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現地レポート:オーストリア

  • 2009年5月8日
日本人の関心深いテーマが豊富
多数のSITが見込めるウィーンとザルツブルク


 芸術の都として知られるオーストリア。音楽、美術、そしてそれらの発展に大きな影響を与えた歴史を垣間見ることができる見どころや素材が豊富にそろっており、SITにぴったりのデスティネーションだ。ウィーンやザルツブルクも時間をかけて巡れば、今まであまり知られていない素材や、新たな発見に出会うことができる。モーツァルトやベートーベンなど著名な作曲家をはじめ、すでに日本人に親しまれている素材が多くあり、事前に少し、学習して知識を仕入れておくだけで十分楽しめるのも魅力だ。




ハプスブルク家ゆかりのウィーン、知られざる見どころがたくさん

 芸術、歴史ともに質の高い観光素材が多いウィーンだが、日本人観光客の平均宿泊日数は約2日だという。通常のパッケージツアーでは、有名な観光スポットを駆け足で回り、最後はショッピングというコースが一般的。しかし、ウィーンはヨーロッパの名門貴族ハプスブルク家が帝都を置いた場所で、同家の居城であったホーフブルグ王宮や夏の離宮のシェーンブルン宮殿といった定番スポットをはじめ、市内には同家ゆかりの“見どころ”が随所にあり、ハプスブルクファンにはたまらないものばかり。日本でも以前、「シシィ」の愛称で親しまれる皇妃エリザベートの個性豊かな人柄や数奇な人生をつづった映画やミュージカルが上演され、ハプスブルク家に興味を持つ人も多く、もう少し時間をかけてじっくり見て周ることをすすめたい。

 2つの宮殿とあわせてぜひ訪れてほしいのは、宮廷家具博物館。もともとシェーンブルン宮殿やホーフブルク王宮に設置されない家具や調度品を収容する場所で、数年前から有料で公開するようになった。一般的な博物館のような展示がされておらず、特にセキュリティもないまま乱雑に置かれた家具は、実際にエリザベートが使用したものだったりする“本物”。それがすぐに手の届くほど目の前にある様子には、ファンならずとも興奮するだろう。先にシェーンブルン宮殿を見学してからこちらに来れば、それらの家具がとても身近に感じられ、往時の貴族たちの生活に入り込んでいけるようである。

 また、エリザベートの輿入れに使用された馬車やハプスブルク家が代々葬式に使用した馬車などが展示されている馬車博物館のワーゲンブルグも必見。車輪止めや留め具など細部まで家紋が丁寧に彫られており、その技術の高さに驚かされる。このほか、ホーフブルク王宮にある宮廷で使った食器や調度品、テーブルセットなどの宮廷銀器コレクションも見応えがある。数の多さもさることながら豪華なテーブルウェアの輝きに、ハプスブルク家の豊かさと栄華を目前にするようだ。王宮内にあるシシィミュージアムに寄った際はこちらにもぜひ立ち寄ってみてほしい。


定番にも知られざる見どころあり。ガイドの同行で楽しさ倍増

 通常1時間ほどの見学時間であるウィーン観光の“定番”も、じっくり時間をかけてめぐることで新たな楽しみを見つけることができる。

 たとえば、シェーンブルン宮殿に展示されている絵画。順路の最後のほうにある「セレモニーの間」には、5枚の大きな絵が飾られている。それらの絵をよく見てみると、すべての絵に幼い頃のモーツァルトの姿が描きこまれている。華やかな大人の世界の中に、幼くかわいらしいモーツアルトが“ちょこん”と座っていて何とも愛らしい。また、「赤いサロンの間」にあるフランツ・シュテファン(神聖ローマ皇帝フランツII世)の絵は、実は騙し絵だ。描かれているフランツ・シュテファンの目を見ながら移動すると、歩いた方向に彼の足も向くように見える。

 そのほかにも、その美貌から美容に大変な興味を示し、さまざまな美容方法を試したエリザベートの私物が数多く展示されており、現代の女性にもとても興味深い。日本語の音声ガイドもあるので、その音声ガイドを聞きながらの観賞でも十分だが、できれば、知識豊富な質の高いガイドに案内してもらおう。同家にまつわる裏話や秘話などを聞けば、展示品の理解も増す。ハプスブルク家の歴史やエリザベートのことを知らない旅行者でも、展示品ひとつひとつに見入ってしまう。

 


美術好きにおすすめ。意外な館内アクティビティも

 もうひとつ、あまり知られていないがウィーンは美術館の宝庫でもある。リヒテンシュタイン公国公室のプライベートの品々が200点ほど展示されているリヒテンシュタイン美術館。肖像画が多いほか、大作『十字架にかけられるキリスト』『キリストの降架』などで有名なルーベンスの作品を数多く見ることができる。2012年には日本で「リヒテンシュタイン美術館展」開催が予定されており、今後注目が高まることは必至。比較的観光客が少なく、自分のペースでゆっくりじっくり鑑賞できるので、きちんと美術を楽しみたい人にとっては“穴場”ではないだろうか。

