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取材ノート:海外旅行2000万人へのANTOR提言−変化への対応と相互協力を

  • 2008年9月24日
 在日外国観光局協議会(ANTOR)は日本人海外旅行者数2000万人達成に向け、グローバルスタンダードに対応した取り組みと多様化するマーケットニーズに応える旅行商品の造成の必要性を強調した。JATA国際会議のシンポジウムB・海外旅行セッション「2000万人達成:ANTORの提言」は、ANTOR−JAPAN副会長で全米旅行産業協会(TIA)の井上嘉世子氏をファシリテーターに迎え、香港政府観光局日本・韓国局長の加納國雄氏、ハンガリー政府観光局局長のコーシャ・バーリン・レイ氏、スイス政府観光局日本・アジア支局長のロジェ・ツビンデン氏が観光局の立場から、近畿日本ツーリスト(KNT)専務取締役の越智良典氏が旅行会社の取り組みや考え方をそれぞれ紹介、現状と今後を検証した。


▽日本の海外旅行者数低迷は、業界にも問題あり

 ANTORが正会員、賛助会員の72組織を対象に実施したアンケートによると、日本の旅行業界に対し、旅行会社スタッフに対する教育水準の低さや商習慣の違いに対する懸念が挙げられていることを井上氏が紹介した。

 コーシャ氏はこうした点を踏まえ、2001年以降の日本の海外旅行者数は9.11やSARSなどと現状の違いを指摘。テロやSARSは一時的な落ち込みにつながったものの短期間で回復。しかし、昨年5月から下がり始めた旅行者数は今年、前年比5.6%減の1600万人台にとどまる見通しもあり、今回の低迷は短期間で復活する可能性が見いだせず、年齢別で全ての層が前年比減で推移、ほぼ全てのデスティネーションで前年を割り込むといった違いがある。これらの要因は、世界経済の不安や燃油サーチャージ額の高騰、海外旅行への関心の薄さが要因とされるが、一部の旅行会社では伸びていること、また、中国や韓国のアウトバンド市場の拡大があり、社会環境など外的要因だけでなく業界内部の課題にも目を向ける必要性を指摘する。コーシャ氏は、海外旅行商品の薄利多売によるイメージ悪化やリスクを避ける傾向に加え、航空座席供給量やパッケージ商品における供給と消費者の需要のバランスの不一致、集団行動を好む日本での商品展開の仕組み、「ノーリスクでリターンを求める」業界の動きなど具体的な要因をあげる。こうした状況について、短期的な改善策は減少する状況を食い止める活動という色彩が強くなるものの、2010年以降の中期的には航空会社の新機材導入で就航地の拡充や消費者ニーズの細分化でFITの増加が考えられるという。


▽新興市場の台頭で「日本スタンダード」が世界に通用しない時代に

 ツビンデン氏によると、ヨーロッパではマナーの良い日本人旅行者を好み、キャンセル率が高く、支払いが概して遅い日本の商習慣を受け入れてでもビジネスをしていた。ただし、このところの中国、インド、ロシアなど海外旅行の新興国市場が急速に送客数を増やし、特にホテルは日本市場が利用する客室数の確保が難しい。また、日本市場が確保していた客室がフランクフルト、ミュンヘン、パリ、ローマ、アムステルダム、フッセン、グリンデルワルト、ツェルマットの8都市について、日本市場のアロットメントのうち61%から92%の客室を返還し、消化率が悪い例を紹介し、日本の商習慣に合わせる必要性がなくなっていると指摘。供給側が需要主導型から供給主導型へのビジネスへ変化し、日本側がグローバルスタンダードに適用する必要が出てきているという。ツビンデン氏は、日本市場の信頼回復と市場活性化に向け、「より現実的な送客の見通しの立案、事前予約の必要のないホテルリストの利用、空港の発着枠や着陸料などの規制緩和」の3点を改善することを提案する。

 加納氏も、アジアでも平均70%を返却するアロットメント消化率の低さから、旅行会社が「客室が確保できない」というものの、供給をしにくいホテル側の現状を代弁する。また、価格競争が強く「ベルトコンベアー」的な商品造成になり、ツアーに新鮮さが欠ける点も指摘。「ランドオペレーターに予算ばかりを伝えるのではなく、商品造成、さらなる顧客満足のための相談をすべき」といい、「観光局も活用してデスティネーションをリサーチし、旅行商品のコンサルタントになってほしい」と語った。最近は状況改善に向けた動きがあると指摘しつつ、「旅行会社はランドオペレーターをパートナーとして対等の関係を築くこと、観光局のスタッフやファムツアーの積極的な活用」で現状の打開を呼びかける。


