現地レポート:ニュージーランド ワイポウア−マオリ文化を育んだ巨木の森
森と人とマオリ文化が交流する巨木の森
いのちの営みを五感で感じるウォーキング
オークランドから北へ約3時間30分。北島のノースランドにあるホキアンガ地方には、巨木で有名なカウリが繁る「ワイポウア・フォレスト」がある。前回、紹介したロトルアが、古くからマオリ文化や地熱地帯を利用したスパなど観光産業が発達した観光地であるのに対し、こちらは宿泊施設も少なく、観光地としては今後の開発が期待される場所である。その分、手付かずの自然が残り、巨木として知られるカウリのなかでもマオリたちが「森の神」と呼ぶ「タネ・マフタ」が育つ森であることから、観光素材として注目が集まっている。ホキアンガ地方で唯一、ワイポウアのマオリの伝説や歌を紹介しながら森を行くウォーキングツアーに参加した。(取材協力:ニュージーランド政府観光局 ニュージーランド航空)
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現地レポート:ニュージーランド ロトルア マオリ文化が息づく北島(2008/08/22)
森の神「タネ・マフタ」とマオリ文化に触れる
オークランドから車で3時間30分。目的地のワイポウア・フォレストは、最大級の大きさになる樹木として知られるカウリの保護区だ。ワイポウア・フォレストに近づくほど見上げるほど大きなシダが次から次へと現れ、森を守るように道路に覆いかぶさっている。森の神「タネ・マフタ」がいよいよ近いと感じ、テンションが上がる。
ワイポウア・フォレストでの最大の目的は、この「タネ・マフタ」の育つ森で、かつてここを生活の場としていたマオリの歌や伝説を感じながら、ウォーキングをすること。乱伐のため、4%程度にまで減ってしまったカウリの保護区は国内には20ヶ所あるが、ワイポウア・フォレストは最も広い。マオリこのなかでも「タネ・マフタ」は高さ51.5メートル、幹周りは13メートルで、9軒の家を建てることができるほどの大きさ(容積)があるという。推定で2000年という樹齢は、1000年ほど前から続くマオリの歴史よりも長く、感慨深い。約300種類の草木が生息し、マオリの人々にとって薬や食物、木材など、生活に必要なものがそろう場所だったという。
ワイポウア・フォレストでは複数のウォーキングツアーがあるが、マオリの文化を交えて森を行くツアーを主催するのは、「フットプリンツ・ワイポウア」のみ。約15のツアーがあり、そのうち今回は夜のツアーに参加した。夜の森はガイドと一緒ではないとなかなか入れない貴重な体験。夜行性の動物の気配や植物の雰囲気を五感で感じながらウォーキングできるのが魅力だ。歩いていると、葉の裏側が銀色のシダ「シルバーファーン」に出会う。かつて、マオリ族が道しるべに使ったといわれ、確かに夜道でも月明かりに照らされると光るようだ。真っ暗な夜の森では、昼間見る景色とはまるで違う印象を抱くだろう。
ツアーに参加して30分ほど。森の神「タネ・マフタ」はもうすぐそこ、というところでタネ・マフタへの挨拶の歌が始まる。歌を歓迎しているのか、森の静けさや暗やみがいっそう深まるようだ。歌を終え、ガイドがライトアップした先には空まで届きそうな巨木が現れた。冬のニュージーランド、まして夜なら寒いはずなのに、その姿を見た瞬間、安心感を覚え、全身にあたたかい気持ちが広がる。
カウリは太陽を求めて成長するため自ら枝をそぎ落とし、木の上部にしか枝をつけない。はじめはたった数センチメートルの種が、森の植物の養分を吸収し2000年かけて巨大に育つ。その生命力は、他の植物も育てるほどで、タネ・マフタの上部には、35種類もの木々が育ち、ここにもひとつの森が生まれているという。他の植物の養分で育ったカウリが別の木々たちを自らの養分で育てている。森は長い年月をかけながらも生き続け、人間と同じように生死を繰り返しているのだと実感させてくれる。
森とマオリのメッセージを感じる
