取材ノート:国が本腰入れるMICE、認知浸透と人材育成が急務
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MICEの読み方と意味がまだ浸透していない
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今回の会議でもMICEの4分野にわたって重要な課題とされたのが、国民に対するMICEという言葉とその概念の周知だ。JNTOの間宮氏は、「2009年12月に開催された国際ミーティング・エキスポ(IME)で各地のコンベンションビューローなどにアンケートを取ったところ、MICEのうちCへの取り組みは100%だがMとIは半分、Eは2割くらいしか取り組んでいない。知名度の向上と、C以外の取り組みを増やさなくてはいけない」と現状改善を強く求めた。日本コンベンション&コングレスビューロー(JCCB)会長の猪口邦子氏は「まだ一般の人はMICEという言葉の読み方も意味もわからない。読み方や、それぞれの文字の意味も書いて示すべき」と指摘し、さらに「日本は一般観光が世界28位に対し、国際会議誘致は4位。国際会議が日本の隠れた実力分野であることを国民に理解されるような広報活動を」と強調した。
外国へのプロモーションについて、日本ホテル協会会長中村裕氏は「MICEビジネスは国と国の競争。日本は他の国と比べ何が強いのかを打ち出すことが大事だ。他の国にはないユニークベニューでのテーマパーティなど、日本的な催しを打ち出す必要がある」と話す。
MICE誘致に関し、観光庁審議官の甲斐正彰氏は、「来年度は海外の有名見本市で、日本がMICEを誘致する場を設ける。さらにこれまで国際会議ではキーパーソンを招聘したり、総理大臣の名前で誘致をしたりしていたが、MICE誘致でも同じようにやっていきたい」と説明している。
受け入れ態勢の課題
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施設インフラなどハード面の課題もある。特に、インセンティブで問題になるのが、ユニークベニューの使いにくさだ。日本旅行業協会(JATA)会長の金井耿氏は「外国では、美術館、博物館、城などがMICEのレセプションで使える。ウィーンのミーティングプランナーズガイドでは公的施設のMICE用施設を掲載しており、ウィーン自然史博物館ではスペース、収容人数を提示している」と事例を紹介し、「日本では美術館、博物館は使用の手続きが煩雑で直前にならないと予約できない。何年も前から予約できないとMICEとして招致しにくい」と公的施設の使用条件の緩和を訴えた。これに対し、観光庁参事官の大滝昌平氏は「ユニークベニューとして解放している施設のリストを作ろうとしている。制度的な問題が出てくれば、関係省庁などに協力を求めていきたい」と、観光庁の取り組みを説明した。
一方、存在自体がユニークといえる旅館は、欧米の会社の30人から40人単位のインセンティブに利用されているという。「畳に座ってお膳を前に日本酒を豪快に楽しむスタイルなどは、非常に満足度が高い。GDSを活用した予約システムを構築し、情報発信しながら予約を積極的に受けていく」と国際観光旅館連盟会長佐藤義正氏は話す。ただし、「外国のキャッシュカードが使えるATMがない。たまたまセブン銀行のATMでキャッシングしてもらったが、国際会議で地方都市に誘致するとATM設備も必要になる」と課題も加える。
このほか、商工会議所の須田氏から「地方の展示場、会議場は十分でない。立派なビルである必要はないので、有休施設を使うなどコストのかからない方法で整備をしてほしい」と、地方の実態について指摘があった。
経験やノウハウを有するMICE人材育成を
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同会議ではMICE分野からYOKOSO!JAPAN大使に任命された、国際会議運営の専門家である川島アソシエイツ代表の川島久男氏と、情報伝達研究所代表取締役の渡辺厚氏も出席。この問題について川島氏は「会議の国際本部は“日本で開催する真のメリット”を知りたがっているが、日本の国際会議主催者や業界はそれを把握していない。反対に国際本部も日本の業界を知り得ていないというミスギャップがある」と指摘した上で、「海外の有力PCO(プロフェッショナル・コングレス・オーガナイザー)とコンベンションビューローは交流があり、インターンを受け入れている。そこに日本の業界の人が研修に行くのもいいのではないか」と提案。
ベニューの立場で30年間コンベンションを受け入れてきたという渡辺氏は「国内では観光分野で先駆的な立教大学観光学部でも、コンベンションやMICEの講座は1つしかない。韓国を含め諸外国の大学はコンベンションの学科、講座が多岐に渡っている。高等教育機関での人材育成を期待したい」と話した。
これらの意見をふまえ、観光庁の甲斐氏は「ここで出た課題は、観光庁だけでなく横断的なしくみを活用しながら考えていきたい」とし、「ビジット・ジャパン・キャンペーンも2003年にはじめ、6年かけて浸透してきた。MICEは行政として本格的に取り組んで間もない分野。大きく成長させていきたい」と結んだ。
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取材:平山喜代江
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