▽デスティネーションの育成と利益確保をめざす旅行会社の取り組み

 KNTの越智氏は、韓国観光公社(KTO)と1年間の提携による商品造成、送客体制を引き合いに「韓国への日本人訪問者数が約5%減の中で、目標の前年比25%増の15万人を達成できた」と紹介する。KTOはこの5年間、1年間に1社の旅行会社と提携して商品造りやプロモーションを集中的に展開。観光局側は1社に限定することで旅行者数が減少するリスクを背負い、旅行会社は送客目標を達成できるかのプレッシャーがあるため、相互にリスクを持ちながら、緊張関係の中で互いに目標を達成した提携であったと振り返る。ただし、「大規模な仕掛けを毎年できるわけではなく、失敗も数多い中での成功例」として、新たなビジネスモデルの転換に向けた試行が続くとの考えだ。

 KTOと協力した成果は、教育旅行などを含むグループで3万7800人超、平均単価が11万6000円、パッケージツアーは6万3400名超で平均単価が7万5000円、FITは4万9700名超で平均単価が5万2000円。ホリデイでは雑誌とのタイアップ企画、世界遺産の宋廟でのイベントなどを実施し、平均単価を上げる取り組みや、付加価値を生み出す道筋をつけた。ホリデイやMICE、羽田/ソウルのチャーター便の活用、ラグジュアリーマーケットなどあらゆる販路を活用し、社内体制としても社長から本部長、営業から店頭スタッフまでKNT全社一体の取り組みを根づかせるため、韓国への研修旅行を昨年の年初に実施した。こうした取り組みから、特に下期に結果が鮮明にあらわれ、「取扱人数を増やし、収入を増やす」ことが実現した。

 現在KNTでは、ロタ島を新たなデスティネーションとして開発に着手している。コンチネンタル航空(CO)と年間約40本のチャーター便契約を2年間締結し、年間6000人の送客を目標に商品造成を進めており、「マリアナ政府観光局(MVA)、CO、KNT」の3者が共同で送客につなげる動きにつなげたいという。「旅行商品を増やすだけではなく、消費者がどうしたらお金を使ってくれるか」を考え、「各専門部署による絞り込んだプロモーションが重要」ともいう。


▽FAMツアーが鍵−観光局と旅行会社でコストと時間のリスクをシェア

 こうした現状を踏まえ、観光局と旅行会社、あるいはランドオペレーターと旅行会社が先行投資とその収益を得ていく体制はどのような方向に改善していくかを議論。観光局の存在そのものが、各国の本局から存在価値に対して危機的な状況という見方もあるが、コーシャ氏は「来年度の予算は増額」と紹介するなど、日本市場の重要性を理解した観光局側の取り組みも紹介する。その上で、観光局からはファムツアーの参加で、「現地を実際に見てもらいたい」という要望を伝えつつ、旅行会社の意見として越智氏は「本当に成果を出したい場合、自分たちで視察する」ほか、「教育であれば、オンラインでもできる」という。しかし、実際に現地を見ることの重要さに理解を示しつつ、視察旅行について「年間の商品プランニングの予定をたてる際に部署ごとに参加できる時期を見極め、観光局と調整して予定を組んでいきたい」ともいう。

 最後にパネリストが今後のキーワードをコメント。コーシャ氏は商品、ターゲット、渡航先の「多様化」、ツビンデン氏はチャーター便のルールや旅行業法など「規制緩和」、加納氏は「観光局とのさらなるコミュニケーション」、越智氏は「リスクシェア」を挙げた。大量送客するマスマーケットの時代から多様化への対応をいっそう進めると同時に、変わりつつある世界の観光市場の変化に的確に対応できる素地づくりとして各種の規制を整備することは重要だ。その上で、相互の立場をこれまでよりも理解するコミュニケーションをとり、送客側と供給側が互いにリスクを分け合いながら需要を喚起し、2000万人に向けた市場拡大につなげていく。