国際大会の開催契機とする観光促進、南アフリカの取組みと大分県の成果
大分県別府市の立命館アジア太平洋大学(APU)で開かれた「2010 South Africa World Cup: Learning from the 2002 Korea and Japan Experience」シンポジウムでは、2010年の南アフリカ・サッカーワールドカップ(W杯)に向けた取り組みやW杯を契機とする観光促進について活発な議論がされた。南アフリカ観光局のみならず日本旅行業協会(JATA)など日本サイドでもW杯が日本人観光客の増加につながると期待している。シンポジウムでは、2002年の日韓W杯の試合開催を大分に招致した平松前大分知事から観光を含めた地域活性化の提言がされ、南アフリカ観光局とムプマランガ州観光局、JATA、エミレーツ航空(EK)が、観光促進策や需要拡大に対する取り組みを紹介した。
▽前大分県知事・平松守彦氏
W杯による地域活性化で観光も促進
日韓W杯で大分への試合誘致に尽力した大分県前知事の平松氏。シンポジウムでは、まず誘致にまで至る経緯を説明し、成功のために掲げた原則として、安全安心の対策、ホスピタリティ、W杯後の交流推進の3つを紹介した。平松氏は「(W杯開催に対する)地域住民の理解を得るためだけでなく、観光の促進のためにもこの原則は大切」と強調する。大分で試合をしたチュニジアとは、平松氏が推進していた「一品一村運動」でW杯後も交流が続き、大分県中津江村でキャンプをしたカメルーン代表と地元住民との交流は地域を活性化させた。
こうした経験をふまえ、「南アフリカのW杯では、開催される地方都市で子供たちを親善大使に任命すればどうか」と提案。教育的意味も大きく、将来にわたる息の長い観光促進にもつながるのではないかとした。「W杯が来たおかげで、県民の意識が変わった。Think globally, after locallyという考えが浸透してきたのではないか」と平松氏。現在では、別府市など大分の観光地には海外から多くの観光客が訪れている。
▽南アフリカ観光局最高マーケティング責任者・ロシェーン・シン氏
W杯開催に自信、南アは費用対効果の高いデスティネーション
「W杯を契機として、観光客数も現地消費額も伸ばしていきたい」―シン氏は、改めてW杯が南アフリカの観光産業に与える影響の大きさを強調した。南アフリカ政府はW杯開催に向けて、国内10ヶ所のスタジアム建設および改修に約50億ランド(約500億円)、空港拡張プロジェクトに52億ランド(約520億円)、道路・鉄道などのインフラ整備に35億ドル(約350億円)を投じている。シン氏は「観光局では2010年に外国人訪問者数1000万人をめざしている。その経済波及効果は110億ランド(約1100億円)になる見込みだ」と説明。日本人旅行者数については2007年の3万1855人から5万人にまで増やしていきたい考え。受け入れ態勢についても、6月と7月は観光のシーズンオフであること、宿泊施設が増加していることで、問題ないとの自信を示す。
また、世界には南アフリカでのサッカーW杯開催能力に疑問を呈する意見があるなか、シン氏は、「これまでにもクリケットW杯、ラグビーW杯、W杯女子ゴルフなど、数々の世界大会を成功させている」と強調。今年9月にFIFAのプラッター会長が南アを訪問した際の、「順調な準備状況に満足。W杯の成功を確信した」との声明を紹介した。
このほか、懸案の安全対策についても言及。国レベルで治安維持・安全対策に取り組み、警察力の強化に向けて2009/10年度予算として、2006/07年度予算の34%増となる440億ランドを提示している。「W杯期間中には、警察官やボランティアが大幅に増員」(シン氏)される計画だ。「過去10年で、99%の旅行者は犯罪に巻き込まれていない」と述べ、安全対策が進んでいることをアピールした。
さらに、MICE市場の拡大も期待を示す。MICEでの渡航ではポストツアーを実施する傾向が強く、その消費額も通常の旅行よりも大きい。同局では、2010年にはMICEの全渡航者数に占める割合が、5.6%であった2006年の2倍になると予測。各州でコンベンション・センターの整備に力を入れている。
▽ムプランガ州観光公園局最高マーケティング責任者・エゾロム・セコベラ氏
