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MICEビジネストレンド:インセンティブ誘致が始動(1)アジア市場動向

  • 2010年1月26日
アジアに的を絞ったインセンティブ誘致が始動
〜IME2009で探った市場動向に学ぶ〜


 昨年12月に開催された、日本で唯一のMICE見本市「国際ミーティング・エキスポ」(IME2009)。観光庁、日本政府観光局(JNTO)、日本コングレス・コンベンション・ビューロー(JCCB)が主催する一大イベントで、全国のコンベンションビューローや関連団体、企業、外国政府観光局など82団体が出展。100以上のブースに約2960人のMICE関係者が来場した。今年で19回目を迎えるが、今回は会議イベントのみならず、アジアからインセンティブ旅行のキーパーソンを招いた商談会も開催されるなど、インセンティブへの取り組みも見られた。このIME2009からインバウンドのインセンティブ市場を探る。


アジア市場は旅行会社が主役

 観光庁のMICE推進担当参事官付コンベンション振興指導官の宮下彰氏は、インバウンドのインセンティブの特徴を次のように話す。「アジア市場においてインセンティブは、ミーティングプランナーではなく旅行会社が主役。コンタクトパーソンが絞りやすいため、誘致しやすい」。さらに、グループの規模が大小多様であるため、さまざまな都市にチャンスがあるという。「小規模インセンティブをねらったり、大型案件のアフターコンベンションを誘致するなどいろいろなアプローチがある」と、インセンティブによるMICE誘致の広がりに期待を寄せる。

 観光庁は2010年を「JAPAN MICE YEAR」とし、大規模なプロモーションを推進していく。IME2009でもアジアのインセンティブ旅行のキーパーソン32人を招聘。研修旅行とサプライヤー約50団体との商談会「ジャパンインセンティブショーケース2009」を開催した。


訪日旅行のインセンティブはおよそ4万人

 インバウンドのインセンティブ市場について、日本政府観光局(JNTO)のコンベンション誘致部長(MICE推進担当)の小堀守氏は「JNTOが把握しているのはアジアを中心に約400本、3万7000人だが、実態はその何倍も来ているはず」と話す。公式な数字ではないとしながら、「国際会議が約12万人。展示会と企業会議、インセンティブはデータがないが、推計でインバウンド約800万人(2008年規模)のうち、5%前後の約40万人がMICE市場」と見込む。

 ここ数年のインセンティブの傾向は「韓国、台湾発が落ち込み、アジアとの価格競争がある視察型旅行などは非常に悪かった。しかし、タイなど東南アジアからの動きは活発」という。中国では1000人を超えるような大型インセンティブが伸びており、「今まで外資系企業が中心だったが、自動車、製薬などの中国系企業も日本を選ぶようになるなど、裾野が広がっている」と説明。買物、自然、温泉、食などの日本の魅力とアジアからの近さが、インセンティブ需要を惹きつける要素だと話す。

 MICEでは、国際会議が観光立国推進基本計画に盛り込まれたこともあり、誘致が強化され、実際に開催件数が伸びている。しかし、大規模会議は会場となる施設のキャパシティの問題があり、中小規模が多いという。これに対してインセンティブは「観光資源と宿泊施設が揃っていれば受け入れが可能で、プロモーションをすれば来てもらいやすい。日本全体の魅力や近さというメリットがアジアの人にアピールする限り、大きく伸びると思う」と、期待を寄せる。


インセンティブに取り組むコンベンションビューロー

 各地方のコンベンションビューローのなかにも、積極的に取り組んでいるところがある。札幌コンベンションビューローが全国で初めてインセンティブコーディネーターという専門職員を設け、ユニークなプランの提案を開始したほか、横浜観光コンベンション・ビューローは韓国から約3000人、タイから約1000人規模の外資系保険会社の団体など、大型インセンティブの誘致に成功。同団体はインセンティブツアー向けに助成金プログラムも用意しているという。

