現地レポート:ラスベガス、MICEトップデスティネーションの実力

  • 2010年12月3日
大小のMICE受入れ整うラスベガス
日本市場に合致する要素も


 MICEにかけて、世界トップの規模と開催数を誇るラスベガス。昨今は中規模ホテルが増加し、小グループ向きの選択肢が広がった。新たに登場したシティセンターやザ・コスモポリタン・オブ・ラスベガスにより、スタイリッシュな一面にも注目が集まる。JTBアメリカ東京支店で法人手配を担当する中村順子氏は、ラスベガスについて「受け入れ体勢に信頼がある。ホテルはつねに改装していて綺麗な上、客室の料金も格安」と話す。脈動する観光都市をMICEの観点から取材した。
                           
                           

日本市場好みの新ホテル
MやIでの利用の可能性


 ラスベガスの特徴はまず、キャパシティの豊富さだろう。ラスベガス観光局(LVCVA)ディレクター・インターナショナル・マーケティングのラファエル・ビラヌエバ氏は、「100万平方メートル以上のコンベンション・会議スペースと14万9000室の客室、数百のレストランとアトラクションがあり、MICEのどの分野でもふさわしいものを提供できる」と自信を見せる。1万人以上のコンベンションでさえ頻繁に開催されるが、日本企業のMICEは数十人から数百人が主流。内容はM(ミーティング)やI(インセンティブツアー)が多く、ビラヌエバ氏も日本市場で注力したい分野だという。そんな日本市場の規模や目的にあうホテルが近年、登場している。

 昨年12月に開業したマンダリン・オリエンタル・ラスベガスは、392室の客室に対して従業員数400人以上。この規模だからできる、行き届いたサービスが強みだ。カジノはなく、客室や宴会場へ迷わず行ける動線。館内にはヨガスタジオや中国茶を提供するラウンジを擁し、東洋風の落ち着いた高級感に満ちる。同ホテルのグループセールス・マネージャーのスージー・ソン氏は、「すでに日本からは、約40人で3泊したインセンティブツアーや、約250人のパーティなどを受け入れた。希望があれば全館丸ごとの貸し切りも可能」と述べる。

 また、昨年開業したアリア・リゾート&カジノのセールスディレクターのステファニー・ウィンダム氏も、「利用団体から全体的に良い評価を受けており、リピート契約につながっている」と述べ、「2011年はさらに好調となるペース」との見解を示す。現況では特にインセンティブ分野が徐々に伸びてきているという。「アリアのMICE市場は非常に重要」とし、強みとして「小グループ向きの会議室がエレベーターから近いなど、ホテル内の配置がMやIに理想的」であることや、「ショッピングモール『クリスタルズ』などシティセンターのすべての施設を活用してさまざまな案を創出できる」ことをあげた。

 このほか、12月15日にオープンするザ・コスモポリタン・ラスベガスは、約8割の客室にラスベガス初となるバルコニーを設けたことが最大のポイント。しかし日本市場でさらに重要なのは、電子レンジやコーヒーメーカーを備えたキチネットかもしれない。FAMツアーの参加者によると、「インスタントの日本食を持って行くお客様が多く、お湯が沸かせるかという問いあわせを普段からよく受ける」という。同ホテルでは、2011年からツインベッドルームの予約を開始する予定だ。


個性的で多様なベニュー
「非現実的」なアイディアの宝庫


 ラスベガスのレストランは大抵、個室や貸し切りへの対応が柔軟だ。中村氏は、「最近ラスベガスではベニューとしてレストランを手配することが多い」という。内装に凝ったユニークな店が多いので、テーマパーティでは装飾の手間とコスト削減を期待できるだろう。

 TI(トレジャー・アイランド)にはこの夏、店内でのロデオゲームが呼び物のアメリカン・レストラン「gilley’s」がオープンした。また、人気の無料ショーの特等席となるロケーションのレストランも付加価値が高い。「KOHTAN」(TI内)のテラス席ではセイレーン・ショーを、「Jasmin」(ベラージオ内)では噴水ショーを目の前で楽しめる。そのほか、セレブが足を運ぶ有名なナイトクラブ「PURE」(シーザーズパレス内)や「ROK」(ニューヨークニューヨーク内)を借り切ることも可能だ。

 ベニュー選びでは、各ホテルが力を入れているプール設備も要チェック。ザ・コスモポリタン・ラスベガスでは、コンサート設備の整うストリップ沿いの「ブールバード・プール」と、ラスベガス最大となるナイトクラブから直結した「デイクラブ・プール」でパーティを開催できる。マンダリン・オリエンタル・ラスベガスのプールは、午後6時以降の貸し切りに対応。ゴールデン・ナゲットに昨年新設されたプールはアクアリウムの中を通るスライダーが名物で、プールサイドではカジノも楽しめる。





