新型インフルエンザ、感染症への早期対応を−感染症セミナーで対策を提案

▽海外旅行者の健康リスクは新型インフルエンザだけではない
――渡航医学センター・西新橋クリニック院長 大越裕文氏

しかしながら、日本人は新型インフルエンザに対する関心は強いが、感染症への対策は不十分。欧米のグローバル企業の対策例を見ると、派遣先がアフリカの場合、黄熱、A型肝炎・B型肝炎・破傷風・ジフテリア、狂犬病・腸チフス・髄膜炎菌・ポリオが指定予防接種であり、抗マラリア薬として日本では認可されていないマラロンが指定されている。個人の意識も高く、予防接種証明書を各自がきちんと管理して、適宜追加接種を受けている。

また、大越氏は予防接種について、黄熱ワクチンは入国10日前までに接種しなければならず、接種後は他のワクチンを接種できないためスケジューリングが必要とも注意を喚起する。帯同家族が現地の学校に入学する際、ワクチン接種を義務づけられている場合もある。感染症のインパクト、渡航中のリスク、予算などを含めて早めの情報収集が望ましい。海外渡航者に特化したトラベルクリニックもあり、輸入ワクチンを扱っているので、うまく使ってほしいと勧める。
こうしたことから大越氏は、旅行会社は海外渡航者に健康リスクを教育したり、ワクチン接種の英文証明書をとるなど健康サポートができると提案。感染症の一次予防、二次予防、自己治療の教育も範疇になるだろう。医師の指導が必要だが、WHOやユニセフが発展途上国に配布している経口補水液(ORS:Oral Rehydration Salt)といったものもあり、脱水症状を緩和する効果がある。発展途上国への渡航には携帯を推奨したい。
▽H5N1型以外の新型発生の可能性も
――労働者健康福祉機構海外勤務健康管理センター所長代理の濱田篤郎氏

新型インフルエンザは海外で最初に発生すると思われるので、海外滞在者は最初に被害を蒙る可能性が高い。H5N1型感染者の現在の致死率は60%以上だが、予測では、最大致死率は2%。感染は軽症者が動くことにより拡大し、予測感染率は25%だが、もう少し高く修正されることが考えられ、米国では40%、英国では50%、日本でも最大50%の感染率が予測されるだろう。その場合、日本国内での死亡者は120万人になると予測される。
対策としては07年2月に外務省が、新型インフルエンザ発生時の「渡航情報(感染症危険情報等)発出に関する基本方針」において「不要不急の海外渡航の自粛」を上げている。また、海外に渡航した人への対策としては、退避か残留かの選択がある。退避するとしても、退避の時期、時期を逃した場合の救援機の有無、帰国後の停留問題などがある。
海外に滞在する場合、濱田氏は「緊急避難措置として、自己治療を検討すべき」と語る。厚生労働省の「新型インフルエンザ対策ガイドライン」(案)に追記された「水際対策に関するガイドライン(案)」には、「企業の社員が新型の発生が予想される国に滞在する場合、国内の医療機関で抗インフルエンザ薬の処方を受けた上で、海外に持参し服用する方法について広報・周知する」とあるのを受けた発言だ。服用については、事前の指導が必要であるため、日本の担当医に症状を説明して、内服のタイミングの指示を受けるのが適切だろう。

こういう状況下で旅行業界は、どう経営を守るかが課題になる。「気楽な提案に聞こえるかもしれないが、たとえば、海外派遣された渡航者の帰国を支援するといった、新たな事業を開拓するのも一案だ」と濱田氏。いずれにしても旅行業者には、海外渡航者への正しい情報提供とサポートで感染回避、不安解消による渡航者減少の防止に努め、経営面のリスクマネジメントをはかるためにも、早めの情報収集と対策が必要だ。
取材:工藤史歩