フィンランド航空、アジア戦略の進捗と今後のネットワーク−空港拡張も進む
フィンランド航空(AY)は、ヘルシンキ・ヴァンター空港をハブとするアジア戦略を強化している。現在の進捗と今後の見通しについて、AYグローバルセールス担当副社長のペトリ・シャーフ氏、コマーシャル・ディヴィジョン・ネットワーク経営戦略管理担当副社長のペッテリ・コステルマー氏に聞いた。
アジア戦略のカギはヘルシンキのハブ機能
アジア戦略は、ヘルシンキが地理的にアジアに近いという優位性を活用した戦略。例えば、ハンブルグ、ベルリン、マンチェスター、タリン、ブタペスト、プラハ、マドリッドなど、日本と直行便が就航していない都市には、日本からの距離が近い地点で乗り換えたほうが、移動距離が短い。欧州発の場合でも同様だ。そして、このメリットは移動時間に直結する。このため、乗継便の接続時間を短くすること、ヘルシンキ・ヴァンター空港での移動を簡便にすること、ネットワークを豊富に揃えることが重要となる。
アジアは今後の需要の増加が大きく期待されている地域で、特に中国、インドの経済成長がこうした考えを裏付けている。2008年のAYのアジア路線の供給量は2001年と比べ、6倍以上となって年率の伸びも非常に高い。この成長を担ってきた路線は、前述の中国、インドに加え、日本、韓国だ。韓国には6月2日から、ヘルシンキ/ソウル線を就航し、アジアでの就航都市を増やす。
全路線の収益のうち、アジア路線は42%で、欧州線の40%、フィンランド国内線の15%、北米線の3%と比べても、アジアへのシフトが鮮明になりつつある。これは旅客と貨物をあわせたものだが、旅客でも35%超を記録しており、欧州域内の接続便を利用する収益も含めると約45%。また、売上の所在地別の構成についても、北欧、ヨーロッパ、アジアでそれぞれ3分の1ずつを占める割合とし、バランスを保ちたいという。
アジアとヨーロッパが最短距離にあることを最大限に活用すべく、ヘルシンキでも工夫を凝らしている。到着と出発をシームレスにすること、つまり空港をコンパクトに保ち、歩いて移動できる規模であることを重視する。空港が大きい場合、接続時間が短いために空港内を走って移動した経験のある人も多いだろうが、MCTを25分から35分に保つためには、その動線への細かな配慮が必要だ。今後の需要増加を見込み、旅客の増加を予想しており、その対応として2009年には空港の拡張を予定している。その際にも、MCTの短い空港を維持していくという。(下記、囲みを参照)
欧州での新たな路線展開も重要な位置づけを占める。この路線開設には、「優位点、市場シェア、収益」(コステルマー氏)から検討をするとしているが、東欧は特に注力を置く地域だ。例えば、ワルシャワへの便数を増したほか、キエフへの就航、ブカレストのデイリー化、プラハへの就航など、ヘルシンキでの乗り継ぎを意識しつつ、路線の拡充をはかっている。また、西ヨーロッパでもパリ、マンチェスターなどそれぞれ週1便を増便しており、今後はヨーロッパ域内の「就航都市数と運航頻度を倍にしたい」(コステルマー氏)考えだ。これにより、アジア発の欧州への乗り継ぎ、欧州発のアジアへの需要と双方向に対応をしていく。
アジア戦略では流通の要として旅行会社が必要不可欠
日本路線は「成田線、大阪線ともにロードファクターが高く満足している」(シャーフ氏)。ただし、「名古屋線は空きがある場合もあり、今後の競争力の強化をはからなければ」(シャーフ氏)といい、特に、「冬期の収益性が課題だ」(コステルマー氏)。一方、「レジャー市場に焦点を置いた日本/ヨーロッパ間のセールスを展開していたが、これからはコーポレートセールスにも注力していきたい」(シャーフ氏)と、新たな展開に着手しており、日系企業が進出するデュッセルドルフはヘルシンキからの距離が短く、距離と移動時間を考えれば、利便性の高い路線になるだろう。また、名古屋線も法人需要が堅調に推移しているといい、いかにロードファクターを高め、収益性につなげていくかが、今後の大きな課題だ。
また、日本路線を利用するヨーロッパ発の需要獲得に向け、セールスを強化する必要性を強く認識しているという。「ヨーロッパでの販売でも、距離が短い点は大きな売りになる」としており、シャーフ氏は将来的に「日本発とヨーロッパ発の日本路線の売上比率を5対5にまで、ヨーロッパ発を高めたい」という。これはリスク分散、シーズナリティのバランスを解消していくことを視野に入れた戦略。日本政府が推進する「ようこそJAPAN」キャンペーンをはじめ、日本のインバウンドの伸びに目をつけており、4月末にはヨーロッパの旅行会社を対象に名古屋へのFAMツアーを実施したという。その印象として、円安/ユーロ高の為替環境は「日本=高い」という先入観を払拭する「絶好のチャンス」と捉え、需要を掘り起こしたいという。
