ブームの兆し、「産業遺産」(3)赤レンガ倉庫(神奈川県横浜市)

  • 2009年1月28日
 「産業遺産」の活用として、あるがままに保存するだけでなく、再生して新たな形に生まれ変わらせる方法もある。古いものに対する郷愁を活かしつつ、中身は新しく。そんな試みで最も成功したのが、横浜の「赤レンガ倉庫」だろう。現在、年間入場者数が500万人を超える、横浜港周辺でも有数の人気スポットとなっている。

 幕末に鎖国が解かれて以来、日本で最も重要な貿易港として歴史を重ねてきた横浜港周辺には、古い建物が数多く残っている。関東大震災以前の建物は残念ながらほとんどないが、震災後の大正末期から昭和初期に建てられた建物の中には、現在も現役のビルとして使用されているものも多く、横浜市開港記念会館や神奈川県立歴史博物館のように、一般の人でも見学できる建物もある。建物以外でも、かつての造船所「ドッグヤードガーデン」や山下公園に係留されている「氷川丸」も近代化産業遺産として登録されている。

 赤レンガ倉庫は、明治末期から大正初期にかけて横浜港整備の一環として建設された国の保税倉庫で、輸出または輸入の許可を受けた物品を保管する倉庫であった。非常に優れた建築構造をもち、関東大震災でも大きな損傷を受けず、終戦後連合国に接収された時期を含め、80年近く横浜港で重要な役割を担ってきた。

 流通形態の変化により、1989年に倉庫は閉鎖する。取り壊しの議論もあったが横浜のシンボルのひとつとして保存すべきだとする声が市民から上がり、横浜市は港周辺の再開発計画「みなとみらい21」の一環として倉庫の保存を決定。1992年に倉庫を国から取得した。長年の使用と放置されていた間に傷んだ部分を全面的に修復し、2002年にリニューアルオープン。外観は昔の姿そのままに、内部にはレストランやショップ、ホール、ギャラリーなどが入った多目的の建物に生まれ変わった。

 レトロな雰囲気を活かしたショップだけでなく、展示会やイベントなどに活用するホールやギャラリーは、文化の発信地としての新しい役割を赤レンガ倉庫にもたらした。また結婚式など個人的なイベントにも貸し出しすることで、活用の幅を広げている。今年は横浜港開港150周年で、赤レンガ倉庫でも様々な記念イベントが行われる予定だ。
  
 ちなみに、横浜港に赤レンガ倉庫が建設された時代、全国各地にレンガ造りの建物が造られている。現存するものも多数あり、保存運動も起きている。函館の「金森赤レンガ倉庫」など、横浜同様の成功事例もある。貴重な産業遺産が有効に活用されるよう願いたい。

  
▽横浜赤レンガ倉庫
http://www.yokohama-akarenga.jp/index.html  
▽神奈川県立歴史博物館
http://ch.kanagawa-museum.jp/
▽函館金森赤レンガ倉庫
http://www.hakodate-kanemori.com/


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