取材ノート:2000万人達成に向けたVWCの可能性−JATA国際観光会議基調講演

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▽市場分析、日本社会固有の問題とは

若年層の海外旅行離れも課題だ。海外旅行がもたらす新鮮さを若者が感じられない、または求めていない可能性がある。さらに、日本社会で「富の偏在」が進んでいるとも指摘。日本の20代、30代の人たちが年収200万円前後であれば、旅行よりも将来の安定のためのささやかな貯蓄を優先するのは当然であることを示唆した。
▽VWCを取り巻く環境と可能性

明るい材料は、悲観的な側面のある高齢化社会の到来でも「2000万人以上の元気で時間が自由に使える年金生活者」がおり、この中にはいわゆる団塊の世代800万人が含まれていること。ある調査では、お金の使い道として思い出を作ることを重視しており、用途の第1位は旅行だ。この世代が1年に数回、海外旅行を楽しめば、市場の拡大は可能であることを強調する。このためには、旅行市場が変わる必要があり、多品種少量生産の体制をつくり、同じデスティネーションでも様々な切り口の商品が揃うようにしなければならない。現在も多くの消費者は旅行会社を使う傾向があり、旅行会社の努力そのものが、海外旅行市場を育てることにつながると、業界に変化を呼びかけた。
また、常に拡大を続ける日本の企業の成長力も、出国者数を下支えするだろうと期待する。例えば、京都の技術系の専門企業が世界中に商品を納入しており、年間のべ8000人の社員がドバイに業務渡航をしている元気な会社がある。さらに、下着メーカーのトリンプ日本法人は、利益率での世界1位だが、従業員1人1時間あたりの生産性でも1位をめざし、ノー残業デーや会議の時間短縮などの取り組みを進めていることを紹介。こうした取り組みは企業の競争力の源泉になるが、生まれる時間は余暇に使うことのできる時間になるとし、今後の社会全体の大きな流れが、海外旅行にも追い風になるという。
▽VWCの具体策、旅行会社はどのように行動すべきか

重点デスティネーション戦略は、重要なデスティネーションをいかに継続的に発展させるかを主眼に置く。需要喚起と市場拡大、新しいデスティネーションの開拓も重要で、ビジネスパートナーとの関係再構築により、安定した観光客数を送客し続けられるようにすることがねらいだ。これに向け韓国では韓国観光公社(KTO)とJATAは目標訪問者数を明記し、覚書(MOU)を締結。商品企画造成の担当者を対象とするセミナー、ファムツアーの計画など、観光局、ホテル、航空会社で構成されたワーキンググループで個々に対応し、VWCはファシリテーターとして協力し、関係者が一緒に現状を打開する体制の構築へつなげる役目を担う。
また、2000万人の達成には地方の活性化も不可欠という。対処法は2つで、第1に地方路線が減少する傾向だが、地方空港とイベントを共催するなどにより、需要の冷え込みの阻止と残された定期便の有効活用をめざす。第2に近隣国へのチャーター便の設定で、インバウンドと組み合わせた計画として席を埋め、設定数の増加と旅行代金を抑えることが重要だ。すでに台湾、香港、マカオなどを発地とする例があり、インとアウトの双方向の旅行需要の創出がカギとする。
メディア戦略、ダイレクト・マーケティングでは、多くの消費者に海外旅行へ行く気持ちを高め、消費者とのコミュニケーションをはかるかがポイントだ。旅行会社と政府観光局と連携も重要になる。すでに首都圏でトレインジャックを実施したほか、下期にはパスポート取得のキャンペーンを展開、JATA地方支部とも連携し、出国率の向上につながる実行力のある取り組みにしていく。
市場調査も実施する。上期は、旅行業界の大きな関心事である若年層の海外旅行離れに焦点を当て、旅行会社が若者のニーズを理解して相応しい情報や商品を提供できるように調査結果をJATAウェブサイトで公開する。旅行商品はシニア層のニーズに応えており、同じことが若年層にもできないはずはない。下期の調査はヨーロッパ方面のデスティネーションに関するものを予定している。レジャー旅行がヨーロッパからアジアへシフトするなかで、ヨーロッパの魅力を維持し、ビジネスモデルの再構築にも役立つだろう。
澤邊氏は、VWCは「数」が最終目標ではなく、2000万人を達成するための産業構造の変化がめざすところと説明。各社の競争も重要だが、海外旅行市場の拡大をはかるため、現在を白紙の状態で見直し、顧客の求めるものを的確に提供しようとする、現状の打破の取り組みであることを強調した。