MICEインタビュー:ジャパングレーライン 専務取締役 安達敏春氏
MICE成功のキーワード(3)
ハードウエア、ソフトウエアだけでなく、「ハートウエア」の発展を
2009年で創立50周年を迎えるジャパングレーラインは、1970年にインセンティブ事業部門を開設して以来、MICEの中でも特にインセンティブツアーや表彰イベントを中心に展開してきた。当初に比べると海外旅行が身近な時代になったとはいえ、同社専務取締役の安達敏春氏は、昨今も海外へのインセンティブツアーは「夢」の対象であり続けていると強調する。現在のMICEビジネスについて、安達氏の見解を聞いた。
Q.現在の経済状況におけるMICE市場をどう見ますか
経済不況の中、インセンティブが不可欠だといわれる自動車、電機、保険などの業界では、やむを得ず経費削減といった緊急事態となり、今年度は取り止める、もしくは予算を縮小して実施する傾向にあります。ただし、新型インフルエンザの逆風を受けながらも、全体としては安全で近い開催地を設定する企業が多く、当社では韓国、台湾、マカオ、グアム、ハワイなどを提案しています。
多くの企業は、「インセンティブやコンベンションの最大の目的は参加者の志気を高めることであり、直接売り上げに繋がる重要な戦略」だと考えています。たとえば広告宣伝では、幅広い消費者に向けて展開しますね。一方インセンティブは、商品を売る営業担当に絞ってアピールします。目標を達成したら間違いなくカリブ海に、マカオに、あるいはモナコに行けるといわれる。目標ができたために昨年届かなかった成果を今年は達成し、企業に貢献し、自分も海外で華やかに表彰される。このインパクトは絶大です。
当社は数十年来インセンティブ事業を続けていますが、ツアーや表彰によるインセンティブの仕組みは、なくなるものではありません。「栄誉」によって動機付けられる心理は、時代も業界も問わず、ずっと変わりません。それはやはり「効いている」からでしょう。
Q.インセンティブを海外で実施することは「効き目」にどう影響しますか
ある外資系自動車会社の部長との話では、営業マンを本国で試乗させ、その国の文化、風土、空気に触れさせると、売り上げが伸びるのだと聞きました。また、化粧品など女性が活躍する企業のイベントを手掛けてきた経験によると、女性は男性以上に、海外旅行に招待されたい、華やかな舞台で表彰されたいという想いが熱いようです。会場で涙を流されるのは圧倒的に女性が多く、とても感動していただけます。
昨今は海外旅行が非日常から日常になったといっても、年に何十回も行けるような人は限られています。仕事や家庭を持つと旅行に行きにくい環境となり、営業の第一線でがんばっている世代の方は、やはり海外旅行は「夢」だとおっしゃいますね。報奨旅行ならば家族の理解も得られます。特に女性は、旅行の準備に新しい服を買うほど、とても楽しみにしていらっしゃるようです。
Q.今春は観光局などと「マカオMICEセミナー」を開催しましたね
今年3月17日にマカオ観光局、阪急交通社とともに「マカオMICEセミナー」を開催しました。そもそもマカオでのMICEに興味を持ったのは、ホテルやマカオ観光局によるイベントやワークショップを通じたプロモーションがきっかけでした。また、当社の営業マンが企業の担当者から話を聞き、いち早くニーズが掴めた結果でもあります。
以前は日帰りの遺跡観光が主流だったマカオですが、近年はカジノや収容人員4000人から5000人規模のバンケットルームを備えたホテルが立ち並び、一躍エンターテイメントシティとしての注目が高まっています。数年後に香港とマカオを結ぶ橋が完成すると陸路の利便性も増し、いっそう面白いデスティネーションになると思います。当社では香港経由だけでなく、ビバマカオ航空(ZG)のチャーター便の利用も検討しています。
▽関連記事
◆マカオ観光局、MICE誘致を本格化−独自の強みを活かして需要取り込みへ(2009/03/18)
Q.ワークショップやイベントは有効だと考えますか
重要ですね。何より最初に大切なのが情報です。時間的に自らが全世界へ行くことができない以上、効率の良いワークショップなどを利用して、最新の事情を知ることが一番だと思います。新しいベニューやアクセス、急病人が出たときの対応施設など、大規模なMICEを円滑に進めるためにはあらゆる場面を想定して細かくチェックする必要があるので、直近の情報をできる限りたくさん仕入れたいと思っています。人に聞いて初めて分かる事実もありますから、ワークショップには積極的に参加するようにしています。
もっとも本来ならば、自分で現地へ足を運び、目で見て、触れて、聞いて、感じて帰ってくるのがベストです。単に施設だけでなく、そのコンベンション会場での盛り上がり、施設の使い勝手は、お客さんが入っていて初めて分かるもの。まったく誰もいない空間ではなく、MICEを実施している場面を見せてもらえると、どのような配慮がなされているか具体的に分かるので良いですね。
最近はFAMトリップや研修ツアーが比較的少なくなってきたように感じます。顧客に説得力のある情報を伝えるためにも、観光局の協力を得つつ、現場に近いスタッフが視察できる機会をもっと設けていければと思います。
さらに一ヶ国だけでなく、たとえばEU諸国の観光局が一丸となったFAMがあればぜひ、参加したいですね。また、毎年視察が行なわれる国と、南米や北欧、南アフリカなど機会の限られた国とが、少々偏っているかもしれません。参加費用を払ってでもいいので、企業の担当者と一緒に現場を見てまわれるような企画ができると、業界全体がより盛り上がるのではないでしょうか。
Q.これまでのMICE経験で得た「成功のキーワード」とは?
