現地レポート:カナダ・BC州、見逃せないロッキーのハイライト
カナディアンロッキーからワインの天国へ
ブリティッシュ・コロンビア州東部の旅
カナディアンロッキーはブリティッシュ・コロンビア(BC)州とアルバータ州の州境付近に連なっているが、バンフやジャスパーなどの主要な観光地がアルバータ州側に点在しているので、今までBC州側(BCロッキーズ)を含めたツアーはあまり企画されていなかった。しかし、エメラルドレイクやマウント・ロブソンをはじめ、数多くの「見逃せないロッキーのハイライト」がBC州側にもある。リピーターやハイエンドのツアー客のための特別なロッキーのみどころとして、大きな可能性を持っているといえるだろう。また、ワインの産地として注目が高まっているオカナガン地方へ、BC州の東側から入っていくルートも魅力的だ。若手のツアー企画担当者たちとバスで旅して、その可能性を取材した。
大平原地帯からロッキーへ
今回の旅程はカルガリーから現地に入った。取材は9月の実施だったため、今年就航したエア・カナダ(AC)の成田/カルガリー直行便を利用。同便は当初から夏期スケジュールでの運航予定のため冬期は運航していないが、来夏に再開されればルートの利便性はさらに高くなる。
カルガリー空港からロッキーへ向かう道路はほぼ直線で車線も多く、空港から幹線道路へ出るのも比較的スムーズだ。ツアーの基本はバス利用だが、北米での運転にあまり慣れていない人でも、ここなら「フライ&ドライブ」を手軽に楽しむことができるだろう。もちろん、時差や飛行機内で十分睡眠が取れない場合もあるので、最初の日はカルガリー市内で休息し、体調を整えてから運転をはじめるのが理想的だ。
カルガリーはカナダの中央部に広がる大平原地帯の西端近くに位置しているので、ここからロッキーへ向かって走ると、広大な平野の向こうに突然壮麗な山並みが見えてくる。まるで巨大な神々が一斉に立ち上がったような、深い感動をよぶ景色に、北米でのフライ&ドライブの醍醐味を一挙に体感することができるだろう。
空港からバンフまでは1時間30分ほどのドライブ。カナディアンロッキー最大の観光地なだけに、バンフでの観光を日程に加えるのが順当だが、思い切ってここをはずし、そのままクートニー国立公園に入ることで差別化をはかることもできるだろう。観光客の多い場所を避け、「カナディアンロッキーがその素顔を見せてくれる場所」への旅を強調したい。
みどころ続くBCロッキーズ
クートニー国立公園へ車で入る唯一のアクセスは、バンフ・ウィンダミア・パークウェイ(93号線)。キャッスルマウンテンからの約100キロの道中には、大陸分水嶺や両側から60メートル以上の岩壁が迫る神秘的な深い谷間のマーブル・キャニオン、先住民が聖なる場所として大切にしてきたペイント・ポット、標高3618メートルの麗峰マウント・アッシニボインなど、日本ではあまり知られていなかったみどころが点在している。往復1時間ほどの短いウォーキングトレイルやピクニックエリアなどもあるので、ランチボックスを用意して旅程に組み込むのもおすすめだ。93号線の西側出口にあるラディウム・ホットスプリングスにはラドンを含有した温泉がある。国立公園管理局が運営する温泉プールの設備もあり、周辺にはゴージャスとはいえないが清潔で比較的新しいモーテルも多い。
また、レイク・ルイーズを経由しヨーホー国立公園を通ってBC州に入るルートも、ヨーロッパからの観光客に人気がある。大陸分水嶺の急勾配を列車が通るために作られた螺旋状のスパイラルトンネル、落差380メートルの岩壁を圧倒的な迫力で流れ落ちるタカカウ滝、5億年前の海洋生物の化石が発見されたマウント・スティーブンなど、十分に時間を取って眺めたい景色が続くが、このルートのハイライトはエメラルドレイクだ。
名前の通り、湖水の深い緑色は宝石を思わせる神秘的な美しさ。周辺には山頂に氷河が輝く山々が連なり、湖畔を一周するウォーキングトレイルもある。夏の観光ピーク時には、湖畔の駐車場に何台も大型バスが停車していることもあるほどだが、人影のあまりない早朝や夕暮れ時こそ、この湖が本当の美しさを見せてくれる。湖畔にある唯一のホテル「エメラルドレイク・ロッジ」で宿泊するように日程を組めば、ハイエンドのツアーでも十分に満足してもらえるだろう。
知られざる秀峰を新たなツアー素材に
