取材ノート:学校に求める「人材育成」、企業の姿勢も課題−産学官検討会議
国土交通省は3月14日、「第3回観光関係人材育成のための産学官連携検討会議」のなかで、分科会「産業界が望む観光関係大学のためのカリキュラムのあり方」を開催。旅行会社、航空会社など業界側の担当者、観光関係学部をもつ大学の教員、国土交通省、経済産業省などが参加した議論は、観光業界側が必要とする「質の高い学生」を大学側がいかに育てるか、という視点で進められた。
▽業界の望みは「多種多様」−観光業界の環境変化と進むべき道の理解を
業界からの要望として、ジェイティービー(JTB)人事・制度チームマネージャーの山添信俊氏が、グループ会社のなかで求められる 人材について、「IT」、「グローバル」、「ファイナンス」のキーワードで紹介。変化に対応して自ら価値を生み出すことができる自立創造型の人間が必要とし、フィールドワークによる着地型旅行の推進、グローバルな観光産業研究などを課し、学生がみずからそれを突き詰めるようなカリキュラムを提案した。
国土交通省が、論点の整理のために観光業界の企業と大学に対して事前に実施したアンケートでは、「従来型の旅行業の知識だけでなく、現状と課題、今後進むべき方向性」や、「一般教養」と「一般教養の域を超えた一芸(技術や知識、経験)」、「即戦力」、「ホスピタリティ」、「コミュニケーション能力・語学」、「社会人としての基本ルール」などに要望が集まった。「一芸」は、特別なツアーの造成や販売、添乗に必要で、今後の市場のニーズにあったもの。
また、「計量的な分析(統計学的アプローチ・イールドマネージメント)」、「組織管理・人事管理」などを望む声があるほか、小規模の企業では実務面での即戦力が求められているなど、企業、業種によって理想の学生像は異なっている。
▽「学問と実務」、「現場と経営」など学校ごとに専門特化も
これに対して学校側は、「現場」と「管理」、「経営」など会社内の立場ごとに適切なスキルを身につけられるようカリキュラムを構築するなど、企業のニーズにあった学生を育てる必要性を指摘。また、会社内だけでなく、業種によっても必要な知識、技術が異なることも指摘された。加えて、「実務と学問は場合によって相反する」こともあり、各学校が得意分野を定めて特化する方向性を示した。
この点については、業界側からも「観光学には社会学的な側面と経営学的な側面があり、受け入れ側として混乱している」(小田急電鉄カード戦略部長でYOKOSO JAPAN大使の小柳淳氏)として、「この学校の卒業生は何が出来るのか」 という分かりやすさを配慮するよう求めた。セントラルフロリダ大学ホスピタリティ経営学部観光学科准教授の原忠之氏は、「ある学校は経営やマネージメントなど、実務面で優れた学生を育成する一方、ある学校は学問探究に専念し、論文の質と本数を向上する」といったすみ分けを例示する。
▽業界への要望−「観光業界を志す人材の育成環境整備に本腰を」
ただし、事前アンケートでの指摘において、観光業界はあえて「観光関係学部の卒業生」を採用しなければならないわけではなく、能力があれば他学部でも良いと考える実情がある。例えば、専門学校の卒業生は、「観光地理やシステム端末の使用法を勉強しており、大卒よりも即戦力」という位置づけはあるが、「歴史や文化、芸術、一般教養の差は大きく、コンサルティング能力は低く」、技術の差は「2、3ヶ月で解消」されてしまうという。会議中に発言した学校関係者は9名で、その一方観光業界関係者は4名と、大学側が業界のニーズを把握しようと知恵を絞る横で、業界側の反応は鈍かった。
なお、会場からは、就職活動が売り手市場に変化しながら、依然として離職率が高いことから、「業界側が危機感を持たなければ(良い人材を確保する課題の)解決はあり得ない」という警鐘を鳴らす発言も飛び出していた。また、対話の場を設定し、両者の意見のすり合わせを試みる行政側からは、「これでは開催するだけ無駄になる。本腰を入れて欲しい」というリクエストも出た。
しかし、観光関係学部に通う学生は、多少なりとも観光に「やる気」を示す人間であり、カリキュラムなど業界が望む人材を育成できる環境が整えば、ミスマッチも減少する。また、今回の「産学官連携検討会議」は、初めて大学側の出席対象者を「観光関係学科などのある大学」から、観光分野に関心を持つ教員などに拡大しており、今後は「教育と観光業界のあり方」がより包括的に検討される可能性もある。実際に離職率などの問題は解消が望まれるものであり、「まずは対話を」という声への対応が問われている。
