取材ノート:教育旅行の危機管理−新型インフル対策は旅行中の健康管理
全国修学旅行研究協会は7月4日、「海外教育旅行安全対策セミナー」を開催した。毎年日本各地で開催しており、危機管理の基本に加え、今年は「新型インフルエンザへどう対処していくか」をテーマにとりあげた。出席者は70名弱で、その半数が高校を中心とした教員、半数が旅行会社。同協会理事長の中西朗氏は冒頭、新型インフルエンザの流行をはじめ、変化する世界情勢に対する学校と旅行会社に必要な備えとして、教職員の危機意識の喚起、早期の対応能力、旅行会社と連携した情報収集力の3点をあげ、「各校ごとにマニュアルの作成と認知を徹底しつつ、できる限り未然にリスクを回避して、生徒たちに安全で快適な海外教育旅行を体験する機会を与えてほしい」と挨拶した。
添乗員や引率する教職員に、正しい医学知識の教育を
日本旅行医学会専務理事の篠塚規氏は、「海外旅行中の健康管理〜旅行医学の立場から」として、一般に流布した間違った情報に惑わされず、新型インフルエンザに対して正しい認識をするよう促した。学校や旅行会社は、科学的根拠に基づく世界スタンダードな対応をとるのが望ましいとし、同氏の日本旅行医学会の学会誌やアメリカ疾病予防センター(CDC)のホームページなどに世界レベルの最新情報が掲載されていることを紹介した。
篠塚氏によると、新型インフルエンザは弱毒性で、死亡率は各国の経済状況を反映している。海外渡航歴がなくても日本国内で感染者が出ており、日本はむしろ感染国であり、新型インフルエンザの予防という観点では、海外渡航を自粛する意味がないとした。さらに、海外の先進諸国の対応と比較しながら、日本での一連の騒動についても言及。その一例として、マスコミが比較対照として約90年前に大流行したスペインかぜをあげたことについて、栄養状態や衛生環境、医療技術、情報量などが当時と異なる現代とはまったく比較にならないと話した。
感染を防ぐ手段は、従来のインフルエンザと同様に手洗いを徹底し、バランスの良い食事をとり、じゅうぶんな睡眠時間を確保し、適度な運動をして体の基礎免疫力を高めることが有効だ。旅行中のマスクについては正しく着用しなくては予防の意味がなく、発症者本人が他者への感染拡大を防ぐため、もしくは家族など身近に感染者がいる場合の予防用に向いているものだという。修学旅行中でも「生徒たちには好き嫌いをさせずバランスの良い食事をさせ、夜ふかしをさせない。そのうえで毎日体温を測って健康状態を把握すれば、海外教育旅行を実施しても問題はない」と篠塚氏。検温で高熱があった場合は、病院に連れて行く対処ができる。最近では体に触れただけで計れる体温計があり、団体でも時間をかけずに検温できるという。
ただし例外もある。新型インフルエンザは持病があると悪化するケースが多い。生徒に持病がある場合は、病院で処方された自分の病気にあった薬を生徒自身に持参させることが大切であることを強調した。
新型インフルエンザを懸念して教育旅行を取り消す必要はないとする一方で、旅行医学の立場から、添乗員や教職員に対して正しい医学知識を教育する大切さを説いた。日本では徹底されていないが、海外では親の同意書がなければ子どもは診察を受けられない場合もある。また、具体例として病院のかかり方を知らずに渡航した例や、感染症による旅行者下痢症を発症したツアー客に旅行会社の添乗員が下痢止めを渡してしまい、症状を悪化させた事例などがあげられた。
いたずらに恐怖心を与えるのではなく、生徒に安全配慮のコツを教える
「海外旅行における安全対策・危機管理」については、海外邦人安全協会理事でロングステイ財団理事の福永佳津子氏が登壇した。海外教育旅行をする最大の目的は、異文化の価値観を体験して自己の発展を促すことにあり、異文化のルールを知ることで避けられる犯罪もある。そのためにも、生徒たちにいたずらに恐怖心を与えるのではなく、安全配慮のツボを心得ていくつかのテクニックを知れば、むしろリラックスして旅を楽しめることを教えることが大切とした。
