震災後の訪日旅行市場、来訪者や予約動向から探る-JNTO講演会

  • 2011年9月20日

早期回復、まずは近場のアジアから

エクスペディアホールディングスのピーター・リー氏  市場別にみると、欧米とアジア太平洋州からの旅行者では、戻ってきている客層や回復度合いに違いが見られる。リー氏によると、日本に戻ってきている欧米からの旅行者の多くは商用目的。一方、レジャー客は震災の影響のみならず、為替や景気悪化の影響も受け、近距離のデスティネーションを選ぶ傾向にある。このようななか、アジア太平洋州のレジャー客の回復の度合いは欧米に比べると大きく、リー氏は回復を裏付ける「明るいニュース」ととらえている。

 その傾向と同調するかのように、JNTOでもビジット・ジャパン(VJ)事業の本格再開にあたり、まずは中国、韓国、台湾、香港など近隣市場に集中的に予算を投入するという。特に、近くて市場規模が大きくポテンシャルの高い中国や、最大の訪日旅行者数を誇る韓国について、早期の回復をはかるねらいだ。

 特に中国では、個人観光ビザの発給要件がさらに緩和される。2011年7月からは初回訪問時に沖縄に1泊以上の滞在で発給される個人観光マルチビザが発給され、9月には通常の個人観光ビザの発給要件の緩和も予定されている。原発問題に対する中国人旅行者の反応が気になるところだが、中国を中心に活動する英フィナンシャル・タイムズコラムニストで北京大学研究員の加藤嘉一氏は「中国は『今払い』が基本。その地方がだめでも他の地域に行こうとするのであまり気にしていない」という。ビザ発給要件の規制緩和は中国人の訪日旅行の後押しとして期待が持てそうだ。

 一方、エクスペディアも近距離市場からの訪日旅行回復に向けて、アジアで次々とウェブサイト立ち上げ、日本のピーアールをしている。2011年に入ってから同社は、シンガポール、タイ、マレーシア、韓国で2011年にサイトを開設したが、特に韓国語のサイトではデスティネーションとしての日本をピーアールしてきた。震災後の展開についてリム氏は「個人的には疑問に思っていたが、実際はお客様はサイトを閲覧し、商品購入にも結びついている」という。エクスペディアでは他にもアジアで香港、インドネシア、フィリピン、台湾、ベトナムでもサイト立ち上げる予定だ。


アジア需要の高い地方の回復、地方にチャンスをもたらすか

英フィナンシャル・タイムズコラムニスト、北京大学研究員の加藤嘉一氏  国内のデスティネーション別では、震災後に東京以外の地方、特にアジアからの旅行者から需要が高い地域ほど顕著な回復が見られる。

 訪日旅行客の多くが東京を訪れることが多いが、エクスペディアの実績に基づくデータによると、2011年1月、2月の予約実績を100%とすると、東京は52%と最も回復が遅い。一方、京都は70%、大阪は99%と回復が見られ、現状では東京以外の他の地方に目が向けている様子がうかがえる。エクスペディア自体も地方へビジネスを展開する方向で、現在の東京と大阪のほか、将来的には札幌、京都、福岡にも事務所をオープンする予定だ。

 震災からの回復の過程で、地方にもチャンスが巡って来る可能性がある。例えば、神保氏が「インバウンド観光において大いに力になる」と期待するクルーズ船の寄港だ。震災後、日本への寄港を見合わせてきたコスタクルーズも8月以降、順次再開するが、その際には宮崎や和歌山など、同クルーズにとって初の寄港地の設定もある。

 ビジネスチャンスが広がっている地方だが、インバウンド市場で改めてアピールするにはどのようにしたらいいのだろうか。加藤氏は、特に中国市場に訴求するには地域ごとのありのままの魅力を紹介していく重要性を強調している。地方を効果的に売り込むために、加藤氏は既存のプラットフォームを使ったピーアールを提案。例えば、中国と日本の都市は300以上の姉妹都市があるが、実際は形骸化している状況にある。しかし、ターゲットを絞ってピーアールをすることで、姉妹都市を観光促進に活用できるのではないかと考えている。

 ただし、加藤氏は「キャッチーな、中国の人に一目瞭然のキラーメッセージを探す」ことが大事だという。例えば、加藤氏自身は静岡出身だが、静岡県といっても中国人にはなかなか伝わらない。一方、観光地として有名な「伊豆」なら知っている人が多いという。これは中国のみならず、他の市場からの誘客の際にもヒントになるのではないだろうか。