インバウンド2000万人に向けた課題、体制整備と人材育成、意識改革を
今後の日本の経済を支えるビジネスとして、旅行業界以外からも注目が集まるインバウンド。しかし、インバウンドによるメリットを、日本企業や地域が享受するためには、さまざまな課題が指摘されている。先ごろ開催されたJATA国際観光会議のシンポジウムA・インバウンドセッション「ポスト1000万人。新たなビジョンのためのマーケティング戦略」では、ファシリテーターにJTBグローバルマーケティング&トラベル代表取締役社長の野口英明氏、パネリストに国土交通省総合政策局観光資源課長の水嶋智氏、北海道大学観光学高等研究センターセンター長の石森秀三氏、九州観光推進機構事業本部長の大江英夫氏、キャニオンズ代表取締役社長のマイク・ハリス氏を迎え、訪日旅行ビジネスの現状について検証、議論が交わされた。
▽インバウンド関連産業の空洞化の恐れ
競合相手となるアジア諸国の外国人訪問者数は、日本の830万人に対し、中国が5470万人、韓国が640万人、香港は1720万人、台湾は370万人、タイは1450万人。どの国も、アジア諸国からの旅行者が上位を占めており、国交省も2020年には訪日外国人のうちアジアからの旅行者が2007年度の74%から76%に拡大すると試算している。こうした現状を受け、野口氏は「2ウェイツーリズムが今後の旅行業のビジネスモデルの中心となる」と述べた。また、石森氏は2015年に中国人海外旅行者数が1億人に達するというUNWTOの予測から、「中国人の10%が日本を訪れたとすれば1000万人となり、2020年に2000万人は難しい数字ではない」と述べた。
ただし、水嶋氏は、「2000万人時代が到来しても、国内のインバウンド関連産業が空洞化する恐れがある」と指摘。現在はインバウンドの効果が見直され、急速に拡大しているが、手配業務が中心であることから、インバウンドに携わる業者が存続、さらに発展するためには「今後は自社の企画商品で付加価値を提供していかなければならない」とした。また、百貨店協会や金融など旅行業以外の産業界の取組みを紹介し、受け入れ体制の整備に向けた産業横断的な取組みの必要性を訴えた。
▽通訳案内士の就業実態−質を向上し、地位の確立を
さらに水嶋氏は通訳案内士の現状を例に、人材の育成と課題について言及。通訳案内士は現在、約1万2000人が登録しているが、観光立国推進基本計画にもとづき2011年までに1万5000人へ拡大をめざす方針だ。現在の主な問題は、言語の偏重と就業実態。言語については2008年4月現在で、通訳案内士登録者1人あたりの訪日外国人者数は英語が150人であるのに対し、中国語は1733人から2053人、韓国語は4452人であったという。
就業実態については、国交省が実施した調査によると、登録者で実際に通訳案内業をしているのは26.4%で、そのうち専業としているのは全体の10.2%にとどまる。年間稼働日数は専業者の場合、101日以上が33.1%で30日以下が28.3%、兼業者の場合は101日以上が5.1%で30日以下が69.5%。また、年収は専業の場合300万円以上が23.2%で100万円未満が38.8%、兼業の場合3.5%で100万円未満が76.7%であった。季節や地域によって差はあるが、実体を数値で捉えることで職業として生計を立てるには課題が山積みであることを明らかにした。十分な報酬が得られない背景の一つとして、特にアジアからの団体ツアーが、価格を優先して通訳案内士を手配せず、スルーガイドで旅行を実施するケースが多いことが挙げられる。スルーガイドでもある程度の知識を持ち合わせ、時には日本人よりも詳しいという評判もあることから、今後は料金に見合ったサービスの提供に向けて質を向上し、外国人旅行者にとっての通訳案内士としての地位を確立する必要がある。
こうした課題に対し、石森氏は「観光創造士」を提唱。地域では人材不足のため、多様な観光資源を活用できておらず、活用しようと試みる人がいても実現できる地位がないことから、そうした人々の活動を後押しする資格制度の確立を求めた。今後は地域主導で観光産業を盛り上げていかなければならないが、それには政府の支援も必要だとの意見を示した。
▽地域の意識改革も課題の一つ
地域の取組みからの考察として、群馬県のみなかみ町など国内3地域でアドベンチャー・ツアーを主催しているキャニオンズの取組みを紹介。英語圏の冒険に興味のある人にターゲットを絞り、アンケートや体験者のレポートなどによると、観光後のアンケートで満足度94%を維持している。ハリス氏はインバウンドの課題として、地方へのサポート、世界的なレベルの商品基準に加え、満足度をあげるための旅行者のデータ不足を指摘した。自然資源や地域特性を活かして満足度を高め、リピーターを獲得すると同時に、クチコミ効果をはかることで市場が拡大が見込こめると意見を述べた。