 また、600平方メートルほどの広さの「ヘラクラスの間」では、ウィンナー・ワルツのレッスンを受けることができるのもおもしろい。事前にアレンジするとダンスの先生が呼ばれ、この部屋でレッスンが受けられるのだ。参加人数は20人から25人が必要だが、まったくダンス経験のないビギナーでも参加可能なので誰でも気軽に楽しめる。グループで訪れた際には、ウィーンらしいアクティビティとしてぜひ取り入れたいもののひとつだ。

 さらに、ウィーン分離派グループ「セセシオン」の作品を数多く所蔵しているレオポルト美術館もぜひ訪れたい。クリムトに代表される同グループの画家の中で、とりわけ日本にもファンの多いエゴン・シーレの作品は注目だ。さらにこの美術館では、そうした画家が活躍した19世紀末から20世紀初めにかけての音楽をヘッドフォンで聴くことができるスペースがあり、視覚だけなく、聴覚もあわせて作品を楽しむ工夫がなされている。館内は、照明器具が少なく自然の採光を活かしたつくりになっており、天気のよい日は館内のベンチでのんびり過ごすのもよさそうだ。

 レオポルト美術館のあるエリアはほかに近代美術館MMOK、ウィーン建築センターがあり、ミュージアム・クオーター(MQ)と呼ばれている。この一帯の路地裏では若いアーティストのアトリエや骨董品店なども多く、皇帝フランツ・ヨーゼフもお忍びで遊びに来たといわれる。特に夏場はオープンカフェやレストランが並び、にぎわっている。美術鑑賞後の休憩の場として利用するのもいいだろう。








オーストリアはやっぱり音楽。映画の主人公を真似て感動体験

 オーストリアでSITのテーマを極めるのなら、やはり「音楽」のキーワードははずせない。ウィーンから列車で約3時間の距離にあるザルツブルクは、モーツァルト生誕の地、名作映画『サウンド・オブ・ミュージック』の舞台、そしてザルツブルク音楽祭と、小さな町に興味深い素材が集まっている。

 1130年に建てられたサンクト・ペーター教会はモーツァルトが弾いたパイプオルガンがある、モーツァルトゆかりの場所のひとつ。さらに、この教会は何度も改装されたため、各時代の建築様式や文化が集結した建物としても知られている。入口は美しいロココ調でつくられ、内部には14世紀に描かれた壁画も残っており、美術館のような教会だ。

 また、映画『サウンド・オブ・ミュージック』のロケ地であり、街のあちこちに映画のシーンで用いられた場所がある。なかでもぜひ、訪れてほしいのは、ザルツブルク音楽祭の主会場ともなる大祝祭劇場の野外劇場だ。これは、主人公トラップ家のメンバーたちが『エーデルワイス』を合唱した本物のステージ。ここに来たら、同行者と『エーデルワイス』を歌ってみよう。映画のエンディングを思い出して感動することは請けあいだ。心のなかでメロディを口ずさむだけでも、映画好きにはたまらない、よい思い出となるだろう。

 同劇場では通年で、1時間ほどのバックステージツアーを開催している。通常は1日1回だが、夏季には催行回数が増える。1回の参加料は5ユーロで、ザルツブルクカードを持っていれば無料だ。ツアーでは、オペラのセット倉庫やモーツァルト・ホールの観客席にも案内される。それらの席のいくつかは、年間販売されている。席には購入者のプレートがついており、世界の有名人の名を探すのもおもしろい。

 もうひとつ、おすすめの場所がザルツブルク空港近くの「ハンガージィーベン」。「レッドブル」で知られる飲料メーカーのオーナーが経営する施設で、空港の格納庫を改装した前衛的なデザインが特徴だ。レストランのほか空中バーなどもあり、それぞれコンセプトが斬新。これまで見てきた歴史や芸術に対し、ザルツブルクのモダンな顔も見ることができる。町の中心から空港へ向かう途中にあるので、フライト前のランチや休憩場所として活用可能だ。

 こうした施設を中心とする芸術、文化めぐりの旅は、実は冬場がおすすめ。オーストリアは花々が咲き乱れ、緑豊かな夏がシーズンだが、冬場なら観光客が少なく、むしろゆっくりと施設内見学ができるからだ。ハプスブルク家をはじめとする貴族文化や芸術などは日本にも大変ファンの多い分野なので、じっくり時間をかけて巡る旅を企画してほしい。


取材協力:オーストリア政府観光局、オーストリア航空
取材:本誌 高橋絵美