施した。

山六観光のすぐ目の前には海が広がる  意見交換会で一番注目を集めたテーマは、震災関連の視察や復興応援ツアー。いわきは原発でイメージが悪化し、一般観光客の募集はなかなか難しい状況であるとし、「一般客を集めるより、効果のある努力をしたほうが良い。ここ2、3年は視察旅行や震災復興などを学ぶスタディツアーが効果的」「今しか見られない部分もあるので、ターゲットを視察関連ツアーに絞ってやっていくべきでは」との意見が多数を占めた。

山六観光内部。壁一面に震災当初の写真が展示されている  いわき観光まちづくりビューローによると、2011年の県内観光圏別の観光客入込数のうち、いわきは前年比65.6%減の370万8000人。2012年は徐々に回復傾向にあるが、観光客数は震災前の5割から6割程度で、官公庁や企業などの震災関連の視察や、震災の現状や復興の過程などを学ぶスタディツアーがメインだという。

山六観光から徒歩数分の周辺地域。津波の被害の大きさを物語る  現在いわき市では、さまざまな観光施設が震災の記憶を次世代に伝える取り組みをおこなっている。例えば今回訪問した山六観光では、代表取締役の鈴木一好氏が観光者に震災当時の様子を写真とともに説明する機会を設定。視察日は数十名規模のシニアの団体が訪れていたが、鈴木氏が語る迫り来る津波の様子や生々しい被害の状況に、無言で聞きいっており、旅行会社からも「視察ツアーで一番心に残った」「お客様に知ってほしい」との声が聞かれた。また、いわき観光まちづくりビューローでは今年8月にいわき復興支援・観光案内所を設立し、被災地の視察や研修ツアー、学習プログラムなどの情報発信や問い合わせに対応できる体制を整えた。

 さらに、旅行商品販売促進支援事業として、20名以上の企画旅行もしくは手配旅行を対象に、旅行費用の半額をいわき市が助成する事業を実施。助成金の上限は、宿泊を伴う旅行で1人1泊当たり1万円、日帰り旅行で1人5000円だ。同ビューロー事務局次長の渡辺延博氏によると、1億円の予算分の申し込みは早々に終了。日帰りだけで7000万円から8000万円程度の利用があり、好評につき2013年度も継続する計画だ。