W杯に向けて、新しい観光素材の開発に注力
セコベラ氏は冒頭、「ムプランガ州のコア・マーケットはイギリス、ドイツと日本」と説明、日本が同州にとって重要な市場であることを強調した。「ムプランガには山、川、ビーチなど多彩な自然があり、さまざまな文化体験も可能」とアピール。特に、世界で3番目の大きさを誇り、緑に覆われた「ブライデ・リバー・キャニオン」を詳しく紹介し、日本人観光客へのプロモーションを強めていく考えを示した。南アフリカ観光局でもこのキャニオン一帯を南アフリカのアイコン的なランドスケープとして特徴づけしていく。
W杯に向けた取り組みでは、まず同州ネルスプロイトに建設中のスタジアム(4万6000人収容)について言及。建設は順調に進んでおり、来年6月には完成し、10月にはこけら落としのゲームが実施される予定だ。同時にスタジアムへのアクセスとして公共交通機関も整備中。また、スタジアムに隣接してファン・パークも整備するなど、W杯を盛り上げる準備も進めていることを強調した。
一方、W杯成功に向けて課題が多いのも事実とし、宿泊、輸送、安全策、観光支援策、観光素材などで今後、改善を進めていく必要性があるとの認識を示した。特に、観光支援ではサービススキルの向上、ムプランガ州の知名度向上、より積極的な情報発信を進めていく必要性を強調。また、観光素材として幅広い体験型素材を開発し、ナイトライフなどエンターテイメント素材を増やすことが必要との考えを示した。
▽ジェイティービー国際部長・古澤徹氏
南アフリカには高い潜在性、まずはイメージ改善
日本旅行業協会(JATA)で南アフリカ旅行拡大ワーキンググループの座長を務める古澤氏はまず、日本の海外旅行市場の動向として現在の出国者の割合が人口比で13.9%であると提示。これは韓国の21%、台湾の31%と比べ低い数字で、「日本のGDPのわりには少なく、まだまだ拡大させていく余地はある」とした。南アフリカへの日本人渡航者数は年々増加しており、2007年は3万1855人で、古澤氏はデスティネーションとして「潜在性は非常に高い」と述べ、例えばクロアチアやベトナムのように急速に拡大する可能性があるとの見解を示した。
古澤氏は「潜在性」として、野生動物、美しい景観、独自の伝統文化、質の高いグランドオペレーション、日本からの豊富なフライト・アクセス、そして2010年のW杯をあげる。一方で、問題点も指摘。まず、アフリカの1国として危険なイメージが根強く、旅行情報が少ない。ステレオタイプなツアーばかりで、新しい商品開発が進んでおらず、ジャカランダの季節である10月に集中し、他の月との差が非常に大きいことも問題であるとした。一方、懸案であった空港のロストラゲージについては、運営会社が変わったことで飛躍的に改善したと評価する。
こうした現状を踏まえ、JATAではW杯に向けて日本人観光客拡大に向けたワーキンググループ(WG)を立ち上げ、南アフリカの認知度の向上、観光デスティネーションとしての印象づけ、南アフリカを含む周辺国のプロモーション、日本との交流促進などに取り組んでいる。古澤氏は「2010年に向けてWGの活動を活発化していく。まず安全安心に対する誤解を解いていく。開催が近づくにつれ、業界も南アフリカに目が向き、メディアでの露出も多くなるはず」と述べ、W杯を契機とする市場拡大に大きな期待を示した。
▽エミレーツ航空西日本支店長・田中和久氏
FIFAスポンサーでブランド力アップ、路線拡充も
2006年のW杯ドイツ大会に引き続き、南アフリカ大会でも公式エアラインを務めるエミレーツ航空(EK)。EKは1億9500万ドルを投じて、FIFAとのスポンサー契約を2014年のブラジル大会まで延長した。スポンサー料は莫大だが、「その効果を考えると、決して高くない」と田中氏は語る。200ヶ国延べ300億人がテレビ観戦すると予想されており、EKの名前を世界中に広める費用対効果は高い。スポンサーの権利を利用して、EKとドバイのブランド力を上げていきたい考えだ。
また、田中氏は南アへのネットワークについて、「W杯期間中だけでなく、その後もビジネスなどの需要は拡大するのではないか」と期待する。EKは現在、ヨハネスブルグとケープタウンに路線を展開。さらにダーバンへの乗り入れを検討している。