「森が送るメッセージを受け取ってほしい」というのはツアーを主催するフットプリンツ・ワイポウアの代表のコロ・カーマンさん。マオリと自然との結びつきを大切にし、それを観光として提供することを目的に、約3年前に立ち上げた。自然をアカデミック(学術的)に紹介するのではなく、森を生き抜いてきた植物の生命力を伝え、その合間にはマオリの伝説、歌を交える。歩いているうちに森を全身で感じられるのは、地元の人々が作ったツアーだからこそのもの。そのためスタッフは1人を除いて全員が地元住民。皆とてもフレンドリーで、丁寧に案内してくれる。森の素晴らしさ、偉大さを誇示するのではなく「好きなように自由に何かを感じてもらいたい」という姿勢も、マオリから受け継いだもてなしの精神の表れだろう。
ツアーの最後には、参加者が「タネ・マフタ」を見て何を感じたか、思ったのかを話す。真っ暗な夜の闇の中でも圧倒的な存在感を放つタネ・マフタは、緊張や怖さどころか安心感を与えてくれる。森の空気や音を思い出しながら参加者の口から出る言葉は、それぞれが置かれた環境や性格によってもさまざま。日本人スタッフの岡田さんは「future」、 “未来”を感じたそうだ。2000年の歴史を経てもなお、これからの森の未来を担う姿が見えたのかもしれない。私はタネ・マフタそのものの存在感の大きさにただ圧倒され、「being」と答えた。これからもその存在は森を見守り、育てていくだろう。
なお、ツアーは全て英語での案内で、最初に参加者同士の自己紹介がある。英語が苦手な人には抵抗があるかもしれないが、ガイドがすぐに名前を覚えてくれる上に、英語が苦手であることを伝えたところ、ツアーでは分かりやすい単語を選んで話してくれた。さらに、何か分からないことがあっても、日本人スタッフの岡田愛さんが丁寧に説明してくれるから安心だ。万が一、分からないことがあっても、きっと何かを感じ取ることができるだろう。まだ日本人の訪問者は少ないが、6月15日に開催した「ワイポウア・フォレスト ファン ラン/ウォーク2008」では、日本から33名が参加し、ワイポウア・フォレストでのランニングや植林を体験している。
いのちの営みを五感で感じるウォーキング
オークランドから北へ約3時間30分。北島のノースランドにあるホキアンガ地方には、巨木で有名なカウリが繁る「ワイポウア・フォレスト」がある。前回、紹介したロトルアが、古くからマオリ文化や地熱地帯を利用したスパなど観光産業が発達した観光地であるのに対し、こちらは宿泊施設も少なく、観光地としては今後の開発が期待される場所である。その分、手付かずの自然が残り、巨木として知られるカウリのなかでもマオリたちが「森の神」と呼ぶ「タネ・マフタ」が育つ森であることから、観光素材として注目が集まっている。ホキアンガ地方で唯一、ワイポウアのマオリの伝説や歌を紹介しながら森を行くウォーキングツアーに参加した。(取材協力:ニュージーランド政府観光局 ニュージーランド航空)
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現地レポート:ニュージーランド ロトルア マオリ文化が息づく北島(2008/08/22)
森の神「タネ・マフタ」とマオリ文化に触れる
オークランドから車で3時間30分。目的地のワイポウア・フォレストは、最大級の大きさになる樹木として知られるカウリの保護区だ。ワイポウア・フォレストに近づくほど見上げるほど大きなシダが次から次へと現れ、森を守るように道路に覆いかぶさっている。森の神「タネ・マフタ」がいよいよ近いと感じ、テンションが上がる。
ワイポウア・フォレストでの最大の目的は、この「タネ・マフタ」の育つ森で、かつてここを生活の場としていたマオリの歌や伝説を感じながら、ウォーキングをすること。乱伐のため、4%程度にまで減ってしまったカウリの保護区は国内には20ヶ所あるが、ワイポウア・フォレストは最も広い。マオリこのなかでも「タネ・マフタ」は高さ51.5メートル、幹周りは13メートルで、9軒の家を建てることができるほどの大きさ(容積)があるという。推定で2000年という樹齢は、1000年ほど前から続くマオリの歴史よりも長く、感慨深い。約300種類の草木が生息し、マオリの人々にとって薬や食物、木材など、生活に必要なものがそろう場所だったという。
ワイポウア・フォレストでは複数のウォーキングツアーがあるが、マオリの文化を交えて森を行くツアーを主催するのは、「フットプリンツ・ワイポウア」のみ。約15のツアーがあり、そのうち今回は夜のツアーに参加した。夜の森はガイドと一緒ではないとなかなか入れない貴重な体験。夜行性の動物の気配や植物の雰囲気を五感で感じながらウォーキングできるのが魅力だ。歩いていると、葉の裏側が銀色のシダ「シルバーファーン」に出会う。かつて、マオリ族が道しるべに使ったといわれ、確かに夜道でも月明かりに照らされると光るようだ。真っ暗な夜の森では、昼間見る景色とはまるで違う印象を抱くだろう。