 一方、産業振興という新たな切り口を全面に出しているのが、西日本産業貿易コンベンション協会だ。エリアの中心である北九州は、かつての公害被害から環境都市として生まれ変わっているだけに、経済発展中の国や地域の見本となっている。ここの売りが“環境技術”。北九州市エコタウン・総合環境コンビナートを中心に、工場、廃棄物処理やリサイクルなどの環境技術の視察を提供している。

 こうした動きのなか、旅行会社はどのように関わっていけるのか。小堀氏はいう。「中国やアジアでは、民族系のオペレーターを使うことも多いと聞いている。また、中国で日本の旅行会社の合弁企業、または独資企業による現地発の取扱い解禁にも期待している。さらに、市場が大きくなってより高品質のものを求める層が出現すれば、日本の旅行会社にしかできないサービスや商品が求められる」。実際に、リーダーシップセミナーを開催する外資系企業からは「日本のインセンティブがダントツ」という声も聞かれるという。「日本のサービス力をいかに組みあわせて提供するか、その点は日本の旅行会社が参入できる部分」と小堀氏は話す。


課題解決には一般への周知、インセンティブが秘める可能性

 1981年から、インセンティブの企画運営に取り組むイベントサービス代表取締役の森本福夫氏はこう述べる。「インセンティブは“特別な”体験を提供すること。そのためには、普段使われない場所で人を喜ばせて楽しませる企画が欠かせない。おもてなしやサプライズのアイデアをいかそうにも、日本は美術館や公園など公的施設の利用制限が多すぎる。そのためにMICEは経済効果があり、人を喜ばせるものであることを、国民に向けて理解・協力を求めることが非常に大切」と、力を込める。

 コンベンションビューローの足並みも揃っているとはいえない。インセンティブは民間企業が誘致をするという認識だったため、自治体が取り組む予算や体制が整っていないところもある。コンベンションビューロー側からも「国際会議や展示会などの施設面の情報は揃えているが、インセンティブに関する情報はどこまで国が求めているのか基準がわからない状態。会議同様にスタンダードができるといい」という声も聞かれた。

 JNTOの小堀氏は「インセンティブが大きな市場であることがわかれば、業界だけでなく自治体を含めたトータルなプロモーションができる。地方都市が連携してそれぞれのいいところを組みあわせたアイテナリーを作るなど、新たなブランド創造の可能性が広がる」と示唆する。

 国内のインセンティブの開拓が進むと、国内企業や団体のインセンティブ需要の拡大や富裕層市場とのつながりなど、新たな展開を秘めている。旅行会社にとってはオペレーションに留まらず、アウトバウンドでのノウハウをいかしてコーディネーターやDMC(デスティネーションマネジメントカンパニー)的な役割を担うことが、このマーケットに入り込む手段になるだろう。


訪日MICE市場全体の実態把握を

 これまで、インセンティブや企業会議の市場全体を定量的に示す公的な統計
がなかった。その理由は入国時に訪問目的のデータを取っておらず、さらに各
案件は旅行会社やホテル、会議施設などの営業努力で受注していたため、自社
の営業情報として数字を表には出してこなかったからだ。

 これについてJNTOの小堀氏は、年間何千件もの企業会議を開催するシンガポ
ールでは、産業界からのデータ提出により数が把握されていることを説明し、
「アメリカの業界誌によれば、トヨタは年間600件の会議をしているが、日本
に何件くらい来ているのか掴めていない。観光庁とわれわれと業界が一体とな
って数字の把握に努めないといけない」と、重要性を強調。そのためには「自
治体レベルでは、一定規模以上のインセンティブは把握が可能なはず。データ
をとっているホテルもある。問題はそれを合算する仕組みがないこと」と問題
点をあげる。観光庁の宮下氏も「インセンティブの市場調査を来年度予算には
組み込んでいる」と、具体的な実態把握に取り組む方針だ。



取材:平山喜代江