一言でいえば、「ハートウエア」でしょう。心に訴えること、感動を伝えること。これは創業者の思いでもあります。当社はMICEの中でもインセンティブを主軸に成長してきた会社です。ツアーという限られた時間内でも、努力して参加された方々の汗と涙を汲み取り、栄光ある表彰の場において、そのご苦労を償却したい。私達は主催者が感謝の気持ちを伝えるためのお手伝いをしているのですから、ちゃんと伝わった時に「成功」となり、感動が生まれ、次につながる。感動、共感、つまり元をたどれば心、「ハートウエア」が大切だと思っています。
ありがとうございました
▽過去の成功のキーワード
◆ジェイティービー 旅行マーケティング戦略部 久家実氏
市場に対する価値提供(2009/05/22)
◆日本旅行MICE 営業部 部長 石垣隆久氏
専門部署スタートでMICE営業を集中強化、プロ育成をめざす(2009/04/14)
ハードウエア、ソフトウエアだけでなく、「ハートウエア」の発展を
2009年で創立50周年を迎えるジャパングレーラインは、1970年にインセンティブ事業部門を開設して以来、MICEの中でも特にインセンティブツアーや表彰イベントを中心に展開してきた。当初に比べると海外旅行が身近な時代になったとはいえ、同社専務取締役の安達敏春氏は、昨今も海外へのインセンティブツアーは「夢」の対象であり続けていると強調する。現在のMICEビジネスについて、安達氏の見解を聞いた。
Q.現在の経済状況におけるMICE市場をどう見ますか
経済不況の中、インセンティブが不可欠だといわれる自動車、電機、保険などの業界では、やむを得ず経費削減といった緊急事態となり、今年度は取り止める、もしくは予算を縮小して実施する傾向にあります。ただし、新型インフルエンザの逆風を受けながらも、全体としては安全で近い開催地を設定する企業が多く、当社では韓国、台湾、マカオ、グアム、ハワイなどを提案しています。
多くの企業は、「インセンティブやコンベンションの最大の目的は参加者の志気を高めることであり、直接売り上げに繋がる重要な戦略」だと考えています。たとえば広告宣伝では、幅広い消費者に向けて展開しますね。一方インセンティブは、商品を売る営業担当に絞ってアピールします。目標を達成したら間違いなくカリブ海に、マカオに、あるいはモナコに行けるといわれる。目標ができたために昨年届かなかった成果を今年は達成し、企業に貢献し、自分も海外で華やかに表彰される。このインパクトは絶大です。
当社は数十年来インセンティブ事業を続けていますが、ツアーや表彰によるインセンティブの仕組みは、なくなるものではありません。「栄誉」によって動機付けられる心理は、時代も業界も問わず、ずっと変わりません。それはやはり「効いている」からでしょう。
Q.インセンティブを海外で実施することは「効き目」にどう影響しますか
ある外資系自動車会社の部長との話では、営業マンを本国で試乗させ、その国の文化、風土、空気に触れさせると、売り上げが伸びるのだと聞きました。また、化粧品など女性が活躍する企業のイベントを手掛けてきた経験によると、女性は男性以上に、海外旅行に招待されたい、華やかな舞台で表彰されたいという想いが熱いようです。会場で涙を流されるのは圧倒的に女性が多く、とても感動していただけます。
昨今は海外旅行が非日常から日常になったといっても、年に何十回も行けるような人は限られています。仕事や家庭を持つと旅行に行きにくい環境となり、営業の第一線でがんばっている世代の方は、やはり海外旅行は「夢」だとおっしゃいますね。報奨旅行ならば家族の理解も得られます。特に女性は、旅行の準備に新しい服を買うほど、とても楽しみにしていらっしゃるようです。
