震災後は“つながり”求める傾向強く、ネットと店頭の役割明確に
昨年は東日本大震災が発生し、人々の意識に大きな変化をもたらした。しかし、長期に振り返ればこの10年は激動の時代であり、旅行業界においても多くの変化を経験。震災後の変化はこの10年間の変遷を経てもたらされたものだ。そこで日本旅行業協会(JATA)が開催したJATA経営フォーラム2012では旅行業界のほか、サービス業関連の異業種企業を招き、各業界で起こった変化とその対応を含め、現在の市場状況を導きだすとともに、その中での旅行業者が取るべき対応を探った。
モデレーター
財団法人日本交通公社(JTBF)会長 志賀典人氏
パネリスト
野村證券執行役員営業部門首都圏地区担当兼本店長 新井聡氏
プランタン銀座代表取締役副社長兼店長 鈴木清江氏
リクルート執行役員カスタマーアクションプラットフォームカンパニー長 冨塚優氏
ジェイティービー(JTB)常務取締役、JTB西日本代表取締役社長 日比野健氏
ネット取引定着の一方で
地域密着型ビジネスも台頭
パネリストの面々はそれぞれ“業界違い”。特に今回は「お客様と直接かかわる」ということ、また、近年旅行が若干ふるわなくなってきたという若い女性層の意識を探る目的で証券会社、百貨店の立場からも意見を聞いている。
まずはこの10年を振り返り、「旅行業では『圧倒的なネットへの変換』が起こった」というのは、宿泊予約の大手サイト「じゃらんネット」を軌道に乗せたリクルートの冨塚氏だ。ウェブや他メディア商品に対し、店頭で革新的な対抗をすることができず、「ぼろ負けの10年だった」とJTBの日比野氏も振り返る。
かつて就職情報部門に在籍し、学生をターゲットとしていた冨塚氏は、消費者のネットへの移行のスピードを早くから感じ取っていたという。2004年時点の自社調査で、ネット利用による宿泊予約者の9割がリピーターであるというデータに基づき、大々的にシステムを改革した。スマートフォンの普及により利用が一気に拡大し、現在は本、ネット、携帯端末を活用してどのようにメディアミックスをしていくかにシフトしてきている。
金融業界でもネット利用者の急増への対応がされてきた。野村證券の新井氏によると、1990年にネット証券が設立されて以来ネット利用による証券取引が活発になると、手数料の安い会社にシェアを奪われる結果となった。同社も独立したネット証券会社を設立して対抗しようと試みるも、2007年には日本の株式市場の低迷に伴いネット取引も鈍化。また、手数料の安さだけでは多様化するユーザーの要望に応えることはできず、顧客ひとりひとりにカスタマイズされた取引が必要と判断し、全国の支店を通じてそうしたサービスをめざすようになった。
日本経済新聞による金融機関の満足度調査で、利便性のみならず地域への密着度の高さも顧客が重要視するポイントであることがわかっており、この10年は地域密着にも力を入れてきたという。株券が電子化されたり、店頭で現金を扱わなくなったりしたのにもかかわらず、10年前よりも店舗数を増やしたのは、地元の会社で取引をしたいという顧客の声を反映したもの。取引口座数も340万から500万口座へと、実際に多くの顧客を獲得することに成功している。
20代から30代の働く女性から支持されてきたプランタン銀座の鈴木氏は、ここ10年の女性の消費動向を説明。ずっと働いていれば給料があがっていく時代ではない昨今、“身の丈消費”をする傾向にあるという。かつては「年収があがったらこの車を買おう」というように商品にもヒエラルキーがあり、憧れがあった。だが現在は無理せず背伸びせず“今の自分”を肯定し、身の丈にあったものを求める人が多い。これには環境問題も背景にあり、無駄をなくす、よりシンプルに、といった動向があり、ファッションもカジュアル化しているという。
それに加え、機能性と価格への目も非常に厳しくなっており、値段以上の価値を求めるのも現在の消費者の特徴である。ユニクロや低価格海外ブランドの参入もありデザイン性に優れ質もよく、かつ低価格であることが定着。現在は「安価であること」は当然という風潮にある。