インタビュー:英国政府観光庁海外事業総括ディレクター キース・ビーチャム氏

−供給座席減も経由便など、航空各社と協力へ
イギリスは2012年のロンドン・オリンピックに向け、一般的な注目が高まることが予想される。今年は日英修好通商条約調印150周年を記念して「UK-Japan2008」が英国大使館などを中心に開催されており、官民の幅広い交流が行われている。そうした中で、原油高や世界的な不景気などの要因が加わり、日本からイギリスへの交流促進に向けて不安な要素も見られる。英国政府観光庁(VB)海外事業総括ディレクターのキース・ビーチャム氏に、日本市場に対する今後の方針を聞いた。(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
−ブリテッシュ・エアウェイズ(BA)が1日2便から1日1便、日本航空(JL)は関西/ロンドン線を運休し、日本とイギリスを結ぶ路線が縮小していく。そうした状況下をどのように考えるか。
ビーチャム氏(以下、敬称略) 供給座席数の減少は、真剣に考えないといけない。この3年間、「英国式幸福論。」キャンペーンを展開し、協賛企業は50社を数え、その成果を高く評価している。そうした意味でも、今後に大きな期待を寄せていることに変わりはない。
この問題を考えるとき、需要と供給の2つの面を見る必要がある。需要は現在、日本市場は軟調で、特にレジャー市場は若い人たちが旅行をしないといわれている。一方、供給面ではホールセラー、航空会社など、市場環境が大きく変化している。ワークショップを通じて、現地から新たなアイディアを持つ人たちに参加してもらい、素材を紹介することで、こうした変化へ対応している。また、これまで互いに仕事を通じて培ってきた人間関係をさらに強化していくことも大切。その代表例がコッツウォルズ地方だろう。東京、大阪でワークショップを開催するが、そうした機会を捉えVBとしても日本市場を支援していく姿勢を示すことが重要だ。
航空会社とは、パートナーとして協力していきたい。「英国式幸福論。」ではJLやBA、全日空(NH)、ヴァージンアトランティック航空(VS)と共に取り組んできた。さらに、キャセイパシフィック航空(CX)、中東の航空会社など、ネットワークを利用してイギリスへの路線を販売したいと考える航空各社とも協力していきたい。直行便の利用は、時間制限があるビジネス旅行では最も良い選択だが、レジャーの場合はワンストップし、経由便を使うことにメリットが生まれる場合もある。
−2012年のオリンピックはロンドンが開催地。この機会をどのように活用するのか
ビーチャム 2012年のオリンピックは大きな可能性を秘めている。メディアでの露出による大きなチャンスであり、イギリスをデスティネーションとしてみた場合に、多くの記事としてあらゆる側面を伝えることが出来る。開催期間中の2週間はおそらく、訪問者数も大きな伸びを見せることはないだろうが、その前後にメディアでの露出や関心の高まりから、大きなメリットを生み出すイベントとなる。VBの調査では、「2012年のオリンピック開催地」であることを理由に、約22%が今後数年の間に訪問するとの回答を得ている。今後の4年間は、オリンピックがイギリスを訪れる大きな理由づけになるだろう。
また、オリンピックをきっかけに、「スポーツ」がイギリスのライフスタイルの一部であることを伝えたい。多くのスポーツがイギリスで「創造」され、または競技規則が決められ、スポーツを通じてイギリスを語ることができる。サッカーであれば、プレミアリーグ観戦を目的とし、ロンドンやバーミンガム、あるいはエディンバラなどを訪れるかもしれない。ただし、その観戦チケットの入手が難しい場合もある。だが、イギリスは超一流のプレイヤーのサッカー観戦だけでなく、サッカーそのものの背後に多くの歴史、ストーリーを伝えることが出来ることから、興味関心を高めてもらうことができる。
さらに、オリンピックでは「イギリス」に対する好印象をつくることもでき、ブランドとして高い位置づけを確保することもできるだろう。そのような観点では、若い人たちに向けてイギリスの新しさを伝えたい。
−オリンピックの機会を含め、プロモーションは今後、どのように展開していく考えか
ビーチャム 政府は現在、観光全体の予算の適正化をはかっており、VBの予算面でも削減されるなど状況は厳しい。その中で日本市場は、訪問者数は伸びていないものの、消費額は増加した。こうした緊縮財政にあっても、プロモーションは自分たちの手で着実に行っていきたい。VBが独自のスタッフで活動することは、市場の洞察力、緊密なネットワークの形成、投資の3つの観点から大きな意味があり、特に洞察力やネットワークは長期的な視野から高い対価価値を生むと確信している。また、VBスタッフは常にロンドンで研修を受けるなど、「今のイギリス」を知る体制を整えている。
まだ明らかにできないが、2009年から展開する消費者を対象とした新しいキャンペーンでは、ロンドンだけでなく、地方に訪れてもらうことが重要となる。「英国式幸福論。」のプロモーションと同様に3年間の展開を計画しており、現在は様々な調査を進め、戦略を練っている。ただし、観光局として重要だと考えていることは、限られたパイの中でシェア争いに陥るのではなく、市場規模を大きくする取り組みにしたい。この意味では、観光局が互いに手を携えて、あらゆる機会を活用したプロモーションも必要だ。2008年は「UK-Japan2008」に加え、日仏交流150周年を記念し、VBとフランス政府観光局が共同で活動している。
−ありがとうございました。