MICEケーススタディ:インセンティブ「日本アルコン株式会社」
インセンティブはアイディアが勝負
旅行会社は「定番」からの脱却を
コンタクトレンズケア用品の輸入・販売で知られる日本アルコンでは、ミーティングやシンポジウム、セミナー、インセンティブ、新製品の発表会や講演会と、すべての分野にわたるMICEを国内外で年間約100回開催している。インセンティブでは今年3月、イタリアのミラノ/ローマ6泊8日の旅行を実施し、大成功に終わったという。同社でMICEを担当するプロフェッショナルリレーション部部長の福島安秀氏に、企画の内容とポイントを聞いた。
MICEは医師向けと社員向けの2タイプ
インセンティブはフリータイム多め
同社が海外で開催するMICEを大きく分けると、ミーティングや座談会、学会にともない開催されるシンポジウムなど主に医師を対象としたアカデミックな会合と、同社社員を対象としたミーティングやインセンティブ旅行がある。学会はアジアや欧米の主要都市で開かれ、期間中に開催されるシンポジウムの規模は50名から600名ほど。今年はベルリンで学会があり、医師80名を招待してサテライト・シンポジウムを実施する。
ミーティングやシンポジウムなどでは、正確性が何より求められる。ある程度定まった形式の中で、いかに滞りなく進行できるかがポイントだ。その上で、少しでも印象的な趣向を心がける。たとえば10名から40名が参加する「アドバイザリー・ボード・ミーティング」では、「積極的に意見が出るよう、参加者にとって快適で心地よい雰囲気づくりを意識している」という。
一方、インセンティブでは「旅行中に何回『ワオ!』といってもらえるか」が成功の基準。毎年一度海外で実施し、行き先はシティとリゾートを1年ごとに交互に選ぶ。社員の家族や友人も1名同行できることが特徴で、同行者の国内移動費からパスポート取得費用に至るまで、同社が支払う。例年約100名を表彰し、旅行の参加人数は約150名。事情で参加できない社員には、旅行券を進呈している。
行程では同行の家族や友人とプライベートに楽しめるよう、フリータイムをできるだけ確保。同時に、ツアーデスクとラウンジ機能を兼ねた「ホスピタリティルーム」をなるべく設置し、参加者同士のコミュニケーションの場をつくる。夜はオープンバーとなり、リラックスして談話が楽しめるので参加者にも好評だという。「個人旅行の良さと団体旅行の良さの融合」が、満足度につながっている。
コロンナ宮殿で「ローマの休日」
ディナーのワインは持ち込み、コスト削減
「白紙の状態から劇のように脚本を書き、キャスティング、演出をして全体を創りあげていくのは、プランナーとしての醍醐味」と語る福島氏。参加者が「より良い質」を感じられることをモットーに、予算を割り振る。
たとえば朝食は、団体用ではなく個人客と同じメニューにするようホテル側と交渉。今年3月のミラノ/ローマ旅行では、生ハムやパルミジャーノ・チーズ、ベリーの生搾りジュースなど素材のひとつひとつまでこだわった。また、ミラノ/ローマ間の移動には列車のファーストクラスを利用し、ローマでは映画「ローマの休日」でアン王女の記者会見のシーンが撮られたコロンナ宮殿での貸切レセプション・パーティを開催。その後、ザ・セントレジス・グランド・ホテルのリッツボールルームへ移動し、歌手を呼んでクラシカルなガラ・ディナーを実施した。
豪華な演出の一方で、ガラ・ディナーの飲み物は100本以上のワインを持ち込みにしてコストを削減し、トータルで予算内に抑えた。新婚夫婦にケーキをプレゼントしたり、参加者に飛び入りでピアノを弾いてもらったりとささやかでもサプライズを連続して演出し、パーティは夜中1時半まで盛り上がったという。
こうした企画は福島氏自身が練り上げたもの。参加者から「ワオ!」を聞くためには、インパクトある内容に仕上げるアイディアが決め手となる。福島氏は学生の頃からサークルの合宿などを取りまとめていたほか、入社後はセミナーや会議の際に、料理教室やワインテイスティングを取り入れた企画を積極的に立案。アメリカ本社時代のマーケティング部では世界各地に出張して見聞を広め、現在も有給休暇を利用し、休暇を兼ねて現地視察をするなど、それらの体験が発想力のベースとなっている。「旅行会社からも面白い企画が出されればもちろん利用したい」との姿勢だが、「残念ながら定番のものばかり」。「机上の考えではうまくいかない」と、担当者の経験と感性の問題を指摘する。
綿密なコミュニケーションで有効な情報・条件を獲得
旅行会社には現地ならではの情報を期待
