取材ノート:インバウンドのアプローチ、東京観光レップが見た現地情報

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「伝統」と「現代」を求める外国人旅行客
ターゲットにあった提案を

また、日本のポップカルチャーも多くの地域の若者に浸透しつつある。イギリスでは英訳された日本の漫画が、一般的な書店で販売されているほど馴染みが深い。スペインでは「マンガサロン」が各地で催されるほどの人気で、若者の訪日動機の原動力となっている。
東京都産業労働局観光部シティセールス担当課長の谷理恵子氏が「東京の魅力は伝統と現代が共存し隣りあわせにあるという点」というように、東京には外国人が求める観光素材が数多く揃っているため、各地域では旅行業者の多くが東京都の観光に関心を寄せている。ただし、ロンドン在住の観光レップの大野耕平氏は「現地の旅行業者が何をしたいのかを聞き、その切り口にあわせていかないとうまくいかない」と注意を促す。選択肢が広いだけに「日本側のペース」ではなく、現地側のターゲットにあわせた提案や営業が求められている。
富裕層獲得の鍵は現地の旅行業者
ファミリー層にはひと工夫を

例えばニューヨークでは、テーラーメイドの個人旅行を取り扱うハイエンドの旅行業者が増えており、「バーチュオソ」や「シグネチャー」といった富裕層をターゲットとするコンソーシアムが存在する。これは旅行業者のほか航空会社やレストラン、ホテルなどと組織するもので、このような旅行業者と取引をする場合には、同じコンソーシアムグループに加盟していなければならない、という条件が課されることが多い。また、スペインでは貴族の顧客をもつなど単価がより高い「豪華旅行」専門の旅行会社が存在しているが、アジアに対してはまだ取り扱いがない旅行会社もあるという。
また、アメリカとフランス在住の観光レップからはファミリー層に注目すべきとの意見が聞かれた。この層を取り込むには「14才以下は朝食を無料にする、2部屋予約なら子供用の部屋は半額にする」といった欧米風のファミリープランの設定がポイントとなるようだ。フランスの観光レップである小泉範里子氏は「親と子の寝室を分けることがデファクトスタンダード」であるため、「コネクティングルームの手配が必要」と指摘した。
多言語化、情報不足が今後の課題
積極的なアプローチで機会拡大を

現地の旅行業者からは新たな商品や日程の提案、ピーアールといった、日本側からの積極的な働きかけも求められている。特に、旅行業者の販売活動の動機付けとなるよう、どの地域でもインバウンドレートの設定やコミッション、インセンティブの付与が期待されているという。
魅力ある東京、さらには日本全体のインバウンドを盛り上げていくためには、こうした「積極性」が重要となる。東京観光レップのように、現地業者とインバウンド業界関係者をつなぐ仕組みの構築と活用が、インバウンドの今後のさらなる発展には不可欠だろう。
旅行業者の定義、各地で異なる
欧米でもオンライン旅行会社が躍進
各観光レップは、担当地域の旅行業者の形態についても説明。旅行業者の形態は各地
域によって異なるだけでなく、各国の言葉の定義も変わってくるため、現地の旅行会社
にアプローチをする場合には注意が必要だ。
例えば、イタリアやフランスではホールセラ
ーの定義はなく、その代わりにツアーオペレー
ターがツアー造成をしている。フランスではツ
アーオペレーターが同時にホールセラーの役割
をしているとは限らないものの、近年は旅行会
社のように消費者に直接販売をするツアーオペ
レーターが増えているという。また、アメリカ
ではホールセラーという言葉はあるものの、最
近では「ツアーオペレーター」との区別が曖昧
になりつつあり、フランスと同じくツアーオペ
レーターが直接消費者を取り込む傾向にある。
一方、日本と同じようにオンラインの旅行会社は多くの地域で増加している。大手9社が
マーケットの50%を占めるというスペインでは、そのうち3社がオンライン専業となっ
ている。また、シドニー観光レップの栩野勝治氏が紹介したデータによると、2006年7月
から翌年6月までに海外旅行を店舗のカウンターで申込をした人は57%だったが、イン
ターネットで予約をした人は36%にのぼったという。
ただし、日本など遠隔地への旅行の予約の場
合は、必ずしもオンライン化が進んでいるとは
いえないようだ。例えば、ドイツのオンライン
市場は活発であるものの、「低価格帯、少人数
の旅行で高いシェア」に集中している。ニュー
ヨーク在住の東京観光レップの平井亜紀氏も、
「日本のようなエキゾチックなデスティネーシ
ョンは、旅行会社やツアーオペレーターを通し
て予約をするケースがまだまだ多い」と傾向を
説明した。
取材:安井久美