ブームの兆し、「産業遺産」(5)石見銀山(島根県大田市)

  • 2009年1月30日
 現在、日本で最も知名度のある「産業遺産」は間違いなく島根県の石見銀山だろう。2007年7月、ユネスコの世界遺産に登録されるやいなや、訪問者数が急増。多くのツアーが組まれるようになり、それまで地元と歴史好きの少数の人にしか知られていなかったスポットが、一夜にして全国的な知名度を獲得した。





 世界遺産の観光効果は絶大だ。大田市産業振興部によると、石見銀山がある大森地区全体の2006年(世界遺産登録前年)の訪問者数は年間約40万人。それが登録翌年の2008年には約81万3000人。倍以上に増加している。もちろん世界遺産は観光資源に付加価値を与えるものではなく、後世に残すべき貴重な遺跡や自然を保護するためのもの。とはいえ「世界遺産ブランド」が集客に貢献しているのは間違いない。

 石見銀山は世界遺産のカテゴリーでは「文化遺産」として登録されているが、日本で最初の「産業遺産」の世界遺産という事実も注目されている。


 ここでは鎌倉時代末期の14世紀の初めに銀の採掘が始まり、最盛期の江戸時代を経て、明治以降も採掘が続けられていた。完全に閉山したのは昭和に入ってから。500年の歴史を刻む史跡にとどまらず、その時代ごとに新しい技術を導入して環境に負荷をかけない鉱山経営を進めていたことなど、現代社会にも通じる、様々なことが学べる歴史の証人でもある産業遺産なのだ。

 世界遺産登録された産業遺産は、石見銀山のような鉱業をはじめ、製造業、農業、土木・建築、交通、通信など幅広い。火曜日に紹介した「富岡製糸場」は、製造業分野での世界遺産登録をめざしているし、月曜日に紹介した「軍艦島」は、九州と山口県に広がった多くの産業遺産を一体化して登録をめざす試みをしている。

 もちろん世界遺産がすべての目標ではない。ただ、石見銀山の価値を認識した旅行者は産業遺産に対して、まちがいなく一段高い意識をもつ。これからの時代は、歴史的な重要度にもかかわらず、あまり重視されていなかったような産業遺産にも目を向けてみる必要があるだろう。人々の注目を集める素材として、そしてその関心となるポイントをとらえ、新しい旅行の形態を積極的に考えていきたい。






▽石見銀山
http://www.iwamigin.jp/ohda/minasdeplata/ginzan/index.html


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