現地レポート:イギリス・その2
芸術家たちが心を奪われた湖水地方を辿る旅
〜映画「ミス・ポター」で注目のデスティネーション〜
湖水地方の見どころは、水と緑に恵まれた自然もちろん、季節の移ろい、1日の時間の経過によっても印象が変わる多様性にあるだろう。その美しさを心ゆくまで感じるには、湖の遊覧クルーズやウォーキングなど、この地域にあった観光を勧めたい。先週はワーズワースとベアトリクス・ポターにゆかりのある観光スポットをレポートしたが、今回は日本ではツアーで企画されることが少ない、新素材や一歩奥のエリアを紹介する。絵本のような牧歌的な景色とうって変わった荒々しい自然が残る場所に、歴史や文化など、ユニークなテーマがちりばめられている。
(文:加藤明子、取材協力:英国政府観光庁、ヴァージンアトランティック航空)
◆湖水地方の新スポットと西カンブリア
命の名残とウォーキング
湖水地方では観光客向けのウォーキングルート「フットパス」が整備されている。ところどころに黄色い矢印と「パブリック・パス」と書かれた木の看板もあって、分かりやすい。絶景ポイントと言われるターンズ・ハウや、手つかずの自然が残るラフリグターン、古い町並みが残るケズウィックがウォーキングの人気エリアだが、コニストン湖西岸にあるコニストン村もおすすめ。岩肌の山に囲まれた「コパー・マインズ・マウンテン・コテージ」を利用してゆっくり楽しみたい。
コテージは昔、銅の採掘所で、鉱山が閉鎖した20世紀初頭に立ち去った労働者の住居を観光客用に改築したもの。そのため、100年以上前の小屋を改築した趣のあるコテージもあり、周辺には鉱山トンネルや採掘で使われた道具がそのまま残る。緑の自然と産業的遺物との不思議なコントラストを体験できるのが、ここのウォーキングの特異性だ。
コテージまでの道のりも面白い。コニストン村のおとぎ話から抜け出たような白壁の家々を抜けて山道を登っていくと、それまでの穏やかな風景は影をひそめ、とたんに荒々しい表情を見せはじめる。道幅は徐々に細くなり、小川のせせらぎもいつのまにか急流へと変わってゆく。宿泊した翌日、早起きして表に出れば、目の前にそびえる山間を霞が流れていく幻想的な景色が広がる。朝もやの中に、羊たちが草を食みに山を降りてくる姿も目にできるだろう。
ちなみにコテージは全部で100棟以上あり、2ベッドサイズから大人数も宿泊可能な合宿用までさまざまなタイプが揃う。電気、ガス、冷暖房、シャワー、バスルーム、キッチンが装備され、自炊も可能。ウォーキング目的はもちろん、長期滞在希望者にもぴったりの場所だ。
築800年の古城と保存列車
アイリッシュ海に接する西カンブリアは、ローマ帝国がブリテン島に足を踏み入れた最初の地。西暦2世紀にこの地を支配したローマ皇帝・ハドリアヌスが、バイキングの侵略を防ぐために「ハドリアヌスの長城」を築くなど、イギリスの歴史を語る上で重要なエリアだ。ここまで来ると訪れたいのが、レイベングラスにある13世紀に建てられた「マンカスター城」だ。
およそ800年以上も前からこの地方を治めてきた領主ペントン家の末裔が今も住まいとしている古城で、一部が観光目的に公開されている。東京ドームの約8倍という敷地内には、石造りの城砦はもちろん、湖水地方で最大規模の英国式庭園、世界でたった一つしかないフクロウ専門施設などアトラクションが充実し、テーマパークのように楽しめる。
城砦そのものも見もので、家具や調度品は年代を重ねたアンティーク品がそろう。来賓用のダイニングルームでは、結婚式の披露宴やパーティの開催も可能だ。さらに城の知られざる秘密にも注目したい。実は若くして命を落とした領主の娘の霊がさまようといわれているのだ。実際、生前の娘の寝室は心なしか肌寒く、磁石をかざすと磁場が狂っている。観光客向けには城内で寝泊りする「ゴーストツアー」が、1グループ8人までで1泊405ポンドで設定されている。
