第67回法律豆知識、ホテルも倒壊?<特別編>
姉歯一級建築士の事件は、日本中に大きな衝撃を与えた。マンションの住民は自分のマンションは大丈夫かと不安になった者も多いであろう。が、相当数のホテルが、耐震強度の不足のため営業停止に追い込まれたたことから、今回の事件は旅行業界の者も無縁ではいられなくなってしまった。
私自身は、旅行法分野の他、不動産業界にも深くたずさわっているので、複数のテレビ局から取材を受け、ニュースの中で、この一週間何回かビデオ出演させられ、実に慌ただしいものであった。
なお、本稿は、12月1日の昼頃の情報で書いていることをお断りしておく。
▽何が問題か
マンションやホテルを建てようとする建築主は、建設会社に工事を発注するが、受注した建設会社は、設計を設計事務所に依頼する。その設計事務所は、耐震構造の計算を、それを専門とする一級建築士に下請けに出すことが多い。今回の姉歯氏はこの下請けの設計士であり、ヒューザーは建築主である。
建設業界は、バブル後の日本社会の構造転換の中で、改革の最も遅れた産業分野の一つであり、未だに過当競争の中で多数の企業がひしめいている。その中で、ヒューザーは、ゆったりした床面積の割に価格が安いと言うことを売りにして、急速に売り上げを伸ばしていった。
価格を安くできた最大の要因が耐震強度を犠牲にした設計であり、マスコミ報道によれば、建築基準法上必要とされる強度の30%以下という恐るべきマンションもあるという。
本来、耐震強度が建築基準法で要求されている水準を満たしているかは、建築確認によりチェックされるはずであるが、指定確認検査機関はそれを見逃していたし、役所への申請分も建築主事が見逃していた。
その結果、マンションだけでなくホテルも、耐震強度が不足し、震度5で倒壊する危険性のあるような建物が多数世の中に存在することとなった。
▽被害者の保障
多数のマンションの住民が、住宅ローンを組んで購入したばかりのマイホームから退去せざるを得ないこととなった。となると、ローンの返済の他に、家賃を払わなければならない。開業したばかりなのに閉鎖せざるを得ないこととなり、収益がないのに借り入れの返済に追われることとなるホテルも続出した。
倒壊の危険性ありとなれば、マンションの住民は、売り主に対しては瑕疵担保責任あるいは契約解除により、買取代金の返還と損害賠償請求が可能である。建設会社や設計事務所、姉歯氏には、不法行為による同額の損害賠償請求が可能となる(これらは、不真正連帯債務として、債務者は連帯債務を負う)。
ホテル業者は、建設業者に建設代金の返還と損害賠償、設計事務所や姉歯氏には、不法行為に基づく同額の損害賠償請求が可能となる。
経営者はその職務を行うにつき、重大な過失により第三者に損害を及ぼしたときには、会社と連帯して損害賠償責任を負う。今回は、経営者の個人責任が認められてもおかしくはない事案という気がする。そこで、会社の資産の他、経営者の個人資産も損害賠償の原資になるはずである。
とはいっても、会社の資産、今後の収益や新たな借り入れ、個人の資産、これら全てを投入しても、今回の被害の全ては到底賠償できるとは思えない。賠償をすべき者が、被害回復をするだけの支払い能力が無ければ、権利はあっても、現実には誰も責任をとらないことになる。
一般的に予想される流れとしては、関係者はいずれも最終的には破産で処理をせざるを得ないということになる。破産となれば、一般的には、配当はうまくいっても数パーセントということが相場である。被害者にとっては、焼け石に水であろう。
▽刑事責任
耐震強度が不足で震度5程度の地震で倒壊する危険性があれば、人は誰もマンションを買わないであろうし、ホテル業者は、建物建築の発注をしないであろう。従って、耐震強度を秘匿して第三者にマンションを売却したり、ホテル業者にホテルを建てさせたりすれば、刑事上の詐欺罪が成立する。しかし、刑事事件は厳密な立証が必要である。 関係者の秘匿の意思まで明らかにするのは、大変な作業が必要である。この点は、今後の捜査当局の展開を待つしかないであろう。
建築基準法では、建築確認に当たってのデータの改竄については、最大50万円の罰金刑があるのみで、懲役刑は用意されていない。指定確認検査機関がデータ改竄を見逃したことについては、特別の罰則規定は存在しない。おそらく、建築基準法は、耐震データを改竄するような重大な違反がなされるということは、想定していなかったのであろう。
▽今後は
耐震データ改竄という今回の事件は、刑事事件としてどこまで発展するか現段階では不明であるが、民事的には、被害者はほとんど被害回復が出来ないことになる。