ツアーに参加して30分ほど。森の神「タネ・マフタ」はもうすぐそこ、というところでタネ・マフタへの挨拶の歌が始まる。歌を歓迎しているのか、森の静けさや暗やみがいっそう深まるようだ。歌を終え、ガイドがライトアップした先には空まで届きそうな巨木が現れた。冬のニュージーランド、まして夜なら寒いはずなのに、その姿を見た瞬間、安心感を覚え、全身にあたたかい気持ちが広がる。
カウリは太陽を求めて成長するため自ら枝をそぎ落とし、木の上部にしか枝をつけない。はじめはたった数センチメートルの種が、森の植物の養分を吸収し2000年かけて巨大に育つ。その生命力は、他の植物も育てるほどで、タネ・マフタの上部には、35種類もの木々が育ち、ここにもひとつの森が生まれているという。他の植物の養分で育ったカウリが別の木々たちを自らの養分で育てている。森は長い年月をかけながらも生き続け、人間と同じように生死を繰り返しているのだと実感させてくれる。
森とマオリのメッセージを感じる
「森が送るメッセージを受け取ってほしい」というのはツアーを主催するフットプリンツ・ワイポウアの代表のコロ・カーマンさん。マオリと自然との結びつきを大切にし、それを観光として提供することを目的に、約3年前に立ち上げた。自然をアカデミック(学術的)に紹介するのではなく、森を生き抜いてきた植物の生命力を伝え、その合間にはマオリの伝説、歌を交える。歩いているうちに森を全身で感じられるのは、地元の人々が作ったツアーだからこそのもの。そのためスタッフは1人を除いて全員が地元住民。皆とてもフレンドリーで、丁寧に案内してくれる。森の素晴らしさ、偉大さを誇示するのではなく「好きなように自由に何かを感じてもらいたい」という姿勢も、マオリから受け継いだもてなしの精神の表れだろう。
ツアーの最後には、参加者が「タネ・マフタ」を見て何を感じたか、思ったのかを話す。真っ暗な夜の闇の中でも圧倒的な存在感を放つタネ・マフタは、緊張や怖さどころか安心感を与えてくれる。森の空気や音を思い出しながら参加者の口から出る言葉は、それぞれが置かれた環境や性格によってもさまざま。日本人スタッフの岡田さんは「future」、 “未来”を感じたそうだ。2000年の歴史を経てもなお、これからの森の未来を担う姿が見えたのかもしれない。私はタネ・マフタそのものの存在感の大きさにただ圧倒され、「being」と答えた。これからもその存在は森を見守り、育てていくだろう。
なお、ツアーは全て英語での案内で、最初に参加者同士の自己紹介がある。英語が苦手な人には抵抗があるかもしれないが、ガイドがすぐに名前を覚えてくれる上に、英語が苦手であることを伝えたところ、ツアーでは分かりやすい単語を選んで話してくれた。さらに、何か分からないことがあっても、日本人スタッフの岡田愛さんが丁寧に説明してくれるから安心だ。万が一、分からないことがあっても、きっと何かを感じ取ることができるだろう。まだ日本人の訪問者は少ないが、6月15日に開催した「ワイポウア・フォレスト ファン ラン/ウォーク2008」では、日本から33名が参加し、ワイポウア・フォレストでのランニングや植林を体験している。
ニュージーランドと日本の友好を表す植林
ホキアンガの土地に訪れた日本人の数だけ木を植えると
いう活動が進められている。これは、昨年11月に日本で
開催したイベント「ニュージーランド・パラダイスウィ
ーク2007」で、ニュージーランドから日本への友好の証
として双胴のワカ(カヌー)を贈呈したことを受け、ホ
キアンガ地方の土地の一部を植林の場として提供すると
約束したもの。ノースランド議会では、ホキアンガ地方
における公共の土地を海外交流の場として活用する機会
を探しており、同プログラムを始動。現在はまだ整備が
必要で準備をしている段階だが、今後、日本人が訪れる
度にホキアンガ湾を見渡すことのできる2ヘクタールの土
地に木が増えていくという。ワイポウア・フォレストを
始め、ホキアンガの自然を体感することが、未来の森を
育てる旅行の実現に繋がりそうだ。