一方、大江氏は小規模の地方旅館などは多くの外国人旅行者が宿泊することで日本人宿泊者の足が遠のくと考える施設があり、外国人旅行者の積極的な受け入れ体制は整っていないことを指摘。これに対し九州観光促進機構では、外国人を受け入れることのメリットを伝えるセミナーや、外国人旅行者に受け入れられるプログラム造成などに取組んでおり、2000年以降、韓国からのゴルフ目的の旅行など訪問者数は毎年増加している。ただし、地域の観光産業に携わる人だけでなく、日本人は全体的に外国人の受け入れに対する抵抗感が高く、観光立国を実現するには意識の改革、インバウンド産業の重要性への理解を普及することが不可欠であると訴えた。
▽インバウンド関連産業の空洞化の恐れ
競合相手となるアジア諸国の外国人訪問者数は、日本の830万人に対し、中国が5470万人、韓国が640万人、香港は1720万人、台湾は370万人、タイは1450万人。どの国も、アジア諸国からの旅行者が上位を占めており、国交省も2020年には訪日外国人のうちアジアからの旅行者が2007年度の74%から76%に拡大すると試算している。こうした現状を受け、野口氏は「2ウェイツーリズムが今後の旅行業のビジネスモデルの中心となる」と述べた。また、石森氏は2015年に中国人海外旅行者数が1億人に達するというUNWTOの予測から、「中国人の10%が日本を訪れたとすれば1000万人となり、2020年に2000万人は難しい数字ではない」と述べた。
ただし、水嶋氏は、「2000万人時代が到来しても、国内のインバウンド関連産業が空洞化する恐れがある」と指摘。現在はインバウンドの効果が見直され、急速に拡大しているが、手配業務が中心であることから、インバウンドに携わる業者が存続、さらに発展するためには「今後は自社の企画商品で付加価値を提供していかなければならない」とした。また、百貨店協会や金融など旅行業以外の産業界の取組みを紹介し、受け入れ体制の整備に向けた産業横断的な取組みの必要性を訴えた。
▽通訳案内士の就業実態−質を向上し、地位の確立を
さらに水嶋氏は通訳案内士の現状を例に、人材の育成と課題について言及。通訳案内士は現在、約1万2000人が登録しているが、観光立国推進基本計画にもとづき2011年までに1万5000人へ拡大をめざす方針だ。現在の主な問題は、言語の偏重と就業実態。言語については2008年4月現在で、通訳案内士登録者1人あたりの訪日外国人者数は英語が150人であるのに対し、中国語は1733人から2053人、韓国語は4452人であったという。
就業実態については、国交省が実施した調査によると、登録者で実際に通訳案内業をしているのは26.4%で、そのうち専業としているのは全体の10.2%にとどまる。年間稼働日数は専業者の場合、101日以上が33.1%で30日以下が28.3%、兼業者の場合は101日以上が5.1%で30日以下が69.5%。また、年収は専業の場合300万円以上が23.2%で100万円未満が38.8%、兼業の場合3.5%で100万円未満が76.7%であった。季節や地域によって差はあるが、実体を数値で捉えることで職業として生計を立てるには課題が山積みであることを明らかにした。十分な報酬が得られない背景の一つとして、特にアジアからの団体ツアーが、価格を優先して通訳案内士を手配せず、スルーガイドで旅行を実施するケースが多いことが挙げられる。スルーガイドでもある程度の知識を持ち合わせ、時には日本人よりも詳しいという評判もあることから、今後は料金に見合ったサービスの提供に向けて質を向上し、外国人旅行者にとっての通訳案内士としての地位を確立する必要がある。
こうした課題に対し、石森氏は「観光創造士」を提唱。地域では人材不足のため、多様な観光資源を活用できておらず、活用しようと試みる人がいても実現できる地位がないことから、そうした人々の活動を後押しする資格制度の確立を求めた。今後は地域主導で観光産業を盛り上げていかなければならないが、それには政府の支援も必要だとの意見を示した。
▽地域の意識改革も課題の一つ
地域の取組みからの考察として、群馬県のみなかみ町など国内3地域でアドベンチャー・ツアーを主催しているキャニオンズの取組みを紹介。英語圏の冒険に興味のある人にターゲットを絞り、アンケートや体験者のレポートなどによると、観光後のアンケートで満足度94%を維持している。ハリス氏はインバウンドの課題として、地方へのサポート、世界的なレベルの商品基準に加え、満足度をあげるための旅行者のデータ不足を指摘した。自然資源や地域特性を活かして満足度を高め、リピーターを獲得すると同時に、クチコミ効果をはかることで市場が拡大が見込こめると意見を述べた。
一方、大江氏は小規模の地方旅館などは多くの外国人旅行者が宿泊することで日本人宿泊者の足が遠のくと考える施設があり、外国人旅行者の積極的な受け入れ体制は整っていないことを指摘。これに対し九州観光促進機構では、外国人を受け入れることのメリットを伝えるセミナーや、外国人旅行者に受け入れられるプログラム造成などに取組んでおり、2000年以降、韓国からのゴルフ目的の旅行など訪問者数は毎年増加している。ただし、地域の観光産業に携わる人だけでなく、日本人は全体的に外国人の受け入れに対する抵抗感が高く、観光立国を実現するには意識の改革、インバウンド産業の重要性への理解を普及することが不可欠であると訴えた。