市場ニーズの半歩先を行く-今、求められるビジット・デザイニング
観光業は楽しい仕事
共感の連鎖を生むための発想とは
「旅の魅力を提案しリードする中で、今後キーとなるのはどのようなことか」というJTBF小林氏の問いかけに、菊間氏は「物理的な付加価値ではなく、心理的な付加価値、つまり旅のコンセプトをどう提案して打ち出していくかを常に意識している。旅は形がないだけに『この会社ならよい旅ができる』という関係性を築くことが重要で、この信頼関係がないといいものを作っても売れない」と回答。さらに谷口氏は「ビジット・デザイニングは新しいニュースをつくることが大切で、話題にならなければ成功はしない。ニュースになるような魅力や価値を創造し、訪れた人が本当に満足し、共感の連鎖を生むことが、集客には最も効果的だ」と語った。
「心理的付加価値の構築」「ニュース・話題を作る」には、優秀な人材の育成が不可欠になってくる。この点については、社員の発案で新しい地元ならではの魅力を生み、多くのリピーターやファンを持つ星野リゾートの例が参考となる。
同社では「新魅力会議」を毎年実施し、そこから様々なヒットが生まれている。「期限を決めることが大切。そこにむけて新しい素材の掘り起こし、あるいは既に実施しているものをどう進化させるかを真剣に考える」と代表取締役社長の星野佳路氏。さらに「観光業は目の前でお客様の反応を見ることができる大変に楽しい仕事だ。その楽しさをひとりひとりが感じ、モチベーションを高く持つことが重要で、ルールやきまりで発言や行動を縛るとつまらなくなる」と強調した。「アイデアは、旅の経験値が高い顧客の中にある。それをうまく汲み取る力が今後の人材には必要だ」と谷口氏も賛同する。
「二度と来ない瞬間をどう過ごすべきか、それぞれにベストな提案をすることが旅行のプロに求められている」(谷口氏)、「旅行は手段であり、お客様、そして地域に対して、我々は何ができるかを真摯に考えるべき」(菊間氏)という言葉でシンポジウムは締めくくられた。目先の利益だけにとらわれず、旅行者や地域との関係の中で、旅行業の役割や価値を冷静に分析し自ら創造すること、その結果としてサービスへの支持や顧客からの信頼が生まれという発想は、ビジット・デザイニングを考える上で要となりそうだ。