人はコストではなく宝、自律創造型の人材育成を−JATA経営フォーラム

JTB井本氏:自律創造型の人材こそが価値を生む

これに対し、JTBで人事部門を担当する井本氏は社会の構造的変化にともなって、同社のビジネス・システムも変化を遂げてきていることを説明。そのうえで、「自社のなかで自己完結型の人材育成を行ってきたが、それではパラダイムシフトに対応できなくなってきた」と付け加えた。
そのため、同社ではJTBユニバーシティという社員教育システムを導入。井本氏は、人はコストではなく「宝」であるという視点に立ち、グローバル、店舗系、営業系それぞれの専門性を追求し、社員それぞれが経営的視点を持つことの大切さを主張した。その方法論として、異業種との人事交流、大学院への派遣などを積極的に推進。「専門性を高めることで、人材が価値を生む会社にしていくべき」と井本氏は述べ、「自律創造型の人材育成こそがビジネスのベースになる」と強調した。
JMAM張氏:創業の理念に立ち返り、ESの向上を

また、業績を伸ばしているある車のディーラーでは自己管理できる自律型の人間になるまで表には出さない、という実例を挙げ、「CS(顧客満足度)の高い会社はES(従業員満足度)も高い」とした。特にサービス業では生産と消費が同時に起こるため、その現場一瞬一瞬での問題解決能力が求められるとし、そのためにも自律型人材が求められていると持論を展開した。
さらに、従業員のESを向上させるためには創業の理念に立ち返り、行動規範を定着させ、職場風土を改善していくことが重要という考えも披露。そして、「従業員のESがアップすれば、従業員の定着率/生産性が上がり、CSも向上する。それにより、リピーターも増え、コストパフォーマンスや売上が増加するだけでなく、持続的成長も可能になる。そうなれば、商品開発に再投資でき、企業価値がさらに向上する」と述べ、この循環をつくり上げていくことが大切だと主張した。
このほか、張氏は「人罪・人在・人材・人財」の4つの人材モデルを紹介した。スキルも低く自己中心的で存在そのものが周囲へ悪影響を及ぼす人を「人罪」、スキルは高いが一匹狼的な人を「人在」、育成余地が大きく可能性に満ち溢れている人を「人材」、自社にとって宝となる「人財」と定義する。
「人材」はトレーニングで磨き上げることで「人財」に変化し、「人在」は変化の可能性が低く辞めて他社に行く可能性も高いが、気づき能力や自己革新能力が高ければ「人財」に変化するという。一方、「人罪」の多くは変化しないが、何らかのきっかけで突然変異し「人財」になる可能性もあるとした。
武藤自動車・武藤氏:発想と着眼点を顧客目線に

その後、クレーム事例について話し合う集合教育に移行。最初は、客が悪いという意見が多かったものの、数ヶ月続けていくうちに、こちら側も襟を正していかなければいけないという意見も出始めたという。その結果、「一年ほどで社内の意識が変わり始め、それに合わせてクレームも減っていった」と武藤氏は集合教育の成果を紹介した。
また、厳しいタクシー業界の中で生き抜いていくために、同社は地域密着という観点から介護タクシーを始めた。「これにより、乗務員がお客様にどのように接すべきか考えるようになった。着眼点や発想が変わってきたのが大きい」と武藤氏。現在、7割の従業員が介護ヘルパーの有資格者で、今夏にはその数は8割に達する予定だ。さらに、子育てタクシーとして、陣痛に陥った妊婦を手助けするサービスも始めている。
「お客様に喜ばれると乗務員もうれしい。お客様から感謝の声が届いたときには、みんなの前でそれを発表する。そうすれば、次のサービスについて考えるようになる」と述べ、CSとESが相関関係にある実例を示した。
社内コミュニケーションで業績アップ

また、コンプライアンスと自律創造型とのバランスについて、井本氏は「コンプライアンス教育は全員に徹底している。ただ、労働時間を基軸とした現在の労働基準法は時代に合っていないのではないか。サービス業は時間ではなく知恵が価値を生む業種。自らが時間を管理できないと、お客様に柔軟に対応できない」と述べ、サービス業における特性を指摘した。
一方、張氏は「自らを律する自律型人材を育てる以外、コンプライアンスの問題は解決されない。日本人としての道徳教育を見直し、トップから倫理観を示すべきだ」と述べ、法令遵守とモラルのバランスを取る大切さを主張した。
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構成:山田友樹