カナディアンロッキーのBC州側には、ロッキー山脈と平行するようにいくつもの山脈が続いている。なかでもセルカーク山脈やパーセル山脈などは、2000メートル級の山々が連なり、山頂付近には不思議な蒼色に輝く氷河が点在している。最近はキッキングホースなどのスキー場のゴンドラが夏の間も運行されており、山頂からの雄大な眺めを堪能することも可能だ。
立ち寄りポイントとしてはずせないのはグレーシャー国立公園。公園内に大小400以上の氷原や氷河があり、道路からも次々と現れる氷河を間近に眺めることができる。大陸横断鉄道やトランスカナダハイウエイの建設時、一番の難所だったロジャースパスには、建設工事や公園周辺の自然に関する資料を展示した博物館、レストラン、モーテルなどもある。
また、国立公園に指定されているセルカーク山脈屈指の秀峰マウント・レベルストークの周辺は、高山植物の宝庫。夏になると多くのハイカーが訪れる。水芭蕉の咲く湿地帯や樹齢800年の杉の巨木などの周辺に短いウォーキングトレイルがあるので、軽い散策をかねた休憩をとっていけば、長距離のドライブもマイナスにはならないだろう。
パーセル山脈はヘリスキーのメッカとして、日本でも一部の上級スキーヤーに知られているが、この周辺に点在するスキー場の多くは設備も新しく上質のパウダースノー。毎年比較的早い時期から滑れるので、日本からも選手のトレーニングに利用されている。大型のリゾートホテルも増えてきているので、スキーのデスティネーションとしても注目したい。
山並みを抜けるとブドウ畑が見えてくる
いくつもの険しい山並みを越えて西へ西へと進むと、やがて周囲の風景は乾燥した半砂漠地帯に変化してくる。BC州の中央部に広がるオカナガン地方は、怪獣オゴポゴが住むという神秘的な湖の周辺に果樹園やブドウ畑が続く、カナダ屈指のワインの生産地。BCロッキーズ周辺とはまったく違う、BC州の風景に出会うことになる。
オカナガンのワイナリーは、ここ10年の間に急速にその数が増え、生産されるワインの質も世界的なコンテストで高く評価されるものも出るほどになっている。しかし、まだまだヨーロッパやカリフォルニアなどに比べると小規模のワイナリーが多く、試飲室でしか買えないものも少なくない。グループでの見学を受け入れてくれる大型ワイナリーと、小さな家族経営のワイナリーを組みあわせたり、併設のレストランでランチやディナーを設定すれば、「ワインの郷を訪ねる」ことに付加価値を加えられるだろう。ツアーで訪れるからこそ、運転を気にせずに試飲できるメリットも大きい。
なお、オカナガン地方は、もともとカナダ屈指の果物の生産地。チェリーから梨、りんご、黄桃、プラムなどさまざまな果樹園が広がっている。4月から5月にかけての花の季節には、丘の斜面が幻想的な花のベールで覆われる。とりわけりんごの花の美しさは印象的。バンクーバーやビクトリアの春の花の旅に、オカナガンの花盛りとワインを加えれば訴求力が大きく高まるだろう。ペンティクトンのエリジウム・ガーデンや、サマーランドにある国立農業試験場など、自宅でのガーデニングの参考になるような、すばらしい庭園があるのも見逃せない。
ブリティッシュ・コロンビア州東部の旅
カナディアンロッキーはブリティッシュ・コロンビア(BC)州とアルバータ州の州境付近に連なっているが、バンフやジャスパーなどの主要な観光地がアルバータ州側に点在しているので、今までBC州側(BCロッキーズ)を含めたツアーはあまり企画されていなかった。しかし、エメラルドレイクやマウント・ロブソンをはじめ、数多くの「見逃せないロッキーのハイライト」がBC州側にもある。リピーターやハイエンドのツアー客のための特別なロッキーのみどころとして、大きな可能性を持っているといえるだろう。また、ワインの産地として注目が高まっているオカナガン地方へ、BC州の東側から入っていくルートも魅力的だ。若手のツアー企画担当者たちとバスで旅して、その可能性を取材した。
大平原地帯からロッキーへ
今回の旅程はカルガリーから現地に入った。取材は9月の実施だったため、今年就航したエア・カナダ(AC)の成田/カルガリー直行便を利用。同便は当初から夏期スケジュールでの運航予定のため冬期は運航していないが、来夏に再開されればルートの利便性はさらに高くなる。