街ぐるみの受け入れ体勢
壮大な自然が対照的なオプションに


 観光とMICEを産業の核とするラスベガスでは、街づくりの姿勢から徹底している。ホテルやショッピングモールの大がかりな無料ショーや街頭のパフォーマー達が道行く人を楽しませ、街全体がまるで入場無料のテーマパーク。各施設は無料トラムや歩道橋、エスカレーターで結ばれ、観光客が歩きやすいよう工夫されている。大金を扱うカジノがあるだけに、警備体制は万全。アメリカで唯一、公共の場所での飲酒が許されている街でもある。さらに満足を高めるのが、フレンドリーなホスピタリティだ。ラスベガスではサービスのプロからショーの観客までもが、気さくな笑顔の持ち主。印象深い触れあいがMICEを成功へと導いてくれる。

 日帰りエクスカーションでは、ラスベガスからアクセスが便利なグランドキャニオンのウエストリムを訪れた。ラスベガス発のセスナやヘリで空からアクセスすると、フーバーダムを見下ろす絶景を満喫できる。ウエストリムでは現在、飛行場を拡大する工事が行なわれている。また、足元がガラス張りになった「スカイウォーク」では、高さ1200メートルに浮かぶ空中散歩を体験できる。

 さらに特別感を演出するトップインセンティブツアーのプランには、ヘリから夜景を一望するシーニック航空のシャンパン・フライトや、セレブリティコーチのデラックスなリムジンなどが、ラスベガスらしさを味わえるだろう。豪華なスイートルームでのパーティや客室のグレードアップも、価格の下がった今なら現実的だ。





インセンティブに伸びの傾向
地方発の仁川経由に期待


 ビラヌエバ氏は、「2001年以降は訪問者数が落ち込んだものの、LVCVAにとって日本市場は引き続き主要な位置付け」とし、「MICEでは金融、テクノロジー、自動車業界のMとIに力を入れる」という。今後も旅行会社と協同で訪問者数増に取り組む考えで、「市場の拡大とともに、努力と投資の成果も表れるだろう」と予想。羽田空港の国際化にも大きな期待を寄せている。また、LVCVAでは今年、店頭スタッフの教育を重視する方針を打ち出している。日本オフィス代表の岡部恭子氏は、「すでに東京では旅行会社でセミナーを実施している。今後は全国に足を運びたい」と意欲的だ。

 受け入れ施設側も、日本への期待が高い。アリア・リゾート&カジノのウィンダム氏は、日本市場に対し「LVCVAなど関係機関との連携」をはかる一方で、一人のセールスマネージャーに国外MICEグループを統括させ、国際的な市場との差異の理解に努めるという。オープン以来、国外から受注したなかでも「日本企業のインセンティブ・プログラムは成功した」との認識だ。

 この数年、世界的な経済不況の影響で、日本発のMICE、特にインセンティブが伸び悩んでいたが、その間にもラスベガスではMICE向けの新しい素材、ユニークなベニューが誕生し、それでいてリーズナブルな料金が実現している。参加者からは「エコカー減税の影響で自動車業界のインセンティブツアーが戻ってきた感触がある」との声もあるように需要の伸びが見受けられる今、盛んになっているラスベガス周遊クルーズや韓国、ハワイ滞在との組み合わせなど、現地から価値ある情報を取りいれつつ斬新なMICEを提案してきたい。


仁川空港経由の利便性を実感
大韓航空利用でのラスベガス

 ラスベガスへのアクセスに関しては、羽田空
港発のアメリカ西海岸経由の動向が気になるが、
地方空港からは大韓航空(KE)による仁川経由
の利便性が高い。特に福岡からは乗り継ぎが良
く、岡部氏によると、「今年の視察参加者が造
成した福岡発ツアーでは、約400人の送客に成
功したと聞いている」という。

 KE福岡支店販売課課長の山田祐介氏は、仁川
空港の乗り継ぎについて、「2階の到着フロア
から3階搭乗口への移動がシンプル」と、利便
性をアピール。また、24時間以内なら荷物を預
けたままセキュリティチェックのみで乗り継ぎ
が可能で、参加者は「アメリカで乗り継ぐ際の
長蛇の列に並ばずにすむ」とメリットを実感し
ていた。

 団体移動が前提となるMICEにとって、乗り継
ぎストレスの少ないアクセスは重要な要素のひ
とつ。また、全国から参加者が集まるMICEの場
合にも、KEの地方路線を利用して仁川空港で集
合し、出発することが可能だ。



取材協力:ラスベガス観光局、大韓航空(KE)
取材:福田晴子