MICEインタビュー:コンベンションリンケージ エリック・ギブス氏
MICE成功のキーワード「スケジュール管理で包括的に流れを把握」
G8洞爺湖サミット、太平洋・島サミット、第1回アジア・太平洋水サミット、FIFAワールドカップ――これらのイベントの日本開催を支えていたのが、PCO(プロフェッショナル・コングレス・オーガナイザー)であるコンベンションリンケージだ。クライアントは政府機関や大学、民間企業。国内を中心に国際会議、学会、大型イベントなどの企画・運営で年間1000件以上の実績があり、現在はAPEC貿易大臣会合のため札幌コンベンションセンターの現場に入っている。コンベンション、イベント運営、文化イベント関連事業でトップを走る同社は、どのように業務を進めているのだろうか。アウトバウンドでもそのノウハウを参考とすべく、国際会議部ディレクターのエリック・ギブス氏に話を聞いた。
Q.PCOとしての業務内容を教えてください
「コンベンション」が会議や学会を指すとすると、「コングレス」は、コンベンション(シンポジウム、フォーラム、セミナー)、展示会、パーティなどの総体を表す用語だ。当社ではコンベンションだけでなく、文化・スポーツ大会も含め、より幅広いイベントを対象としている。特徴は、誘致段階からの総合プロデュース。主催組織の編成から計画立案、告知・募集、コンテンツ・空間・物品・サービスの準備、搬入、登録・受付、開催中の管理、終了後の廃棄・リサイクルと、「イベントが生まれてから最後まで」のワークフローを作り上げている。登録・受付や、通訳・翻訳業のみを部分的に請け負うこともある。
中心となって動くスタッフは、中型イベントの場合で5、6人のチーム。1万人規模の会議ならば、当日は100人から200人の人員を配置する。通訳・翻訳の言語能力が高く、参加者に細やかな気遣いができることから、当社では女性の活躍が多く、約6割が女性だ。スタッフはアルバイトも含めて直接雇用し、トレーニングしている。
イベントの誘致には、前回大会の視察が欠かせない。行政やコンベンションセンターの担当者とともに他国で開催中のイベントに出向き、ブースを設けてプロモーションを行なう。これまでの経験では、日本を象徴するうちわ、扇子、人形などの配布が効果的だった。うちわであおぐ人々の姿は会場で目立ち、露出が高まった。盆踊りで使用した半被(はっぴ)も盗まれるほどの人気で、成功したプロモーションだったと思う。
Q.業務遂行にあたり、最も重視するポイントは何ですか
当社の社員に聞けば誰もがこう答えるはずだが、一番重要なことは「スケジュール管理」だ。イベントの誘致から会場の決定、設営、外注企業とのやり取り、ウェブサイトの作成、スタッフの配置、当日の移動、参加者へのお茶出し、クレーム対応やリスク管理も含めて、すべては一連の動線上にある。何を、いつ、どのタイミングで行なうか。包括的に流れを把握するために、「総合プロデュース」を提供している。
外務省では、スケジュール管理をする担当者を「ロジ」、議題やスピーチを検討する担当者を「サブ」と呼ぶ。それぞれロジスティクス(後方支援、物流、資材調達)、サブスタンス(内容、課題、本旨)の略だ。政府関係の会議やイベントでは、当社は外務省のロジ班とともに段取りを整える。空港への出迎えや警備、イスラム教徒のためのお祈りの部屋、ベビールームの確保と、チェック項目は多岐にわたる。参加者へのケアも大切。会場などの大枠から手配を詰めていき、その上でホスピタリティを表現する。
Q.旅行会社とはどの程度の比重で関わりがありますか
なんらかの形で旅行会社が関わっている会議やイベントは、全体の約8割。大型国際イベントでは、オフィシャルトラベルエージェントを選定する。海外のPCOは交通・宿泊手配も自社で行なうことが多いが、日本の旅行会社は海外に比べて組織的で規模が大きい。航空券の手配、空港への送迎、会場からホテルやレストランへの送迎、ホテルの手配、会議場周辺の名所案内やオプショナルツアーなど、イベントが大規模になるほど旅行会社の手配力が必要となる。
特に、会議後に個人で参加するオプショナルツアーは、旅行会社で盛り上げてほしい部分だ。観光プランニングでの協力を期待している。また、全体のメイン・パーティは当社で主催するが、その他のガラディナーを旅行会社に依頼することもある。メニューは各宗教に配慮するほか、郷土料理などその地域の特色を出してもらいたいというのが希望だ。
