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市場ニーズの半歩先を行く-今、求められるビジット・デザイニング

  • 2012年1月18日

 マイナスの外部環境に対し、時が過ぎるのを待つ――そんな受身の姿勢が常となってはいなかっただろうか。未曽有の災害「東日本大震災」を経た今日、旅行業界は変わるべき時を迎えている。「事実を正面から受け止め、そこから新しい旅の価値創造・提案を行ない、需要を喚起することが強く求められている」と、財団法人日本交通公社(JTBF)常務理事の小林英俊氏は語る。昨年12月の第21回旅行動向シンポジウムでは、「アルプスの古都インスブルグに30日間の長期滞在」という新しい旅スタイルで顧客の心をつかんだワールド航空サービスの事例を中心に、市場ニーズの半歩先をゆく新しい旅の価値創造について議論が展開された。

ゲスト講師
 ワールド航空サービス代表取締役社長 菊間潤吾氏
 ジャパンライフデザインシステムズ代表取締役社長 谷口正和氏
コーディネーター:
 JTBF常務理事 小林英俊氏
 JTBF主任研究員 久保田美穂子氏
ビデオ出演:
 星野リゾート代表取締役社長 星野佳路氏
 キャニオンズ代表 マイク・ハリス氏


「こんな旅を待っていた」
コンセプト提案型の旅

ワールド航空サービス代表取締役社長の菊間潤吾氏  「震災後、新しい価値を提案しないとマーケットは動かないと危機感を持った」「攻めの企画としてインスブルグに30日間の長期滞在を計画した」と語るのは、ワールド航空サービス代表取締役社長の菊間潤吾氏。

 海外旅行需要を支えるリピーターの要望に合わせ、多くの旅行会社がディスティネーションの拡大、あるいは様々な角度から旅先の魅力を掘り下げ、提案することを進めてきた。しかし「海外へ住むように旅をしたい」という究極のニーズには未着手であり、そこに目を付けたのが今回のインスブルグの商品だ。

 旅のコンセプトは「節電で暑い日本を抜け出し、ヨーロッパで一か月の避暑をしよう」。旅行者が町の空気感に溶け込み馴染むこと、マイプレイスと呼べる場所を作ることを目的に、「旅行会社として何をすべきか、何ができるかを考えた(菊間氏)」という。

ジャパンライフデザインシステムズ代表取締役社長 谷口正和氏  旅先としてインスブルクを選んだ理由は、避暑に適する山があり自然が豊か、それでいて歴史・文化が豊かな点、ある程度の知名度があること(有名すぎても無名すぎても不適)も理由になったという。また、歩いて巡る際に適度なサイズの町であること、周辺に短期間で行ける観光地があることも、今回の旅の目的を達成するためには重要なポイントになったという。

 旅行日数は当初30日間だけを予定していたが、集客のリスクヘッジ、旅行者に選択の余地を残すため、8日間、10日間、16日間、そして30日間という4つのコースを設定した。ただ結果的には「30日間コースに参加した人の満足度が極めて高く、『こんな旅を待っていた』という声が多くきかれた」という。また「参加者はコンセプトに共感したのであって、極端にいえば、場所はどこでもよかった」と菊間氏。それだけに旅行会社の役割は大きく、高い満足度は様々な提案やしかけがあってこその結果だといえる。

 ジャパンライフデザインシステムズ代表取締役社長の谷口正和氏は「自由時間を自分の裁量でどう過ごすか決められることは、圧倒的な豊かさであり、楽しみにつながる。ただし、予定を詰め込むことと、過ごし方の選択肢を多く用意することは根本的に異なる点を理解し取り組むことが重要だ」と指摘する。