自動化の落とし穴-ベルトラ創業者 荒木篤実氏

  • 2026年9月4日
イタリア田舎町の某ピザ専門店でのマルゲリータ・クラシック

 単純作業の自動化といえば、古くはエクセルのマクロなどを懐かしく思い出される方もいるだろう。正しく構造化されたデータを事前に準備すれば、退屈な月次データ集計など、膨大なコピペ作業を自らすることなく、あとは実行キーを押すだけ。数秒で作業完了、神のような存在だった。

 その進化版としてAIが日々賢くなりつつある。まだ完璧には程遠い部分もあるが、人間が機械(AI)の思考回路さえ理解すれば、共同作業でいい相棒になってくれる。

 一方で、自動化してはいけない分野がある。例えば、レストランでのメニュー注文である。牛丼等のファストフードやチェーン店の場合は、味噌汁つけるか卵つけるかぐらいだし、季節でさほどメニューも変わらないので、自動化でもよい。だが、ある程度ちゃんとした店が、QRコードだけで誰もテーブルにも来ない、今日のオススメも教えない。これで自動化(という名目で、すべて客に働かせる図々しい態度)というのは、ちょっと違うのではと思ってしまう。

 サービス業には、さっさとやって良い自動化と、やるなら徹底的にすべき自動化がある。もう1つ事例をみてみよう。

 オンラインでの航空券予約変更時のこと。某欧州系エアラインにて予約済みのチケットを、急遽スケジュール変更せざるを得なくなった。Webサイト上で変更もできず、電話対応時間を過ぎており、24時間対応のコールセンターも見つからず。が、AIチャットをみつけて、試しにトライしてみた。代替案はすぐに出してくれたのだが、それが本当にベスト案か不確かである。結局サイトで調べ直し、問題ないことを確認。そのままチャットから注文を指示してみた。1分ほど待つと予約可能と表示され、決済用メールが届くとあり、確かに届いていた。そこで決済も完了。新しいスケジュールもメールで通知されたので安心しきっていた。

 ところが、実際にはこの決済と同時にチケット変更を提携先の日本の航空会社へ通知すべき作業が漏れていたらしいのだ。たぶん、新AIシステムの設計時の機能チェック漏れか、あるいはコードシェア便時の手動対応をスタッフが失念していたか、のいずれかと推察できる。が、当然、そのようなB2B間のプロセスエラーを旅行者が知るはずもない。

 これが原因で、結局チケットが発券されたのは搭乗窓口で1時間以上を待たされた後。結果、夕飯を食べ損ねた。もう2度とAIチャットで変更はすまいと誓った。

 自動化するならば、顧客目線で徹底的に設計すべきである。この事例でわかることは、自社がただ安易に楽をしたい、それがメインの理由であったことが、結局、客にも提携関係先スタッフにも2次災害を発生させ、信頼失墜となってしまったという事実である。

 話をレストランに戻そう。イタリアに取引先を訪問した際、軽く食事をご一緒にと誘われ、地元のピザ専門店へ。メニューはイタリア語しかなかったが、好物の品を頼むと、クラシック版かそれ以外かと聞かれた。そんな区分もあるのかと驚いたが、クラシックを依頼。見た目は想定外だったが、味はすこぶる美味であった。その後、オーナーらしきお爺さんがきて、なにやら愛嬌を振り撒く。このエスプレッソはどうだと聴きながら、よろめいたかと思うと、カップを私の服の上にこぼしてしまう。が、それは空の器で、彼なりのギャグであった。悪ふざけのお詫びにとデザート一品をサービスしてくれた。

 このやりとりの後、我々も、ではついでにと、プリン、ケーキ、レモンチェッロなどを追加。お互い笑いの絶えない素敵な会食になった。

 相手に押し付けず、客とのコミュニケーションを上手に活用して、客の満足度も、自社の売上も同時にアップさせてしまう。サービス業の醍醐味ここにあり、という体験であった。

荒木篤実
パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。ベンチャー経営とITマーケティングが専門。ITを道具に企業成長の本質を追求する投資家兼実業家。