Q.今春は観光局などと「マカオMICEセミナー」を開催しましたね
今年3月17日にマカオ観光局、阪急交通社とともに「マカオMICEセミナー」を開催しました。そもそもマカオでのMICEに興味を持ったのは、ホテルやマカオ観光局によるイベントやワークショップを通じたプロモーションがきっかけでした。また、当社の営業マンが企業の担当者から話を聞き、いち早くニーズが掴めた結果でもあります。
以前は日帰りの遺跡観光が主流だったマカオですが、近年はカジノや収容人員4000人から5000人規模のバンケットルームを備えたホテルが立ち並び、一躍エンターテイメントシティとしての注目が高まっています。数年後に香港とマカオを結ぶ橋が完成すると陸路の利便性も増し、いっそう面白いデスティネーションになると思います。当社では香港経由だけでなく、ビバマカオ航空(ZG)のチャーター便の利用も検討しています。
▽関連記事
◆マカオ観光局、MICE誘致を本格化−独自の強みを活かして需要取り込みへ(2009/03/18)
Q.ワークショップやイベントは有効だと考えますか
重要ですね。何より最初に大切なのが情報です。時間的に自らが全世界へ行くことができない以上、効率の良いワークショップなどを利用して、最新の事情を知ることが一番だと思います。新しいベニューやアクセス、急病人が出たときの対応施設など、大規模なMICEを円滑に進めるためにはあらゆる場面を想定して細かくチェックする必要があるので、直近の情報をできる限りたくさん仕入れたいと思っています。人に聞いて初めて分かる事実もありますから、ワークショップには積極的に参加するようにしています。
もっとも本来ならば、自分で現地へ足を運び、目で見て、触れて、聞いて、感じて帰ってくるのがベストです。単に施設だけでなく、そのコンベンション会場での盛り上がり、施設の使い勝手は、お客さんが入っていて初めて分かるもの。まったく誰もいない空間ではなく、MICEを実施している場面を見せてもらえると、どのような配慮がなされているか具体的に分かるので良いですね。
最近はFAMトリップや研修ツアーが比較的少なくなってきたように感じます。顧客に説得力のある情報を伝えるためにも、観光局の協力を得つつ、現場に近いスタッフが視察できる機会をもっと設けていければと思います。
さらに一ヶ国だけでなく、たとえばEU諸国の観光局が一丸となったFAMがあればぜひ、参加したいですね。また、毎年視察が行なわれる国と、南米や北欧、南アフリカなど機会の限られた国とが、少々偏っているかもしれません。参加費用を払ってでもいいので、企業の担当者と一緒に現場を見てまわれるような企画ができると、業界全体がより盛り上がるのではないでしょうか。
Q.これまでのMICE経験で得た「成功のキーワード」とは?
一言でいえば、「ハートウエア」でしょう。心に訴えること、感動を伝えること。これは創業者の思いでもあります。当社はMICEの中でもインセンティブを主軸に成長してきた会社です。ツアーという限られた時間内でも、努力して参加された方々の汗と涙を汲み取り、栄光ある表彰の場において、そのご苦労を償却したい。私達は主催者が感謝の気持ちを伝えるためのお手伝いをしているのですから、ちゃんと伝わった時に「成功」となり、感動が生まれ、次につながる。感動、共感、つまり元をたどれば心、「ハートウエア」が大切だと思っています。
ありがとうございました
▽過去の成功のキーワード
◆ジェイティービー 旅行マーケティング戦略部 久家実氏
市場に対する価値提供(2009/05/22)
◆日本旅行MICE 営業部 部長 石垣隆久氏
専門部署スタートでMICE営業を集中強化、プロ育成をめざす(2009/04/14)
取材:福田晴子