Q.イベント運営にあたり、主催者からはどのような要望がありますか
政府間の国際会議では、“プロトコル”どおりの進行が基本。奇抜な演出は不要だ。学会の場合はプロトコルも大切だが、開催地の土地柄を活かした演出を求められるケースもある。今年3月には京都で、天皇皇后両陛下のご臨席のもとICE2010(国際内分泌会議)が開かれた。参加者は5000人以上で、そのうち約2000人弱が外国人。開会式では聖母学院小学校の合唱団や京都フィルハーモニー室内合奏団を招いたほか、阿波踊りを披露して歓迎した。おりしも桜が咲くなかに雪が舞いはじめ、最高に印象深い演出となった。
最近では「いかにエコにイベントを開催するか」も求められている。特に政府関係では、コピーの枚数を減らすなどエコ意識が高い。洞爺湖サミットのメディアセンターは、解体後にリサイクルできる素材で建設した。また、現在研究をまとめているのが「カーボンフットプリント制度」だ。これは、イベントの準備から解体に至る全過程で、二酸化炭素がどれだけ排出されるかを計算する方法を示したもの。各国間でのカーボンオフセットがイベント実施条件になってきたことから、調査に取り組んだ。将来的にはカーボンフットプリント制度の世界基準が規定されると予想できるだろう。
Q.海外でイベントや会議を実施することはありますか
海外での開催は、月に2、3回程度。近年は厚生労働省の中国での会議や、国土交通省のシンガポールでの会議などがあり、いずれも約30人が参加して実施された。海外へ行く際、旅行会社には航空券の手配を頼んでいる。宿泊についても、同じ4ツ星や5ツ星ホテルでも国によってクオリティが異なるので、実際のレベルや日系ホテルに関する情報を教えてもらえると助かる。旅行会社とはこれからも、積極的に国内外に関する情報交換をしていきたいと考えている。
視察やMICEエキスポへのブース出展などで海外へ行くと、韓国の済州島やシンガポールなど、各国で誘致の動きが盛んになっていると実感する。競合する面もあるが、むしろ業界全体が活発化することで共栄していきたい。
ありがとうございました
G8洞爺湖サミット、太平洋・島サミット、第1回アジア・太平洋水サミット、FIFAワールドカップ――これらのイベントの日本開催を支えていたのが、PCO(プロフェッショナル・コングレス・オーガナイザー)であるコンベンションリンケージだ。クライアントは政府機関や大学、民間企業。国内を中心に国際会議、学会、大型イベントなどの企画・運営で年間1000件以上の実績があり、現在はAPEC貿易大臣会合のため札幌コンベンションセンターの現場に入っている。コンベンション、イベント運営、文化イベント関連事業でトップを走る同社は、どのように業務を進めているのだろうか。アウトバウンドでもそのノウハウを参考とすべく、国際会議部ディレクターのエリック・ギブス氏に話を聞いた。
Q.PCOとしての業務内容を教えてください
「コンベンション」が会議や学会を指すとすると、「コングレス」は、コンベンション(シンポジウム、フォーラム、セミナー)、展示会、パーティなどの総体を表す用語だ。当社ではコンベンションだけでなく、文化・スポーツ大会も含め、より幅広いイベントを対象としている。特徴は、誘致段階からの総合プロデュース。主催組織の編成から計画立案、告知・募集、コンテンツ・空間・物品・サービスの準備、搬入、登録・受付、開催中の管理、終了後の廃棄・リサイクルと、「イベントが生まれてから最後まで」のワークフローを作り上げている。登録・受付や、通訳・翻訳業のみを部分的に請け負うこともある。
中心となって動くスタッフは、中型イベントの場合で5、6人のチーム。1万人規模の会議ならば、当日は100人から200人の人員を配置する。通訳・翻訳の言語能力が高く、参加者に細やかな気遣いができることから、当社では女性の活躍が多く、約6割が女性だ。スタッフはアルバイトも含めて直接雇用し、トレーニングしている。
イベントの誘致には、前回大会の視察が欠かせない。行政やコンベンションセンターの担当者とともに他国で開催中のイベントに出向き、ブースを設けてプロモーションを行なう。これまでの経験では、日本を象徴するうちわ、扇子、人形などの配布が効果的だった。うちわであおぐ人々の姿は会場で目立ち、露出が高まった。盆踊りで使用した半被(はっぴ)も盗まれるほどの人気で、成功したプロモーションだったと思う。
Q.業務遂行にあたり、最も重視するポイントは何ですか
