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MICEインタビュー:ノエビアツーリスト代表取締役社長 藤本剛司氏

  • 2009年11月10日
MICE成功のキーワード(9)
「失敗しないこと」−基本に忠実、経験則でトラブル回避



 化粧品を販売するノエビアグループの旅行部門として1982年に設立されたノエビアツーリストは、同グループ代理店の営業成績優秀者を対象に、年2回、600名規模の海外インセンティブツアーを手がけている。主な行き先はアメリカ本土、ハワイなどが中心で、参加者のほとんどは女性だ。代表取締役社長の藤本剛司氏は、同社に入社してインセンティブに携わり12年。それまでのさまざまな旅行業経験を活かし、豊富なアイディアと経験に基づいた機転でツアーを成功へ導いている。インセンティブツアーの秘訣を聞いた。

Q. 旅行業の経歴を教えていただけますか

 大学卒業後、1980年代に旅行会社に就職し、最初は南極のような「秘境」やインド、エジプト、セイシェル諸島といった地域への旅行を手配していました。それから航空券の仕入れを担当し、ほとんどすべての航空会社と取引を経験。次いで8年ほど国内外のクルーズ旅行に携わったのち、ホノルルマラソンや日食ツアーといったテーマ性のある旅行を企画・運営しました。パンフレット作りから添乗まで、旅行業のすべてにかかわってきた上で今のインセンティブに行き着いたのは、恵まれていたと思います。

 大型インセンティブツアーは、いわばさまざまな旅行要素の集大成です。いきなり担当できるものではありません。ともすれば企画だけよければいいという頭でっかちになりがちですが、食事・交通・宿泊は、やはり大事な基本です。ひと通りの業務を経験した人が担当者にふさわしいでしょう。

 数百名、数千名規模のツアーで主催者側が払う金額は、億単位になります。成功のキーワードをあげるとすれば、それは絶対に「失敗しないこと」。リカバリーできないようなトラブルがあったりしてはならないのです。そのためには、ベストな方法をすばやく判断する経験と知識の積み重ねが求められます。

Q. MICE業界では手配業からコンサルタント業への発展が注目されますが、その中で基本の重要性とは

 確かに旅行業全体、特にMICEでは総合的なプロデュースが重視されます。私は、基本の食事・交通・宿泊だけでも工夫と改良次第では変えられるし、磨いていくべきところだと思っています。イベントの演出も大切ですが、まずは基本。食事・交通・宿泊の勉強の上に、新しい創造力が生きてくるのです。

 例えばニューヨークの場合、600名がホテルのバンケットルームで朝食をとると、1人あたりのコストは100ドルに上ります。ところが同じメニューでも、通常の朝食券で対応すれば1人35ドル。問題は朝食を出すレストランのキャパシティですが、ホテルを何軒かに分けたり、出発日をずらしたりすることでクリアできます。食事の手配だけでも、多様な運営方法が考えられるでしょう。ラスベガスでは、バフェを利用して喜ばれたこともあります。バフェは原則的に予約を受けないので、これは現地オペレーターにとっても前代未聞のチャレンジでした。

 また、旅行業界は変化が激しいのが特徴です。例えば、ホテルのレベニューマネジメント。アメリカをはじめ、最近は日本や他の国でも増えてきており、予約時期や空室状況で部屋の価格が変動します。この仕組みだと価格はほぼ自動的に決まるので、ホテルに営業マンは要らないといって過言ではありません。リピーターでも優遇されず、値段交渉の余地がふさがれてしまうのは、寂しい時代になったと感じます。しかしレベニューマネージメントでも、キャンセル料の条件などでは交渉が可能です。刻々と変わる現地事情に敏感に反応し、つねに臨機応変に対応していかなくてはなりません。

 基本としては、大風呂敷を広げてたくさん仕入れ、あとでキャンセルするよりも、数にブレがないことを心がけています。サプライヤーの信用は非常に重要。無理を強いて値段をたたくようなことも避けます。めざすのはWin−Winの関係。はじめが肝心ですから、契約内容をきちんと理解するのも大切なことです。


Q. 御社のホームページでは、さまざまなトラブル回避や企画のエピソードも紹介されています。そのような発想の源は何でしょうか

 面白い企画は意外と、マラソンの練習で走っているときに思いついたりするんですよ。私は以前実施したホノルルマラソンのツアーがきっかけで、自分でも走るようになりました。走りながらネガティブにはなれないものです。ポジティブなときに、ふと良い企画が生まれます。実現するのが大変なこともありますが、結局は好奇心が勝ってしまいます。

 現地の下見ではとにかく、好奇心旺盛に動いていますね。かなりの数のレストランをリストアップし、新しい店ができたら食べに行く。地元の人に話を聞き、ナイトクラブでもドーナツショップでも、あらゆる場所に足を運ぶ。ハワイでは、そうして見つけた「ラニカイジュース」という人気の野菜ジュースをウェルカムドリンクとして配り、参加者から好評を得ました。インセンティブのポイントは「非日常感」ですが、お金をかけて凝ったものばかりでなく、こういった細かい気遣いを大事にしています。

 インセンティブツアーに参加されるお客様はこれまで仕事をがんばってきたことに対する期待感があり、こちらにはそれに応えようとする使命感がある。その使命のため、あれこれ考えるのは楽しいですね。めざしているのは運営側も楽しめるような企画です。こちらが楽しまないと参加者も楽しめません。みんなが楽しまないといいものはできないと思います。そのため、ツアー中も全体の和やかな雰囲気づくりに努めています。たとえば、人間は空腹だとイライラするもの。トラブルが生じた場合は真っ先に食事に気を配ります。あたたかくておいしいものに満たされると、場も和み、安心していただけますから。

 ツアーにおけるホスピタリティのひとつとして、運営側の「汗」で表現するのも経験から得たものです。我々が汗をかいて尽くす姿で、参加者にホスピタリティを感じてもらえるのではないかと考えています。


Q.インセンティブ市場の現状と今後の見解をお聞かせください

 インセンティブの効果が数値でわからないのは、現在の課題のひとつですね。ツアーを実施したことで企業の業績がとたんに向上するかというと、データによる判定は難しい。そのため、不況になるとカットされやすい部分となってしまいます。しかしインセンティブの利点とは、ふだん吸収できないエネルギーを与えられること。参加者の中には、海外旅行が初めてという方もいます。服用したとたんに効く薬のような即効性はないにしても、まったく新しいエネルギーを得ることは、将来的に必ずプラスになると思います。

 今後は、クルーズが有望ですね。すべて船内で完結できる上、同じ内容なら陸上より価格的にも魅力。課題は、少なくとも6日間は必要になる日程。そして、大型船ほど契約条件がきびしくなることでしょう。しかし今後、絶対に注目されると思います。

ありがとうございました


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