日本路線の増便については、コステルマー氏は「成田をデイリーに増やしたい」との考えを明かしたものの、成田空港のスロット枠が大きく増加する「2010年まで状況は変わらない」という。それまでは、上記の法人営業の強化、ヨーロッパ発需要の獲得が重視されるだろう。
こうしたセールスの方向性に対し、日本では米系航空会社のコミッションカットが進んでいることは把握しつつ、「流通で旅行会社の役割は重要だ」と強調する。特に、アジア戦略ではハブ空港を基点とする2都市間の単純な路線を販売しているわけではないため、「ネットワークの豊富さを武器にするには、流通の要として旅行会社が必要不可欠だ」(シャーフ氏)との考え。ただし、時代の流れもあり、日本/ヨーロッパ間の販売で、単純な路線はインターネットでの販売にシフトすると見ており、現在は旅行会社が80%、ウェブを含む直販が20%のところ、2010年には直販が30%になると予測。2005年には直販が10%であったことから、流通構造の変化も今後も注視していくという。シャーフ氏はヨーロッパの旅行会社で「競争力を高め、価値を提供しているところは以前と比べて売上を伸ばしている」との例を紹介しつつ、流通の変化に対応する改革に迫られており、それは航空会社も同じ環境にあるとの考えを示した。
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アジア戦略のカギはヘルシンキのハブ機能
アジア戦略は、ヘルシンキが地理的にアジアに近いという優位性を活用した戦略。例えば、ハンブルグ、ベルリン、マンチェスター、タリン、ブタペスト、プラハ、マドリッドなど、日本と直行便が就航していない都市には、日本からの距離が近い地点で乗り換えたほうが、移動距離が短い。欧州発の場合でも同様だ。そして、このメリットは移動時間に直結する。このため、乗継便の接続時間を短くすること、ヘルシンキ・ヴァンター空港での移動を簡便にすること、ネットワークを豊富に揃えることが重要となる。
アジアは今後の需要の増加が大きく期待されている地域で、特に中国、インドの経済成長がこうした考えを裏付けている。2008年のAYのアジア路線の供給量は2001年と比べ、6倍以上となって年率の伸びも非常に高い。この成長を担ってきた路線は、前述の中国、インドに加え、日本、韓国だ。韓国には6月2日から、ヘルシンキ/ソウル線を就航し、アジアでの就航都市を増やす。
全路線の収益のうち、アジア路線は42%で、欧州線の40%、フィンランド国内線の15%、北米線の3%と比べても、アジアへのシフトが鮮明になりつつある。これは旅客と貨物をあわせたものだが、旅客でも35%超を記録しており、欧州域内の接続便を利用する収益も含めると約45%。また、売上の所在地別の構成についても、北欧、ヨーロッパ、アジアでそれぞれ3分の1ずつを占める割合とし、バランスを保ちたいという。
アジアとヨーロッパが最短距離にあることを最大限に活用すべく、ヘルシンキでも工夫を凝らしている。到着と出発をシームレスにすること、つまり空港をコンパクトに保ち、歩いて移動できる規模であることを重視する。空港が大きい場合、接続時間が短いために空港内を走って移動した経験のある人も多いだろうが、MCTを25分から35分に保つためには、その動線への細かな配慮が必要だ。今後の需要増加を見込み、旅客の増加を予想しており、その対応として2009年には空港の拡張を予定している。その際にも、MCTの短い空港を維持していくという。(下記、囲みを参照)
欧州での新たな路線展開も重要な位置づけを占める。この路線開設には、「優位点、市場シェア、収益」(コステルマー氏)から検討をするとしているが、東欧は特に注力を置く地域だ。例えば、ワルシャワへの便数を増したほか、キエフへの就航、ブカレストのデイリー化、プラハへの就航など、ヘルシンキでの乗り継ぎを意識しつつ、路線の拡充をはかっている。また、西ヨーロッパでもパリ、マンチェスターなどそれぞれ週1便を増便しており、今後はヨーロッパ域内の「就航都市数と運航頻度を倍にしたい」(コステルマー氏)考えだ。これにより、アジア発の欧州への乗り継ぎ、欧州発のアジアへの需要と双方向に対応をしていく。
アジア戦略では流通の要として旅行会社が必要不可欠