外務省の統計に基づくと、海外での邦人の事件事故被害の約6割が財産犯罪による。うち修学旅行中の生徒が被害にあう可能性の高いものは、窃盗・強盗・詐欺・遺失の4つ。これらについて、海外で実際に発生した事件事故の実例を交えながら、対策方法を紹介した。具体的には、窃盗は置き引きやスリ、ひったくりが多く、対策として貴重品は分散して持ち、万一被害にあっても深追いしないこと。また、睡眠薬強盗やエレベーター強盗があり、知らない人から物を受け取らないこと、エレベーターにはひとりで乗らず、危険を察知したらすぐに降りること、置き引きや遺失を防ぐためには手荷物の自己管理を徹底して、いつも体から離さないなどを説明した。このほか、ニセ警官詐欺のエピソードとして、言葉がわからずオロオロしたため被害に遭った例を紹介。「落ち着いて日本語で考えれば、騙されなかったはず」として「判断できるだけの情報を準備させ、自分は判断力を持った人間だという自信を生徒たちに持たせてほしい」と話した。
また、被害者になるケースを想定した危機管理対策は行なわれているが、知識のなさから生徒たちが加害者になる場合もある。文化の相違が犯罪に繋がるケースもあり、訪問国の風俗や文化、生活習慣やマナー、宗教上のタブーのほか、法令や規則を知り、加害者にならないための事前学習も必要と締め括った。
学校と旅行会社が情報を共有し、連携して教育旅行の早期回復を
近畿日本ツーリスト(KNT)専務取締役の越智良典氏は旅行会社の立場から、新型インフルエンザ対策の実際を話した。7月1日現在で新型インフルエンザの感染エリアは108ヶ国と12地域に広がり、感染者は7万7000人を越えた。この11月にはより威力を増した第二波が発生すると予測されている。世界各国の対応をみると日本は感染国とされており、日本への渡航自粛や、日本人の受け入れを制限した国もある。これにより旅行業界のみならず観光産業全体への経済的打撃は計りしれないと話した。
さらに、海外教育旅行における健康リスクの対処として、学校側には旅行医学に関する知識の向上を促した。具体的には一般的に海外で頻度の多い下痢やロングフライト血栓症といった症状や、若者に多いリスクとしてアレルギーなどがあり、常備薬や安全カルテの携行といった自己防衛力向上の教育や、緊急時の対応マニュアルの徹底などがあげられた。また、海外教育旅行を実施するにあたり、危機管理における実績や経験に基づく旅行会社の選び方にも言及した。
学校側からは、新型インフルエンザに限らず、予防接種の必要性といった的確で最新の情報提供や、いざという時のマスコミ対策も含めた旅行会社のサポートを期待する声があがった。
添乗員や引率する教職員に、正しい医学知識の教育を
日本旅行医学会専務理事の篠塚規氏は、「海外旅行中の健康管理〜旅行医学の立場から」として、一般に流布した間違った情報に惑わされず、新型インフルエンザに対して正しい認識をするよう促した。学校や旅行会社は、科学的根拠に基づく世界スタンダードな対応をとるのが望ましいとし、同氏の日本旅行医学会の学会誌やアメリカ疾病予防センター(CDC)のホームページなどに世界レベルの最新情報が掲載されていることを紹介した。
篠塚氏によると、新型インフルエンザは弱毒性で、死亡率は各国の経済状況を反映している。海外渡航歴がなくても日本国内で感染者が出ており、日本はむしろ感染国であり、新型インフルエンザの予防という観点では、海外渡航を自粛する意味がないとした。さらに、海外の先進諸国の対応と比較しながら、日本での一連の騒動についても言及。その一例として、マスコミが比較対照として約90年前に大流行したスペインかぜをあげたことについて、栄養状態や衛生環境、医療技術、情報量などが当時と異なる現代とはまったく比較にならないと話した。
感染を防ぐ手段は、従来のインフルエンザと同様に手洗いを徹底し、バランスの良い食事をとり、じゅうぶんな睡眠時間を確保し、適度な運動をして体の基礎免疫力を高めることが有効だ。旅行中のマスクについては正しく着用しなくては予防の意味がなく、発症者本人が他者への感染拡大を防ぐため、もしくは家族など身近に感染者がいる場合の予防用に向いているものだという。修学旅行中でも「生徒たちには好き嫌いをさせずバランスの良い食事をさせ、夜ふかしをさせない。そのうえで毎日体温を測って健康状態を把握すれば、海外教育旅行を実施しても問題はない」と篠塚氏。検温で高熱があった場合は、病院に連れて行く対処ができる。最近では体に触れただけで計れる体温計があり、団体でも時間をかけずに検温できるという。
