訪日中国人の個人観光開始へ、開拓にはステレオタイプでないイメージ発信を

  • 2009年5月19日
 2008年の訪日中国人客は、前年比6.2%増の100万700人と大台を超えた。7月からは訪日中国人の個人観光ビザの発給が開始され、さらなる需要増加が予測されるとともに、訪日客に対する実務的な知識の習得が必要になる。サードエイジスタイルでは先日、第1回「中国・香港・台湾 訪日個人旅行(FIT)開拓セミナー」を開催。同社代表取締役の久留一郎氏は冒頭、「中国では富裕層の80%を45歳以下が占め、欧米の30%や日本の19%と比べて非常に高い割合。年齢層によってメディアとの接し方や情報源が異なる。セミナーを通じて具体的なアプローチを考えてほしい」と話した。セミナーでは、クオンタムリープのエグゼクティブ・アドバイザー小寺圭氏が、2002年から約3年間、ソニー社員として中国に駐在した経験を基に、「中国・体験的マーケット論」を論じた。


中国におけるブランド形成は今がチャンス

 人間の記憶とは“First Impression Forever”(最初の印象が永久に続く)ものであり、たとえば企業のブランドイメージも一度植えつけられると変更や払拭は難しい。また基本的に人間の記憶は、“Write Once Memory”(上書き不可なメモリー)で、20歳までのメモリーが生涯残っていくものなのだという。人間の記憶に例えると、中国はまさに20歳前後の成熟期。さまざまな情報が今、新しく入ってきている段階であり、すべてのブランドにとって“Virgin Market”(初めての市場)といえる。そのため、「徹底的なブランドの刷り込みや新しいイメージ・コンセプトの告知は今こそやるべき時である」と小寺氏は主張する。

 こうした市場ではブランディングの効果が出やすいのも特徴だ。ソニー時代の小寺氏は上海にギャラリーや若者向けのサイエンスパークなどを設置。ブランドイメージ育成に力を注いだところ、一年間で爆発的な効果が見られたという。


日本の印象はまだまだステレオタイプ

 インターネットのアンケート調査などから、中国人が持つ日本の印象は「富士山・桜・新幹線」に代表されるようなステレオタイプが、いまだ多いことが明らかになっている。日本を知る要因としてはアニメやドラマ、日本製電化製品などが上位にあげられており、情報源に偏りがあるため、実態把握にまでは至っていない。

 旅行に関しては、インターネットで検索しても有益な情報が見つからないという声もある。現在のところ、中国人の訪日動機はショッピングや温泉が上位を占め、ヨーロッパの旅行者に見られるような伝統文化・工芸体験、日本食などへの関心は低い。小寺氏は「食は旅行者の成熟度を表すのではないか」と述べ、日本の文化的な側面をよりアピールしていく必要性を語った。


本当の日本を伝えるには? 日本側の課題

 中国人のなかには「お風呂はタオルを巻いて入るもの」というイメージを持つ人も多く、旅館などでは中国人のマナーが悪いと思われるケースがある。しかし、これは日本のパンフレットの多くで、そのような写真が使用されていることが原因だ。小寺氏はそうした説明不足に加えて「固定的概念にとらわれて新しい提案が欠如している」とも指摘する。たとえば、中華料理のビュッフェのような定番の食事に対してはバリエーションを求める人も多い。

 また、日本の地方自治体などが作る中国語のパンフレットも効果的に活用しきれていない。中国ではツアーの情報伝達手段が主に新聞であることに加え、そもそも現地の旅行会社に新しい地域をいかにツアーに組み込むかのノウハウがないことも多い。単なる場所の紹介にとどまらず、さらなるフォローが必要だろう。こうした理由から本当の日本をまだうまく伝えきれていないのが現状だ。


パンフレットの漢字表記にも注意

 日本の会社は漢字の社名を持つため、そのまま中国でも使うことが多い。だが、日本の漢字は良い響きをもって中国人に伝わる場合とそうでない場合がある。会社名に限らず、漢字が与える印象の違いには注意したい。翻訳者がその土地について造詣が深いとは限らないためか、パンフレットには間違った中国語も散見される。中国語訳は翻訳業者に任せて安心するのではなく、映画の字幕と同じように考え、表現にも工夫することがブランディングにおいては重要になってくるだろう。

 小寺氏は「ステレオタイプではない真の日本をもっと多くの中国人旅行者に知ってもらうためには、発想の転換と組合・地方自治体・国を動かす力が必要である」といい、旅行業者も積極的に働きかけることで日本の旅行ビジネスを活性化させる余地はまだまだあるだろうと締めくくった。


取材:古屋江美子