インタビュー:エクスペディア マーケティングマネージャー 木村奈津子氏

  • 2009年3月17日
エクスペディア、日本でもネット販売は浸透する−イメージ改革から取組みへ


 エクスペディアは2006年11月の日本語サイト開設から3年目を迎えた。世界最大のオンライン旅行会社として日本に進出し、アメリカでノウハウを蓄積したダイナミック・パッケージを導入すると目されていた。しかし現在、航空券は取り扱っているものの、世界8000都市の4万軒の契約施設数を有するホテル予約サイトとしての印象が強い。このようななか同社では、ユーザーが特定の都市の観光大使になって旅行情報を発信する「Ecity」のキャンペーンを開始し、「旅の楽しみ」を想起させるブランドイメージの認知定着をはかる取り組みをはじめた。エクスペディアホールディングスのマーケティングマネージャーである木村奈津子氏に、現在の状況や今後の戦略について聞いた。


■これまでの動向と現状の分析について

 航空券の販売でワールド・トラベル・システム(WTS)のサービスを利用している点など、不完全さがあるのは否めない。ダイナミック・パッケージについては、欧米のものをそのまま導入しても日本の市場にあわないため、現在は慎重に検証しているところだ。さまざまな課題があり、時期など詳細は未定だ。

 ただし、現状としては順調に推移している。売上やユニークユーザーなどの数値も“倍々ゲーム”で増えており、海外ホテルの取り扱いは利益性も高い。日本航空(JL)やフォートラベルとの提携は認知度向上の効果があり、今後もこうした提携を強化していきたい。


■「Ecity」キャンペーンの概要とねらいについて

 キャンペーンのねらいは認知向上だ。これまでバナー広告などで最低価格保証や契約施設数をアピールしてきてはいたが、エクスペディアが本来持つブランドイメージは浸透していない。日本以外では、「旅の楽しみ」を想起させる「楽しい」ブランドイメージが定まっている。認知向上の取り組みは2008年後半から強化しており、例えば世界のネットワークを活用した調査など、グローバル企業だからこそできるピーアール活動にも注力してきた。

 「Ecity」は、エクスペディアの取り扱いのなかで、もともと人気の高いパリとニューヨーク、ホノルルの3都市について参加者が「観光大使」となり、「観光客」であるサイト訪問者の数を競うもの。5月31日まで実施する。各参加者は自らの都市サイト「City」を運営し、訪問者に対して独自の旅行情報を発信して訪問者の増加をめざす。ネットユーザーなら誰でも参加可能だ。訪問者数が増えると「City」の車や家などが増え、自らの街ができていく楽しみも得られる。最も訪問者を集めた観光大使にはその都市への旅行をプレゼントするなど賞品も用意しており、訪問者にもオンラインクーポンなどを提供する。

 このほか、コンテンツ面でも「楽しみ」を盛り込んだ内容を重視しており、例えば2月末には、その日に世界で行なわれている祭りを日替わりで紹介する「世界のどこかは今日もお祭り!」のブログパーツの提供を開始した。その祭りの場所を地図で確認できるほか、開催地のホテル予約ページにもアクセスできるようにしている。


■日本市場でネット販売は浸透するか

 浸透するだろう。すでに、情報収集はかなりネットに流れている。ガイドブックでの専門家の情報にも価値を認めつつ、実際に現地に行った人の客観的な生の声を聞いて予約したいというニーズがある。また、不況だからこそ消費者は価格にシビアになると考えられ、これもネットの活用につながる可能性がある。なじみのあるブランドの旅行商品を店舗に行って予約することよりも、「もっと安い商品はないのか」といったニーズがネットでの情報収集に向かわせるのではないか。その意味では、良いサービスと価格を出せている会社とブランド力だけの会社で、勝ち負けがはっきりしてくると分析している。

 ただし、すべてをネットで完結する消費者ばかりになるかというと疑問符が付く。情報収集まではネットを活用するものの、クレジットカード番号の入力に躊躇する人や、予約できているかを声で確かめたい人は残るはずだ。少なくとも、ネットで情報収集する人の半分程度は、そういう人たちだと考えている。

 このためエクスペディアでは、コールセンターに力を入れている。実際にコールセンターでの予約の割合は驚くほど大きい。他社では経費削減などの目的からコールセンターを廃止する動きも見られるが、費用対効果で考えてもかなりプラスとして認識している。


■JTBがオンライン予約専門の「トルノス」を開設し、ダイナミック・パッケージも開始した

 トルノスの開設はプラスに捉えている。日本はまだパッケージ市場であり、さまざまなポータルサイトや旅行サイトの売上もパッケージ商品が5割から6割、航空券が3割、ホテルが1割程度と聞く。そのようななかで、FITにターゲットをしぼってダイナミック・パッケージを開始することは、市場が拡大している証拠と考えられる。また、FITを開拓しようとする大手があることだけでもプラスといえる。単独で市場の拡大をめざすのでは経費が高くなるためだ。エクスペディア独自の訴求ポイントもあるが、一緒に個人旅行の楽しさを盛り上げていきたい。