日本市場については「当社としてはすでに成田への乗り入れ希望を表明している。航空交渉次第だが、いい結果になることを願っている」と述べ、関西、中部に続く路線拡大に期待感を示す。その上で南アフリカの観光促進について「新しい観点から新しい商品を開発していく必要があるのではないか。日本人渡航者数を増やしていくうえで、EKとして協力できることがあれば、協力していきたい」と意欲を示した。
▽前大分県知事・平松守彦氏
W杯による地域活性化で観光も促進
日韓W杯で大分への試合誘致に尽力した大分県前知事の平松氏。シンポジウムでは、まず誘致にまで至る経緯を説明し、成功のために掲げた原則として、安全安心の対策、ホスピタリティ、W杯後の交流推進の3つを紹介した。平松氏は「(W杯開催に対する)地域住民の理解を得るためだけでなく、観光の促進のためにもこの原則は大切」と強調する。大分で試合をしたチュニジアとは、平松氏が推進していた「一品一村運動」でW杯後も交流が続き、大分県中津江村でキャンプをしたカメルーン代表と地元住民との交流は地域を活性化させた。
こうした経験をふまえ、「南アフリカのW杯では、開催される地方都市で子供たちを親善大使に任命すればどうか」と提案。教育的意味も大きく、将来にわたる息の長い観光促進にもつながるのではないかとした。「W杯が来たおかげで、県民の意識が変わった。Think globally, after locallyという考えが浸透してきたのではないか」と平松氏。現在では、別府市など大分の観光地には海外から多くの観光客が訪れている。
▽南アフリカ観光局最高マーケティング責任者・ロシェーン・シン氏
W杯開催に自信、南アは費用対効果の高いデスティネーション
「W杯を契機として、観光客数も現地消費額も伸ばしていきたい」―シン氏は、改めてW杯が南アフリカの観光産業に与える影響の大きさを強調した。南アフリカ政府はW杯開催に向けて、国内10ヶ所のスタジアム建設および改修に約50億ランド(約500億円)、空港拡張プロジェクトに52億ランド(約520億円)、道路・鉄道などのインフラ整備に35億ドル(約350億円)を投じている。シン氏は「観光局では2010年に外国人訪問者数1000万人をめざしている。その経済波及効果は110億ランド(約1100億円)になる見込みだ」と説明。日本人旅行者数については2007年の3万1855人から5万人にまで増やしていきたい考え。受け入れ態勢についても、6月と7月は観光のシーズンオフであること、宿泊施設が増加していることで、問題ないとの自信を示す。
また、世界には南アフリカでのサッカーW杯開催能力に疑問を呈する意見があるなか、シン氏は、「これまでにもクリケットW杯、ラグビーW杯、W杯女子ゴルフなど、数々の世界大会を成功させている」と強調。今年9月にFIFAのプラッター会長が南アを訪問した際の、「順調な準備状況に満足。W杯の成功を確信した」との声明を紹介した。
このほか、懸案の安全対策についても言及。国レベルで治安維持・安全対策に取り組み、警察力の強化に向けて2009/10年度予算として、2006/07年度予算の34%増となる440億ランドを提示している。「W杯期間中には、警察官やボランティアが大幅に増員」(シン氏)される計画だ。「過去10年で、99%の旅行者は犯罪に巻き込まれていない」と述べ、安全対策が進んでいることをアピールした。
さらに、MICE市場の拡大も期待を示す。MICEでの渡航ではポストツアーを実施する傾向が強く、その消費額も通常の旅行よりも大きい。同局では、2010年にはMICEの全渡航者数に占める割合が、5.6%であった2006年の2倍になると予測。各州でコンベンション・センターの整備に力を入れている。
▽ムプランガ州観光公園局最高マーケティング責任者・エゾロム・セコベラ氏
W杯に向けて、新しい観光素材の開発に注力
セコベラ氏は冒頭、「ムプランガ州のコア・マーケットはイギリス、ドイツと日本」と説明、日本が同州にとって重要な市場であることを強調した。「ムプランガには山、川、ビーチなど多彩な自然があり、さまざまな文化体験も可能」とアピール。特に、世界で3番目の大きさを誇り、緑に覆われた「ブライデ・リバー・キャニオン」を詳しく紹介し、日本人観光客へのプロモーションを強めていく考えを示した。南アフリカ観光局でもこのキャニオン一帯を南アフリカのアイコン的なランドスケープとして特徴づけしていく。