ただし例外もある。新型インフルエンザは持病があると悪化するケースが多い。生徒に持病がある場合は、病院で処方された自分の病気にあった薬を生徒自身に持参させることが大切であることを強調した。
新型インフルエンザを懸念して教育旅行を取り消す必要はないとする一方で、旅行医学の立場から、添乗員や教職員に対して正しい医学知識を教育する大切さを説いた。日本では徹底されていないが、海外では親の同意書がなければ子どもは診察を受けられない場合もある。また、具体例として病院のかかり方を知らずに渡航した例や、感染症による旅行者下痢症を発症したツアー客に旅行会社の添乗員が下痢止めを渡してしまい、症状を悪化させた事例などがあげられた。
いたずらに恐怖心を与えるのではなく、生徒に安全配慮のコツを教える
「海外旅行における安全対策・危機管理」については、海外邦人安全協会理事でロングステイ財団理事の福永佳津子氏が登壇した。海外教育旅行をする最大の目的は、異文化の価値観を体験して自己の発展を促すことにあり、異文化のルールを知ることで避けられる犯罪もある。そのためにも、生徒たちにいたずらに恐怖心を与えるのではなく、安全配慮のツボを心得ていくつかのテクニックを知れば、むしろリラックスして旅を楽しめることを教えることが大切とした。
外務省の統計に基づくと、海外での邦人の事件事故被害の約6割が財産犯罪による。うち修学旅行中の生徒が被害にあう可能性の高いものは、窃盗・強盗・詐欺・遺失の4つ。これらについて、海外で実際に発生した事件事故の実例を交えながら、対策方法を紹介した。具体的には、窃盗は置き引きやスリ、ひったくりが多く、対策として貴重品は分散して持ち、万一被害にあっても深追いしないこと。また、睡眠薬強盗やエレベーター強盗があり、知らない人から物を受け取らないこと、エレベーターにはひとりで乗らず、危険を察知したらすぐに降りること、置き引きや遺失を防ぐためには手荷物の自己管理を徹底して、いつも体から離さないなどを説明した。このほか、ニセ警官詐欺のエピソードとして、言葉がわからずオロオロしたため被害に遭った例を紹介。「落ち着いて日本語で考えれば、騙されなかったはず」として「判断できるだけの情報を準備させ、自分は判断力を持った人間だという自信を生徒たちに持たせてほしい」と話した。
また、被害者になるケースを想定した危機管理対策は行なわれているが、知識のなさから生徒たちが加害者になる場合もある。文化の相違が犯罪に繋がるケースもあり、訪問国の風俗や文化、生活習慣やマナー、宗教上のタブーのほか、法令や規則を知り、加害者にならないための事前学習も必要と締め括った。
学校と旅行会社が情報を共有し、連携して教育旅行の早期回復を
近畿日本ツーリスト(KNT)専務取締役の越智良典氏は旅行会社の立場から、新型インフルエンザ対策の実際を話した。7月1日現在で新型インフルエンザの感染エリアは108ヶ国と12地域に広がり、感染者は7万7000人を越えた。この11月にはより威力を増した第二波が発生すると予測されている。世界各国の対応をみると日本は感染国とされており、日本への渡航自粛や、日本人の受け入れを制限した国もある。これにより旅行業界のみならず観光産業全体への経済的打撃は計りしれないと話した。
さらに、海外教育旅行における健康リスクの対処として、学校側には旅行医学に関する知識の向上を促した。具体的には一般的に海外で頻度の多い下痢やロングフライト血栓症といった症状や、若者に多いリスクとしてアレルギーなどがあり、常備薬や安全カルテの携行といった自己防衛力向上の教育や、緊急時の対応マニュアルの徹底などがあげられた。また、海外教育旅行を実施するにあたり、危機管理における実績や経験に基づく旅行会社の選び方にも言及した。
学校側からは、新型インフルエンザに限らず、予防接種の必要性といった的確で最新の情報提供や、いざという時のマスコミ対策も含めた旅行会社のサポートを期待する声があがった。
取材:工藤史歩