当社の社員に聞けば誰もがこう答えるはずだが、一番重要なことは「スケジュール管理」だ。イベントの誘致から会場の決定、設営、外注企業とのやり取り、ウェブサイトの作成、スタッフの配置、当日の移動、参加者へのお茶出し、クレーム対応やリスク管理も含めて、すべては一連の動線上にある。何を、いつ、どのタイミングで行なうか。包括的に流れを把握するために、「総合プロデュース」を提供している。
外務省では、スケジュール管理をする担当者を「ロジ」、議題やスピーチを検討する担当者を「サブ」と呼ぶ。それぞれロジスティクス(後方支援、物流、資材調達)、サブスタンス(内容、課題、本旨)の略だ。政府関係の会議やイベントでは、当社は外務省のロジ班とともに段取りを整える。空港への出迎えや警備、イスラム教徒のためのお祈りの部屋、ベビールームの確保と、チェック項目は多岐にわたる。参加者へのケアも大切。会場などの大枠から手配を詰めていき、その上でホスピタリティを表現する。
Q.旅行会社とはどの程度の比重で関わりがありますか
なんらかの形で旅行会社が関わっている会議やイベントは、全体の約8割。大型国際イベントでは、オフィシャルトラベルエージェントを選定する。海外のPCOは交通・宿泊手配も自社で行なうことが多いが、日本の旅行会社は海外に比べて組織的で規模が大きい。航空券の手配、空港への送迎、会場からホテルやレストランへの送迎、ホテルの手配、会議場周辺の名所案内やオプショナルツアーなど、イベントが大規模になるほど旅行会社の手配力が必要となる。
特に、会議後に個人で参加するオプショナルツアーは、旅行会社で盛り上げてほしい部分だ。観光プランニングでの協力を期待している。また、全体のメイン・パーティは当社で主催するが、その他のガラディナーを旅行会社に依頼することもある。メニューは各宗教に配慮するほか、郷土料理などその地域の特色を出してもらいたいというのが希望だ。
Q.イベント運営にあたり、主催者からはどのような要望がありますか
政府間の国際会議では、“プロトコル”どおりの進行が基本。奇抜な演出は不要だ。学会の場合はプロトコルも大切だが、開催地の土地柄を活かした演出を求められるケースもある。今年3月には京都で、天皇皇后両陛下のご臨席のもとICE2010(国際内分泌会議)が開かれた。参加者は5000人以上で、そのうち約2000人弱が外国人。開会式では聖母学院小学校の合唱団や京都フィルハーモニー室内合奏団を招いたほか、阿波踊りを披露して歓迎した。おりしも桜が咲くなかに雪が舞いはじめ、最高に印象深い演出となった。
最近では「いかにエコにイベントを開催するか」も求められている。特に政府関係では、コピーの枚数を減らすなどエコ意識が高い。洞爺湖サミットのメディアセンターは、解体後にリサイクルできる素材で建設した。また、現在研究をまとめているのが「カーボンフットプリント制度」だ。これは、イベントの準備から解体に至る全過程で、二酸化炭素がどれだけ排出されるかを計算する方法を示したもの。各国間でのカーボンオフセットがイベント実施条件になってきたことから、調査に取り組んだ。将来的にはカーボンフットプリント制度の世界基準が規定されると予想できるだろう。
Q.海外でイベントや会議を実施することはありますか
海外での開催は、月に2、3回程度。近年は厚生労働省の中国での会議や、国土交通省のシンガポールでの会議などがあり、いずれも約30人が参加して実施された。海外へ行く際、旅行会社には航空券の手配を頼んでいる。宿泊についても、同じ4ツ星や5ツ星ホテルでも国によってクオリティが異なるので、実際のレベルや日系ホテルに関する情報を教えてもらえると助かる。旅行会社とはこれからも、積極的に国内外に関する情報交換をしていきたいと考えている。
視察やMICEエキスポへのブース出展などで海外へ行くと、韓国の済州島やシンガポールなど、各国で誘致の動きが盛んになっていると実感する。競合する面もあるが、むしろ業界全体が活発化することで共栄していきたい。
ありがとうございました
■株式会社コンベンションリンケージ
1996年設立。PCOとして、国連や政府間の国際会議、学会、展示会、文化イベントなどを
誘致から企画、広報、運営まで総合的にプロデュース。コンベンションセンターなどの施
設運営、通訳・翻訳業、学術調査、コンサルティング業も展開している。
http://www.c-linkage.co.jp/
取材:福田晴子