日本路線は「成田線、大阪線ともにロードファクターが高く満足している」(シャーフ氏)。ただし、「名古屋線は空きがある場合もあり、今後の競争力の強化をはからなければ」(シャーフ氏)といい、特に、「冬期の収益性が課題だ」(コステルマー氏)。一方、「レジャー市場に焦点を置いた日本/ヨーロッパ間のセールスを展開していたが、これからはコーポレートセールスにも注力していきたい」(シャーフ氏)と、新たな展開に着手しており、日系企業が進出するデュッセルドルフはヘルシンキからの距離が短く、距離と移動時間を考えれば、利便性の高い路線になるだろう。また、名古屋線も法人需要が堅調に推移しているといい、いかにロードファクターを高め、収益性につなげていくかが、今後の大きな課題だ。
また、日本路線を利用するヨーロッパ発の需要獲得に向け、セールスを強化する必要性を強く認識しているという。「ヨーロッパでの販売でも、距離が短い点は大きな売りになる」としており、シャーフ氏は将来的に「日本発とヨーロッパ発の日本路線の売上比率を5対5にまで、ヨーロッパ発を高めたい」という。これはリスク分散、シーズナリティのバランスを解消していくことを視野に入れた戦略。日本政府が推進する「ようこそJAPAN」キャンペーンをはじめ、日本のインバウンドの伸びに目をつけており、4月末にはヨーロッパの旅行会社を対象に名古屋へのFAMツアーを実施したという。その印象として、円安/ユーロ高の為替環境は「日本=高い」という先入観を払拭する「絶好のチャンス」と捉え、需要を掘り起こしたいという。
日本路線の増便については、コステルマー氏は「成田をデイリーに増やしたい」との考えを明かしたものの、成田空港のスロット枠が大きく増加する「2010年まで状況は変わらない」という。それまでは、上記の法人営業の強化、ヨーロッパ発需要の獲得が重視されるだろう。
こうしたセールスの方向性に対し、日本では米系航空会社のコミッションカットが進んでいることは把握しつつ、「流通で旅行会社の役割は重要だ」と強調する。特に、アジア戦略ではハブ空港を基点とする2都市間の単純な路線を販売しているわけではないため、「ネットワークの豊富さを武器にするには、流通の要として旅行会社が必要不可欠だ」(シャーフ氏)との考え。ただし、時代の流れもあり、日本/ヨーロッパ間の販売で、単純な路線はインターネットでの販売にシフトすると見ており、現在は旅行会社が80%、ウェブを含む直販が20%のところ、2010年には直販が30%になると予測。2005年には直販が10%であったことから、流通構造の変化も今後も注視していくという。シャーフ氏はヨーロッパの旅行会社で「競争力を高め、価値を提供しているところは以前と比べて売上を伸ばしている」との例を紹介しつつ、流通の変化に対応する改革に迫られており、それは航空会社も同じ環境にあるとの考えを示した。
ヘルシンキ空港の利便性と拡張計画
ヘルシンキ空港関係者は、「人間のサイズにあった空
港(Human size Airport)」と形容する。MCT25分という
短い時間にも関わらず、人間が歩いて移動して乗換が可
能だということを意味している。このところ、世界各地
で空港が改修され、巨大化しており、その移動には空港
内の列車、動く歩道など、さまざまな機械的なサポート
を必要としているが、ヘルシンキ空港はこれを必要とは
していない。年間で約1300万人が利用、このうち25%が
国内線、75%が国際線でその3割超が乗継需要だという。
現在、ヘルシンキ・ヴァンター空港は拡張作業を着々
と進めているところ。拡張しても、現在のMCTを維持して
いくという方針を掲げ、シェンゲン域外からシェンゲン
域内の乗継が多い便は入国審査に近い搭乗ゲートを利用
し、可能な限り動線を短くする工夫をしているという。
日本路線も28番から30番ゲートを利用しており、シェン
ゲン域内への便に乗継がしやすいようにしている。
空港の拡張は、現在の国際線の33番ゲートの近くに通
路がつながるように拡張している。2009年には、利用旅
客数が1600万人と見込んでおり、既に2006年から工事に
着手。ただし、この拡張で終了ではなく、2011年から13
年にかけてさらに拡張工事を行う計画があるという。空
港関係者も「フランクフルト、コペンハーゲン、ストッ
クホルムと比べて、ヘルシンキの地理的優位性がある」
といい、乗継需要の増加を見込んだ拡張を進めている。
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