▽業界の望みは「多種多様」−観光業界の環境変化と進むべき道の理解を
業界からの要望として、ジェイティービー(JTB)人事・制度チームマネージャーの山添信俊氏が、グループ会社のなかで求められる 人材について、「IT」、「グローバル」、「ファイナンス」のキーワードで紹介。変化に対応して自ら価値を生み出すことができる自立創造型の人間が必要とし、フィールドワークによる着地型旅行の推進、グローバルな観光産業研究などを課し、学生がみずからそれを突き詰めるようなカリキュラムを提案した。
国土交通省が、論点の整理のために観光業界の企業と大学に対して事前に実施したアンケートでは、「従来型の旅行業の知識だけでなく、現状と課題、今後進むべき方向性」や、「一般教養」と「一般教養の域を超えた一芸(技術や知識、経験)」、「即戦力」、「ホスピタリティ」、「コミュニケーション能力・語学」、「社会人としての基本ルール」などに要望が集まった。「一芸」は、特別なツアーの造成や販売、添乗に必要で、今後の市場のニーズにあったもの。
また、「計量的な分析(統計学的アプローチ・イールドマネージメント)」、「組織管理・人事管理」などを望む声があるほか、小規模の企業では実務面での即戦力が求められているなど、企業、業種によって理想の学生像は異なっている。
▽「学問と実務」、「現場と経営」など学校ごとに専門特化も
これに対して学校側は、「現場」と「管理」、「経営」など会社内の立場ごとに適切なスキルを身につけられるようカリキュラムを構築するなど、企業のニーズにあった学生を育てる必要性を指摘。また、会社内だけでなく、業種によっても必要な知識、技術が異なることも指摘された。加えて、「実務と学問は場合によって相反する」こともあり、各学校が得意分野を定めて特化する方向性を示した。
この点については、業界側からも「観光学には社会学的な側面と経営学的な側面があり、受け入れ側として混乱している」(小田急電鉄カード戦略部長でYOKOSO JAPAN大使の小柳淳氏)として、「この学校の卒業生は何が出来るのか」 という分かりやすさを配慮するよう求めた。セントラルフロリダ大学ホスピタリティ経営学部観光学科准教授の原忠之氏は、「ある学校は経営やマネージメントなど、実務面で優れた学生を育成する一方、ある学校は学問探究に専念し、論文の質と本数を向上する」といったすみ分けを例示する。
▽業界への要望−「観光業界を志す人材の育成環境整備に本腰を」
ただし、事前アンケートでの指摘において、観光業界はあえて「観光関係学部の卒業生」を採用しなければならないわけではなく、能力があれば他学部でも良いと考える実情がある。例えば、専門学校の卒業生は、「観光地理やシステム端末の使用法を勉強しており、大卒よりも即戦力」という位置づけはあるが、「歴史や文化、芸術、一般教養の差は大きく、コンサルティング能力は低く」、技術の差は「2、3ヶ月で解消」されてしまうという。会議中に発言した学校関係者は9名で、その一方観光業界関係者は4名と、大学側が業界のニーズを把握しようと知恵を絞る横で、業界側の反応は鈍かった。
なお、会場からは、就職活動が売り手市場に変化しながら、依然として離職率が高いことから、「業界側が危機感を持たなければ(良い人材を確保する課題の)解決はあり得ない」という警鐘を鳴らす発言も飛び出していた。また、対話の場を設定し、両者の意見のすり合わせを試みる行政側からは、「これでは開催するだけ無駄になる。本腰を入れて欲しい」というリクエストも出た。
しかし、観光関係学部に通う学生は、多少なりとも観光に「やる気」を示す人間であり、カリキュラムなど業界が望む人材を育成できる環境が整えば、ミスマッチも減少する。また、今回の「産学官連携検討会議」は、初めて大学側の出席対象者を「観光関係学科などのある大学」から、観光分野に関心を持つ教員などに拡大しており、今後は「教育と観光業界のあり方」がより包括的に検討される可能性もある。実際に離職率などの問題は解消が望まれるものであり、「まずは対話を」という声への対応が問われている。