今回の被害者には、転居場所の提供を含め公的な支援が是非とも必要であろうし、将来の再発防止のため、今後、建築確認の第三者機関によるチェック体制の導入など、制度の抜本的な改革が不可避であろう。ホテル業界の、今後のホテルの建築も、その安全面のチェックは、厳重な対処が必要になろう。
私自身は、旅行法分野の他、不動産業界にも深くたずさわっているので、複数のテレビ局から取材を受け、ニュースの中で、この一週間何回かビデオ出演させられ、実に慌ただしいものであった。
なお、本稿は、12月1日の昼頃の情報で書いていることをお断りしておく。
▽何が問題か
マンションやホテルを建てようとする建築主は、建設会社に工事を発注するが、受注した建設会社は、設計を設計事務所に依頼する。その設計事務所は、耐震構造の計算を、それを専門とする一級建築士に下請けに出すことが多い。今回の姉歯氏はこの下請けの設計士であり、ヒューザーは建築主である。
建設業界は、バブル後の日本社会の構造転換の中で、改革の最も遅れた産業分野の一つであり、未だに過当競争の中で多数の企業がひしめいている。その中で、ヒューザーは、ゆったりした床面積の割に価格が安いと言うことを売りにして、急速に売り上げを伸ばしていった。
価格を安くできた最大の要因が耐震強度を犠牲にした設計であり、マスコミ報道によれば、建築基準法上必要とされる強度の30%以下という恐るべきマンションもあるという。
本来、耐震強度が建築基準法で要求されている水準を満たしているかは、建築確認によりチェックされるはずであるが、指定確認検査機関はそれを見逃していたし、役所への申請分も建築主事が見逃していた。
その結果、マンションだけでなくホテルも、耐震強度が不足し、震度5で倒壊する危険性のあるような建物が多数世の中に存在することとなった。
▽被害者の保障
多数のマンションの住民が、住宅ローンを組んで購入したばかりのマイホームから退去せざるを得ないこととなった。となると、ローンの返済の他に、家賃を払わなければならない。開業したばかりなのに閉鎖せざるを得ないこととなり、収益がないのに借り入れの返済に追われることとなるホテルも続出した。
倒壊の危険性ありとなれば、マンションの住民は、売り主に対しては瑕疵担保責任あるいは契約解除により、買取代金の返還と損害賠償請求が可能である。建設会社や設計事務所、姉歯氏には、不法行為による同額の損害賠償請求が可能となる(これらは、不真正連帯債務として、債務者は連帯債務を負う)。
ホテル業者は、建設業者に建設代金の返還と損害賠償、設計事務所や姉歯氏には、不法行為に基づく同額の損害賠償請求が可能となる。
経営者はその職務を行うにつき、重大な過失により第三者に損害を及ぼしたときには、会社と連帯して損害賠償責任を負う。今回は、経営者の個人責任が認められてもおかしくはない事案という気がする。そこで、会社の資産の他、経営者の個人資産も損害賠償の原資になるはずである。
とはいっても、会社の資産、今後の収益や新たな借り入れ、個人の資産、これら全てを投入しても、今回の被害の全ては到底賠償できるとは思えない。賠償をすべき者が、被害回復をするだけの支払い能力が無ければ、権利はあっても、現実には誰も責任をとらないことになる。
一般的に予想される流れとしては、関係者はいずれも最終的には破産で処理をせざるを得ないということになる。破産となれば、一般的には、配当はうまくいっても数パーセントということが相場である。被害者にとっては、焼け石に水であろう。
▽刑事責任
耐震強度が不足で震度5程度の地震で倒壊する危険性があれば、人は誰もマンションを買わないであろうし、ホテル業者は、建物建築の発注をしないであろう。従って、耐震強度を秘匿して第三者にマンションを売却したり、ホテル業者にホテルを建てさせたりすれば、刑事上の詐欺罪が成立する。しかし、刑事事件は厳密な立証が必要である。 関係者の秘匿の意思まで明らかにするのは、大変な作業が必要である。この点は、今後の捜査当局の展開を待つしかないであろう。
建築基準法では、建築確認に当たってのデータの改竄については、最大50万円の罰金刑があるのみで、懲役刑は用意されていない。指定確認検査機関がデータ改竄を見逃したことについては、特別の罰則規定は存在しない。おそらく、建築基準法は、耐震データを改竄するような重大な違反がなされるということは、想定していなかったのであろう。
▽今後は
耐震データ改竄という今回の事件は、刑事事件としてどこまで発展するか現段階では不明であるが、民事的には、被害者はほとんど被害回復が出来ないことになる。
今回の被害者には、転居場所の提供を含め公的な支援が是非とも必要であろうし、将来の再発防止のため、今後、建築確認の第三者機関によるチェック体制の導入など、制度の抜本的な改革が不可避であろう。ホテル業界の、今後のホテルの建築も、その安全面のチェックは、厳重な対処が必要になろう。