MICEの実施に際し、ホテルなどサプライヤーとは、旅行会社を通さずに直接契約する場合が多い。「コストを下げられるし、誤解も少ない」のがその理由だ。各取引先には細かく要望を出し、ひとつひとつ自身で交渉していく。その綿密なコミュニケーションが有効な情報を引き出し、福島氏が思い描く企画の実現やコスト削減につながっているという。
取引先については、ホテルは一括で窓口となる担当者がいて、MICEチームによるオペレーションシステムが確立されているところを希望している。同時期に他の団体が入っていない、契約の融通が利く、プライオリティを高くおいてくれる、といった点も考慮。困るのはホテル・ブランドのレベルが国によって違うことで、外観は同じでも、サービスや団体の受け入れに不慣れな場合があったという。
旅行会社に対しては「昔みたいな丸投げはもうない」が、「『餅は餅屋』でもあり、航空券や現地での交通の手配は、いつもお世話になっている旅行会社にお願いしている」。フリータイム中のオプショナルツアーも旅行会社に依頼しており、食事付きのプランに申し込む参加者が多いという。
旅行会社には現地を知る人ならではの情報の集約を期待するが、「すでに誰もが分かっているような情報」が目立ち、担当者の勉強不足を感じるという。そこで近頃は、インターネットのSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を情報収集に利用。「SNSでは一般人の口コミや評価を簡単に調べられるし、ホテルでも動画などを配信している。日本語だけでなく英語で検索すれば、自分で得られる情報量は莫大」であり、「今後は旅行会社のあり方も変わってくるのでは」との予想だ。
「他の人たちはどうやってMICEを行なっているのかとも思う。相互に情報交換するネットワークも重要」と福島氏。担当者の現場経験アップやビジネスモデルの見直し、関係者のネットワーク構築が、旅行会社がMICEを取り込む鍵といえるだろう。
旅行会社は「定番」からの脱却を
コンタクトレンズケア用品の輸入・販売で知られる日本アルコンでは、ミーティングやシンポジウム、セミナー、インセンティブ、新製品の発表会や講演会と、すべての分野にわたるMICEを国内外で年間約100回開催している。インセンティブでは今年3月、イタリアのミラノ/ローマ6泊8日の旅行を実施し、大成功に終わったという。同社でMICEを担当するプロフェッショナルリレーション部部長の福島安秀氏に、企画の内容とポイントを聞いた。
日本アルコン株式会社
プロフェッショナルリレーション部部長
福島安秀氏
■日本アルコン株式会社http://www.alcon.co.jp/
1973年、アメリカに本社を置くアルコン・ラボラトリーズ(現
アルコン・インコーポレーテッド)の日本法人として設立(当
時の社名は帝人アルコン株式会社)。眼科領域に特化し、医療
機関向けの医薬品、眼科手術用の医療機器や用具、一般向けの
コンタクトレンズケア用品の輸入、販売事業を展開している。
MICEは医師向けと社員向けの2タイプ
インセンティブはフリータイム多め
同社が海外で開催するMICEを大きく分けると、ミーティングや座談会、学会にともない開催されるシンポジウムなど主に医師を対象としたアカデミックな会合と、同社社員を対象としたミーティングやインセンティブ旅行がある。学会はアジアや欧米の主要都市で開かれ、期間中に開催されるシンポジウムの規模は50名から600名ほど。今年はベルリンで学会があり、医師80名を招待してサテライト・シンポジウムを実施する。
ミーティングやシンポジウムなどでは、正確性が何より求められる。ある程度定まった形式の中で、いかに滞りなく進行できるかがポイントだ。その上で、少しでも印象的な趣向を心がける。たとえば10名から40名が参加する「アドバイザリー・ボード・ミーティング」では、「積極的に意見が出るよう、参加者にとって快適で心地よい雰囲気づくりを意識している」という。
一方、インセンティブでは「旅行中に何回『ワオ!』といってもらえるか」が成功の基準。毎年一度海外で実施し、行き先はシティとリゾートを1年ごとに交互に選ぶ。社員の家族や友人も1名同行できることが特徴で、同行者の国内移動費からパスポート取得費用に至るまで、同社が支払う。例年約100名を表彰し、旅行の参加人数は約150名。事情で参加できない社員には、旅行券を進呈している。