カルガリー空港からロッキーへ向かう道路はほぼ直線で車線も多く、空港から幹線道路へ出るのも比較的スムーズだ。ツアーの基本はバス利用だが、北米での運転にあまり慣れていない人でも、ここなら「フライ&ドライブ」を手軽に楽しむことができるだろう。もちろん、時差や飛行機内で十分睡眠が取れない場合もあるので、最初の日はカルガリー市内で休息し、体調を整えてから運転をはじめるのが理想的だ。
カルガリーはカナダの中央部に広がる大平原地帯の西端近くに位置しているので、ここからロッキーへ向かって走ると、広大な平野の向こうに突然壮麗な山並みが見えてくる。まるで巨大な神々が一斉に立ち上がったような、深い感動をよぶ景色に、北米でのフライ&ドライブの醍醐味を一挙に体感することができるだろう。
空港からバンフまでは1時間30分ほどのドライブ。カナディアンロッキー最大の観光地なだけに、バンフでの観光を日程に加えるのが順当だが、思い切ってここをはずし、そのままクートニー国立公園に入ることで差別化をはかることもできるだろう。観光客の多い場所を避け、「カナディアンロッキーがその素顔を見せてくれる場所」への旅を強調したい。
みどころ続くBCロッキーズ
クートニー国立公園へ車で入る唯一のアクセスは、バンフ・ウィンダミア・パークウェイ(93号線)。キャッスルマウンテンからの約100キロの道中には、大陸分水嶺や両側から60メートル以上の岩壁が迫る神秘的な深い谷間のマーブル・キャニオン、先住民が聖なる場所として大切にしてきたペイント・ポット、標高3618メートルの麗峰マウント・アッシニボインなど、日本ではあまり知られていなかったみどころが点在している。往復1時間ほどの短いウォーキングトレイルやピクニックエリアなどもあるので、ランチボックスを用意して旅程に組み込むのもおすすめだ。93号線の西側出口にあるラディウム・ホットスプリングスにはラドンを含有した温泉がある。国立公園管理局が運営する温泉プールの設備もあり、周辺にはゴージャスとはいえないが清潔で比較的新しいモーテルも多い。
また、レイク・ルイーズを経由しヨーホー国立公園を通ってBC州に入るルートも、ヨーロッパからの観光客に人気がある。大陸分水嶺の急勾配を列車が通るために作られた螺旋状のスパイラルトンネル、落差380メートルの岩壁を圧倒的な迫力で流れ落ちるタカカウ滝、5億年前の海洋生物の化石が発見されたマウント・スティーブンなど、十分に時間を取って眺めたい景色が続くが、このルートのハイライトはエメラルドレイクだ。
名前の通り、湖水の深い緑色は宝石を思わせる神秘的な美しさ。周辺には山頂に氷河が輝く山々が連なり、湖畔を一周するウォーキングトレイルもある。夏の観光ピーク時には、湖畔の駐車場に何台も大型バスが停車していることもあるほどだが、人影のあまりない早朝や夕暮れ時こそ、この湖が本当の美しさを見せてくれる。湖畔にある唯一のホテル「エメラルドレイク・ロッジ」で宿泊するように日程を組めば、ハイエンドのツアーでも十分に満足してもらえるだろう。
知られざる秀峰を新たなツアー素材に
カナディアンロッキーのBC州側には、ロッキー山脈と平行するようにいくつもの山脈が続いている。なかでもセルカーク山脈やパーセル山脈などは、2000メートル級の山々が連なり、山頂付近には不思議な蒼色に輝く氷河が点在している。最近はキッキングホースなどのスキー場のゴンドラが夏の間も運行されており、山頂からの雄大な眺めを堪能することも可能だ。
立ち寄りポイントとしてはずせないのはグレーシャー国立公園。公園内に大小400以上の氷原や氷河があり、道路からも次々と現れる氷河を間近に眺めることができる。大陸横断鉄道やトランスカナダハイウエイの建設時、一番の難所だったロジャースパスには、建設工事や公園周辺の自然に関する資料を展示した博物館、レストラン、モーテルなどもある。
また、国立公園に指定されているセルカーク山脈屈指の秀峰マウント・レベルストークの周辺は、高山植物の宝庫。夏になると多くのハイカーが訪れる。水芭蕉の咲く湿地帯や樹齢800年の杉の巨木などの周辺に短いウォーキングトレイルがあるので、軽い散策をかねた休憩をとっていけば、長距離のドライブもマイナスにはならないだろう。
パーセル山脈はヘリスキーのメッカとして、日本でも一部の上級スキーヤーに知られているが、この周辺に点在するスキー場の多くは設備も新しく上質のパウダースノー。毎年比較的早い時期から滑れるので、日本からも選手のトレーニングに利用されている。大型のリゾートホテルも増えてきているので、スキーのデスティネーションとしても注目したい。