もう一つのお勧めは、保存鉄道「レイベングラス・アンド・エスクデール鉄道」。イギリスでは都市から田舎町まで網の目のように交通網が敷かれていたが、ほとんどが20世紀後半に姿を消してしまった。しかし、鉄道発祥の国である伝統を残すべく、「ヘリテージ・レイルウェイ(保存鉄道)」として復活。観光目的として地元のボランティアが運営している。
車両はトロッコに屋根が付いたような簡素なものだが、動力源の蒸気機関は一人前。おもちゃのような煙突から白い煙が立ちのぼる。走行中はレンガ造りのトンネルや小川に掛けられた橋、石楠花の群生などを通り、時折、農夫達が手を休めて車両に手を振るのが見える。海岸の街・レイベングラスからエスクデール村までおよそ45分の車窓の旅も、湖水地方の旅行のアクセントとして利用できるだろう。
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〜映画「ミス・ポター」で注目のデスティネーション〜
湖水地方の見どころは、水と緑に恵まれた自然もちろん、季節の移ろい、1日の時間の経過によっても印象が変わる多様性にあるだろう。その美しさを心ゆくまで感じるには、湖の遊覧クルーズやウォーキングなど、この地域にあった観光を勧めたい。先週はワーズワースとベアトリクス・ポターにゆかりのある観光スポットをレポートしたが、今回は日本ではツアーで企画されることが少ない、新素材や一歩奥のエリアを紹介する。絵本のような牧歌的な景色とうって変わった荒々しい自然が残る場所に、歴史や文化など、ユニークなテーマがちりばめられている。
(文:加藤明子、取材協力:英国政府観光庁、ヴァージンアトランティック航空)
◆湖水地方の新スポットと西カンブリア
命の名残とウォーキング
湖水地方では観光客向けのウォーキングルート「フットパス」が整備されている。ところどころに黄色い矢印と「パブリック・パス」と書かれた木の看板もあって、分かりやすい。絶景ポイントと言われるターンズ・ハウや、手つかずの自然が残るラフリグターン、古い町並みが残るケズウィックがウォーキングの人気エリアだが、コニストン湖西岸にあるコニストン村もおすすめ。岩肌の山に囲まれた「コパー・マインズ・マウンテン・コテージ」を利用してゆっくり楽しみたい。
コテージは昔、銅の採掘所で、鉱山が閉鎖した20世紀初頭に立ち去った労働者の住居を観光客用に改築したもの。そのため、100年以上前の小屋を改築した趣のあるコテージもあり、周辺には鉱山トンネルや採掘で使われた道具がそのまま残る。緑の自然と産業的遺物との不思議なコントラストを体験できるのが、ここのウォーキングの特異性だ。
コテージまでの道のりも面白い。コニストン村のおとぎ話から抜け出たような白壁の家々を抜けて山道を登っていくと、それまでの穏やかな風景は影をひそめ、とたんに荒々しい表情を見せはじめる。道幅は徐々に細くなり、小川のせせらぎもいつのまにか急流へと変わってゆく。宿泊した翌日、早起きして表に出れば、目の前にそびえる山間を霞が流れていく幻想的な景色が広がる。朝もやの中に、羊たちが草を食みに山を降りてくる姿も目にできるだろう。
ちなみにコテージは全部で100棟以上あり、2ベッドサイズから大人数も宿泊可能な合宿用までさまざまなタイプが揃う。電気、ガス、冷暖房、シャワー、バスルーム、キッチンが装備され、自炊も可能。ウォーキング目的はもちろん、長期滞在希望者にもぴったりの場所だ。
築800年の古城と保存列車