W杯に向けた取り組みでは、まず同州ネルスプロイトに建設中のスタジアム(4万6000人収容)について言及。建設は順調に進んでおり、来年6月には完成し、10月にはこけら落としのゲームが実施される予定だ。同時にスタジアムへのアクセスとして公共交通機関も整備中。また、スタジアムに隣接してファン・パークも整備するなど、W杯を盛り上げる準備も進めていることを強調した。
一方、W杯成功に向けて課題が多いのも事実とし、宿泊、輸送、安全策、観光支援策、観光素材などで今後、改善を進めていく必要性があるとの認識を示した。特に、観光支援ではサービススキルの向上、ムプランガ州の知名度向上、より積極的な情報発信を進めていく必要性を強調。また、観光素材として幅広い体験型素材を開発し、ナイトライフなどエンターテイメント素材を増やすことが必要との考えを示した。
▽ジェイティービー国際部長・古澤徹氏
南アフリカには高い潜在性、まずはイメージ改善
日本旅行業協会(JATA)で南アフリカ旅行拡大ワーキンググループの座長を務める古澤氏はまず、日本の海外旅行市場の動向として現在の出国者の割合が人口比で13.9%であると提示。これは韓国の21%、台湾の31%と比べ低い数字で、「日本のGDPのわりには少なく、まだまだ拡大させていく余地はある」とした。南アフリカへの日本人渡航者数は年々増加しており、2007年は3万1855人で、古澤氏はデスティネーションとして「潜在性は非常に高い」と述べ、例えばクロアチアやベトナムのように急速に拡大する可能性があるとの見解を示した。
古澤氏は「潜在性」として、野生動物、美しい景観、独自の伝統文化、質の高いグランドオペレーション、日本からの豊富なフライト・アクセス、そして2010年のW杯をあげる。一方で、問題点も指摘。まず、アフリカの1国として危険なイメージが根強く、旅行情報が少ない。ステレオタイプなツアーばかりで、新しい商品開発が進んでおらず、ジャカランダの季節である10月に集中し、他の月との差が非常に大きいことも問題であるとした。一方、懸案であった空港のロストラゲージについては、運営会社が変わったことで飛躍的に改善したと評価する。
こうした現状を踏まえ、JATAではW杯に向けて日本人観光客拡大に向けたワーキンググループ(WG)を立ち上げ、南アフリカの認知度の向上、観光デスティネーションとしての印象づけ、南アフリカを含む周辺国のプロモーション、日本との交流促進などに取り組んでいる。古澤氏は「2010年に向けてWGの活動を活発化していく。まず安全安心に対する誤解を解いていく。開催が近づくにつれ、業界も南アフリカに目が向き、メディアでの露出も多くなるはず」と述べ、W杯を契機とする市場拡大に大きな期待を示した。
▽エミレーツ航空西日本支店長・田中和久氏
FIFAスポンサーでブランド力アップ、路線拡充も
2006年のW杯ドイツ大会に引き続き、南アフリカ大会でも公式エアラインを務めるエミレーツ航空(EK)。EKは1億9500万ドルを投じて、FIFAとのスポンサー契約を2014年のブラジル大会まで延長した。スポンサー料は莫大だが、「その効果を考えると、決して高くない」と田中氏は語る。200ヶ国延べ300億人がテレビ観戦すると予想されており、EKの名前を世界中に広める費用対効果は高い。スポンサーの権利を利用して、EKとドバイのブランド力を上げていきたい考えだ。
また、田中氏は南アへのネットワークについて、「W杯期間中だけでなく、その後もビジネスなどの需要は拡大するのではないか」と期待する。EKは現在、ヨハネスブルグとケープタウンに路線を展開。さらにダーバンへの乗り入れを検討している。
日本市場については「当社としてはすでに成田への乗り入れ希望を表明している。航空交渉次第だが、いい結果になることを願っている」と述べ、関西、中部に続く路線拡大に期待感を示す。その上で南アフリカの観光促進について「新しい観点から新しい商品を開発していく必要があるのではないか。日本人渡航者数を増やしていくうえで、EKとして協力できることがあれば、協力していきたい」と意欲を示した。