山並みを抜けるとブドウ畑が見えてくる
いくつもの険しい山並みを越えて西へ西へと進むと、やがて周囲の風景は乾燥した半砂漠地帯に変化してくる。BC州の中央部に広がるオカナガン地方は、怪獣オゴポゴが住むという神秘的な湖の周辺に果樹園やブドウ畑が続く、カナダ屈指のワインの生産地。BCロッキーズ周辺とはまったく違う、BC州の風景に出会うことになる。
オカナガンのワイナリーは、ここ10年の間に急速にその数が増え、生産されるワインの質も世界的なコンテストで高く評価されるものも出るほどになっている。しかし、まだまだヨーロッパやカリフォルニアなどに比べると小規模のワイナリーが多く、試飲室でしか買えないものも少なくない。グループでの見学を受け入れてくれる大型ワイナリーと、小さな家族経営のワイナリーを組みあわせたり、併設のレストランでランチやディナーを設定すれば、「ワインの郷を訪ねる」ことに付加価値を加えられるだろう。ツアーで訪れるからこそ、運転を気にせずに試飲できるメリットも大きい。
なお、オカナガン地方は、もともとカナダ屈指の果物の生産地。チェリーから梨、りんご、黄桃、プラムなどさまざまな果樹園が広がっている。4月から5月にかけての花の季節には、丘の斜面が幻想的な花のベールで覆われる。とりわけりんごの花の美しさは印象的。バンクーバーやビクトリアの春の花の旅に、オカナガンの花盛りとワインを加えれば訴求力が大きく高まるだろう。ペンティクトンのエリジウム・ガーデンや、サマーランドにある国立農業試験場など、自宅でのガーデニングの参考になるような、すばらしい庭園があるのも見逃せない。
長距離ドライブの「行程」をプラス要素に
ツアー企画のポイント
北米の多くのデスティネーションに共通していること
だが、どうしてもバスで長距離走らなければならない場
合が多い。日本で1日数百キロ走るというと「疲労困憊」
のイメージになりがちだが、BC州は道路事情も良く車の
渋滞もほとんどなく、車窓からの眺めもゆったりと楽し
める。今回の取材では、同行者の中に「車酔いが心配」
とか「途中で飽きてしまうのでは」と危惧した人もいた
ようだったが、結局、体調を崩す人もいなかったし、居
眠りばかりという状況にもならなかった。目的地までの
「途中」が十分に旅の素材となったからだ。
しかし、長距離ドライブの場合、車種の選択は重要だ。
道路は大型バスでも問題なく通行できるが、ウォーキン
グトレイルやピクニックエリアなどの駐車場の規模を考
えると中型バスが望ましい。25人乗りのバスを15人ぐら
いのグループで利用できれば理想的だ。バスにトイレの
設備がない場合、トイレ休憩の場所をあらかじめ検討し
ておく必要がある。しかし、カナダの国立公園や州立公
園では、山奥でもトイレの設備は比較的充実しており、
清潔度も合格レベルのところが多いので、あまり心配は
いらないだろう。
長距離ドライブの場合、最も重要なのはガイドだ。た
とえば、今回のカルガリーからクートニー国立公園やヨ
ーホー国立公園を抜けてBC州に入るルートは、カナダの
西部開拓やゴールドラッシュ、大陸横断鉄道の歴史をそ
のままたどっていくことになる。歴史や鉄道のしっかり
した知識のあるガイドをつけることで、長い「行程」が
そのまま魅力的な旅のプラス要素になっていくだろう。
また、今回の取材では、東側からBC州に入りオカナガ
ンへ抜けるという、今まであまり日本では知られていなかったルートをたどってみた。新
ルートの提案はリピーターの掘り返しやカナダそのものへの関心を改めて喚起するのに不
可欠だが、まだまだ解決すべきポイントも多い。例えば、オカナガンが花盛りとなる時期
はロッキー周辺では春の足音がかすかに聞こえる程度といったように、ひとつのツアーで
まとめるにはタイミングの計り方
が難しい。少人数で「ウォーキング」「高山植物鑑賞」「バードウォッチング」「先住民
の文化とパワースポット」といった共通のテーマでまとめられれば理想的だろう。「ごく
限られた人にしか知られていないエリア」は付加価値ではあるが、テレビや雑誌などでこ
のエリアが取り上げられ、日本での認知度が上がることにも期待したい。
取材協力:ブリティッシュ・コロンビア州観光局
取材:宮田麻未/写真:神尾明朗