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取材ノート:市場拡大の鍵はカジュアルクルーズ−販売に向け魅力の再認識を

  • 2009年11月17日
 海外旅行需要の低迷がされるなか、新たな市場開拓が求められる。そのひとつとして期待がかかるのがクルーズ。今年のJATA世界旅行博では「再発見−カジュアルクルーズの魅力と新規市場開拓」と題し、日本のクルーズ市場拡大をめざすシンポジウムが開かれた。モデレーターはPTS執行役員でJATAクルーズ旅行推進部会副部会長の祖師英夫氏。パネリストには、郵船トラベルクルーズセンター東京副所長の西口正人氏、ミキ・ツーリストクルーズセンター営業係長の糸川雄介氏、スタークルーズ日本オフィス日本代表の荒木辰道氏、MSCクルーズジャパン営業次長の堀内浩氏、クラブツーリズム丸の内倶楽部クルーズデスク販売課長の岡本栄氏が登壇した。


欧米と日本で異なるクルーズのイメージ

 「旅行業界にとってカジュアルクルーズは救い手となるか」―。祖師氏は、「日本でクルーズは高付加価値商品として位置づけられていたが、クルーズ先進国アメリカでは、1泊100ドル、2日間からのカジュアルクルーズが一般的」と紹介する。価格だけでなく、タキシードが要らない服装の気軽さも人気で、クルーズの中で8割のシェアを占める。低コストの理由は、同じクルーズを通年で何度も運航する「定点・定期」のコース設定。また、バリエーションの豊富な海域や、港までのフライトやバスをセットにした「フライ(ドライブ)&クルーズ」も、アメリカのカジュアルクルーズ市場を支えている。

 日本と世界のクルーズ市場と比較すると、顧客の年齢層に開きがあるのも特徴だ。欧米では40代から利用されているが、日本では50代後半以上、60代から70代がメインの客層。西口氏は、「熟年層は飛行機より気軽なので船を選び、乗ってみたら楽しいのでリピーターとなる。今後はいかに若い世代を取り込むかが課題」と述べる。

 カジュアルクルーズは過去8年間で、ドイツで220%増、イタリアで173%増など、EU諸国で高い伸びを示し、北米ではカナダで137%増となった。一方、日本では、同時期に12%減少。祖師氏は、「クルーズは高級、窮屈、長期といった誤解がある。欧米で主流のカジュアルクルーズがまだ認知されていない」と語る。

販売ポイントは説明力、社員が知識を備えて

 クルーズの認知拡大のため、2003年にはクルーズアドバイザー認定制度が開始された。これにより、旅行会社の販売員がクルーズについて正しい知識の修得と、顧客へのコンサルティング提供を推進し、現在20万人の日本のクルーズ人口を50万人に増やすことが目標だ。糸川氏は、「消費者の認知度と旅行会社の販売員の知識が同レベルであることが、他の旅行商品との差」として、旅行会社への啓蒙の必要を訴えている。

 西口氏も「クルーズの魅力はパンフレットだけでは伝えきれない」と、販売員による説明を重視。祖師氏は「ラグジュアリー商品とカジュアル商品、それぞれの良さを販売員が理解し、顧客が求めるイメージとのミスマッチを防ぐことが大切」と強調した。「クルーズは説得商品。顧客への説明会は不可欠」という岡本氏によると、クラブツーリズムではコース別の説明会を随時実施するほか、年2回、1日約500名が参加する大説明会を開催。「クルーズ・コンサルタントが実際に乗ったときの体験談を交えて、各ランクの良さを具体的に話すことがポイント」だという。

 堀内氏は、「フライ&クルーズなどはトータルの価格だと高く見られるかもしれないが、そこにはエンターテイメント、食事、万が一の時の医療費など、基本がすべて含まれている。なぜこの価格なのか、販売員の口から付加価値をもっと伝えてほしい」と語った。

日本市場にあうクルーズ商品とは

 では、カジュアルクルーズを日本の消費者に勧める場合、どのような視点が必要だろうか。荒木氏は、過去4年間に前年比50%増を実現したスタークルーズについて「服装規定がない上、洋食、中華、寿司など日本人にあった食事を選べるので、馴染みやすかったと思う。日本語サービスを提供していることも実績につながったのでは」と分析する。ナポリに本社を置くMSCクルーズジャパンでも、メインの食事はイタリアンだが、2隻の客船には寿司バーを設け、好評だという。

 外国船か日本船かの選択肢については、西口氏が「日本船は割高になるが、日本式のおもてなしを受けられる。外国船は言葉の違いがあるが、スタッフは陽気で楽しい」と各長所を示し、岡本氏は「顧客の好みは千差万別。多様な選択肢として両方を案内」と続ける。祖師氏は、「高齢者には日本船が好まれる。ポイントはセグメント分け」と指摘。岡本氏によるとクルーズの8割はリピーターであるため、クラブツーリズムでは参加時期、コースなどを細かくデータベースにし、セグメント分けした世帯に専用カタログを発行しているという。

 また、価格設定は、欧米では予約状況による変動相場制が一般的だが、糸川氏は「日本ではカジュアルクルーズ市場が未成熟であり、価格競争に陥ってしまう懸念から、円建ての固定料金を設定した」と述べる。荒木氏も「旅行業界でこれ以上の価格競争は限界。新規の旅行会社に取り扱ってもらうためには、旅行会社の収益になるだけの価格をキープする必要がある」と言及した。

高い可能性の兆し、マスコミ露出も鍵

 今後の展望としては、チャーター便の就航、ファミリー層獲得のための子供料金の設定などが検討項目にあがった。糸川氏は「船そのものがデスティネーションという認識」と述べ、シンクロナイズドスイミングやアイススケートも楽しめる船内施設を紹介。堀内氏は「クルーズなら1週間でも多数の世界遺産を見られる」とアピールし、需要を探る。

 2010年5月にはロイヤル・カリビアン・インターナショナル(RCI)の「レジェンド・オブ・ザ・シーズ」による横浜発着クルーズ(9日間、9万8000円)が2本、運航される。祖師氏は「クルーズ認知にはマスコミでの露出が効果的」とし、この好機に注目を集めることを期待。さらに、「海外の船が日本に来ることは、ツーウェイツーリズムにもなり得る」とも語る。同クルーズは発売後1ヶ月で完売しており、「日本のカジュアルクルーズ市場の夜明け」と期待を寄せている。


取材:福田晴子