アイリッシュ海に接する西カンブリアは、ローマ帝国がブリテン島に足を踏み入れた最初の地。西暦2世紀にこの地を支配したローマ皇帝・ハドリアヌスが、バイキングの侵略を防ぐために「ハドリアヌスの長城」を築くなど、イギリスの歴史を語る上で重要なエリアだ。ここまで来ると訪れたいのが、レイベングラスにある13世紀に建てられた「マンカスター城」だ。
およそ800年以上も前からこの地方を治めてきた領主ペントン家の末裔が今も住まいとしている古城で、一部が観光目的に公開されている。東京ドームの約8倍という敷地内には、石造りの城砦はもちろん、湖水地方で最大規模の英国式庭園、世界でたった一つしかないフクロウ専門施設などアトラクションが充実し、テーマパークのように楽しめる。
城砦そのものも見もので、家具や調度品は年代を重ねたアンティーク品がそろう。来賓用のダイニングルームでは、結婚式の披露宴やパーティの開催も可能だ。さらに城の知られざる秘密にも注目したい。実は若くして命を落とした領主の娘の霊がさまようといわれているのだ。実際、生前の娘の寝室は心なしか肌寒く、磁石をかざすと磁場が狂っている。観光客向けには城内で寝泊りする「ゴーストツアー」が、1グループ8人までで1泊405ポンドで設定されている。
もう一つのお勧めは、保存鉄道「レイベングラス・アンド・エスクデール鉄道」。イギリスでは都市から田舎町まで網の目のように交通網が敷かれていたが、ほとんどが20世紀後半に姿を消してしまった。しかし、鉄道発祥の国である伝統を残すべく、「ヘリテージ・レイルウェイ(保存鉄道)」として復活。観光目的として地元のボランティアが運営している。
車両はトロッコに屋根が付いたような簡素なものだが、動力源の蒸気機関は一人前。おもちゃのような煙突から白い煙が立ちのぼる。走行中はレンガ造りのトンネルや小川に掛けられた橋、石楠花の群生などを通り、時折、農夫達が手を休めて車両に手を振るのが見える。海岸の街・レイベングラスからエスクデール村までおよそ45分の車窓の旅も、湖水地方の旅行のアクセントとして利用できるだろう。
バスツアーで効率よく
地図の上では、湖水地方は決して広くない。だが、起伏が多い上に湖が点在しているため、
村から村への移動は予想以上に労力を要する。そのため、効率よく案内するのは旅行会社の
腕の見せ場となるだろう。湖水地方ではポターゆかりの場所を訪ねるツアーや、さまざまな
湖を回るツアーなど、各種コースを用意する現地ツアー会社がある。
基本的にバスによる移動なので、山登りが苦手な人はもちろん、突然の降雨も安心だ。
変わったところでは、「フィルム・ツアー」が、映画「ミス・ポター」の撮影ロケ地を巡る
ツアーを催行している。映画「ミス・ポター」の撮影時にロケハンチームの一員として参加
したスタッフがおり、地元の人だけが知る穴場スポットのロケ地も案内。6人がけの特製ワ
ゴン車にのって、映画の撮影で使われた場所を見て回る。車内は全席バックシートにスクリ
ーンを付けた特別仕様で、移動の最中にDVDを上映してくれる。
現時点では英語ガイドのみだが、映画の日本公開に合わせて日本語ガイドも計画しているそ
うだ。
なお、英国政府観光庁では、「ミス・ポター」のムービー・マップを配布している。
希望する場合は、ハガキに郵便番号と住所、氏名、Eメールアドレス、メールマガジン購読
希望の有無を明記し、下記請求先に請求すると、送料着払いで送付する。
▽ムービー・マップ請求先
東京都港区赤坂2-17-22 赤坂ツインタワー1階
英国政府観光庁
「ミス・ポター」ムービー・マップMM係 宛
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