行程では同行の家族や友人とプライベートに楽しめるよう、フリータイムをできるだけ確保。同時に、ツアーデスクとラウンジ機能を兼ねた「ホスピタリティルーム」をなるべく設置し、参加者同士のコミュニケーションの場をつくる。夜はオープンバーとなり、リラックスして談話が楽しめるので参加者にも好評だという。「個人旅行の良さと団体旅行の良さの融合」が、満足度につながっている。
これまでの主な開催地
ハワイ、アメリカ西海岸、バリ、オーストラリア、イタリア
コロンナ宮殿で「ローマの休日」
ディナーのワインは持ち込み、コスト削減
「白紙の状態から劇のように脚本を書き、キャスティング、演出をして全体を創りあげていくのは、プランナーとしての醍醐味」と語る福島氏。参加者が「より良い質」を感じられることをモットーに、予算を割り振る。
たとえば朝食は、団体用ではなく個人客と同じメニューにするようホテル側と交渉。今年3月のミラノ/ローマ旅行では、生ハムやパルミジャーノ・チーズ、ベリーの生搾りジュースなど素材のひとつひとつまでこだわった。また、ミラノ/ローマ間の移動には列車のファーストクラスを利用し、ローマでは映画「ローマの休日」でアン王女の記者会見のシーンが撮られたコロンナ宮殿での貸切レセプション・パーティを開催。その後、ザ・セントレジス・グランド・ホテルのリッツボールルームへ移動し、歌手を呼んでクラシカルなガラ・ディナーを実施した。
豪華な演出の一方で、ガラ・ディナーの飲み物は100本以上のワインを持ち込みにしてコストを削減し、トータルで予算内に抑えた。新婚夫婦にケーキをプレゼントしたり、参加者に飛び入りでピアノを弾いてもらったりとささやかでもサプライズを連続して演出し、パーティは夜中1時半まで盛り上がったという。
こうした企画は福島氏自身が練り上げたもの。参加者から「ワオ!」を聞くためには、インパクトある内容に仕上げるアイディアが決め手となる。福島氏は学生の頃からサークルの合宿などを取りまとめていたほか、入社後はセミナーや会議の際に、料理教室やワインテイスティングを取り入れた企画を積極的に立案。アメリカ本社時代のマーケティング部では世界各地に出張して見聞を広め、現在も有給休暇を利用し、休暇を兼ねて現地視察をするなど、それらの体験が発想力のベースとなっている。「旅行会社からも面白い企画が出されればもちろん利用したい」との姿勢だが、「残念ながら定番のものばかり」。「机上の考えではうまくいかない」と、担当者の経験と感性の問題を指摘する。
綿密なコミュニケーションで有効な情報・条件を獲得
旅行会社には現地ならではの情報を期待
MICEの実施に際し、ホテルなどサプライヤーとは、旅行会社を通さずに直接契約する場合が多い。「コストを下げられるし、誤解も少ない」のがその理由だ。各取引先には細かく要望を出し、ひとつひとつ自身で交渉していく。その綿密なコミュニケーションが有効な情報を引き出し、福島氏が思い描く企画の実現やコスト削減につながっているという。
取引先については、ホテルは一括で窓口となる担当者がいて、MICEチームによるオペレーションシステムが確立されているところを希望している。同時期に他の団体が入っていない、契約の融通が利く、プライオリティを高くおいてくれる、といった点も考慮。困るのはホテル・ブランドのレベルが国によって違うことで、外観は同じでも、サービスや団体の受け入れに不慣れな場合があったという。
旅行会社に対しては「昔みたいな丸投げはもうない」が、「『餅は餅屋』でもあり、航空券や現地での交通の手配は、いつもお世話になっている旅行会社にお願いしている」。フリータイム中のオプショナルツアーも旅行会社に依頼しており、食事付きのプランに申し込む参加者が多いという。
旅行会社には現地を知る人ならではの情報の集約を期待するが、「すでに誰もが分かっているような情報」が目立ち、担当者の勉強不足を感じるという。そこで近頃は、インターネットのSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を情報収集に利用。「SNSでは一般人の口コミや評価を簡単に調べられるし、ホテルでも動画などを配信している。日本語だけでなく英語で検索すれば、自分で得られる情報量は莫大」であり、「今後は旅行会社のあり方も変わってくるのでは」との予想だ。
「他の人たちはどうやってMICEを行なっているのかとも思う。相互に情報交換するネットワークも重要」と福島氏。担当者の現場経験アップやビジネスモデルの見直し、関係者のネットワーク構築が、旅行会社がMICEを取り込む鍵といえるだろう。
取材:福田晴子