レトロ回帰はタイムトリップ-ベルトラ創業者 荒木篤実氏

  • 2026年8月14日
赤羽駅前の横丁。早い夕食時、会話を楽しむ人々。

 たまにはざっくばらんに、やわらかいトピックを。日本出張時に、以前住んでいた地域を所用で訪ねた時のことです。板橋区のその地域は、当時あったほとんどすべてがなくなっており、なんともさみしい気持ちになりました。変わらないことがよいこともある、というお手本みたいな事象の1つで、故郷の景色も、そういうものだろうな、と感じ入ったのでした。

 しかし、幸いかわってないところもありました。近所の赤羽といえば、当時はたしか駅前にヨーカ堂と安い飲み屋がある程度で、誰にも注目すらされていない地域という認識であまり近寄りませんでした。せんべろ(千円でべろべろに酔える)という言葉の通り、安くて気さくに入れる飲食街。これがまだ残っているという話を聞いたので、会食がてら実際に現地に見学に行くことにしました。

 駅からすぐの路地を進むと、そこにはまるで自分の親世代が通ったであろう、昭和風情の狭い通りが何本もありました。どの通りも、寄り添うようにしていくつものお店が軒を並べていて、となりのテーブルとの間隔の狭いこと狭いこと。プライバシーもへったくれもないぐらい密着しているその様子は、ふとイタリアの大衆BARを想起させたのでした。

 一通り街並みの見学をすませて、さぁいざどこに入ろうかと悩み、ふと1軒の馬刺し専門店をみつけたので、すぐにはいってみました。すると、さっと店員さんがよってきて、飲み物確認。あ、ここは回転率勝負だなと理解して、食べ物も含めすぐに全注文を済ませました。若い世代の友人数名のグループが多いなかで、カウンターで一人、店のスタッフと楽しそうに会話している若い女性客もいて。日本ではあまりみられない風景に、少しほっこりもしました。

 1時間程でその店をでると、二軒目はカウンターのある飲みメインのBARへ。めずらしく、シャンパンのタワーグラスを頼みました。が、その値段も銀座なら1杯も飲めない程の低価格。まわりは楽しそうなカップルで混雑していました。最後は、せんべろ発祥の地にある有名店にたまたま空席があり、迷わず即入店。もうすでにお腹もいっぱいだったので、周囲の観察に徹していると、なんとも他の街ではあまりみられない、若者層が中心の、いわゆる井戸端会議風のグループが多数。聞きたくなくても話が全部丸聞こえで、それなのにそんなこと、誰一人気にすることもなく、その店すべてにポジティブな空気が流れているように感じました。

 ここは、まだインバウンド客はそれほど入り込んではいないようで、それはそれでいいことだと個人的には感じました。一方で、自分が旅行者だったら、こんな素敵なローカルの雰囲気は、ぜひ現地の知人に案内してもらいたい、とも思いました。

 旅の醍醐味は、未知との遭遇だと思っています。だからこそ人は古代から旅をし続けるのでしょう。ローカルが暮らすように、自分も街を歩きたい、これも旅慣れた旅行者なら、誰しも一度は考えることではないかと。いまの旅行業は、自社が儲けることにあまりに執着しすぎていて、本来の「相手を先に勝たせる」という、これは私個人の勝手な哲学ですが、そこからかけ離れつつあるように感じてしまいます。もちろん事業家として利益も成長も追求し続ける、これは当たり前のことで命をかけてそれを追求します。

 しかし、自己都合が一番な Me-ism最高、なんてことをする人・会社・国に、いったいどこの誰が共感などするでしょうか。そんなことで、誰か一人でも自分以外の人が幸せになったりするのでしょうか。天に唾すれば己にかえる、と常に母がいっていたことを思い出しながら、少し後髪もひかれながら、そしてタイムトリップ感でいっぱいになった胸を抱えながら、昭和レトロな街並みを後にしました。

荒木篤実
パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。ベンチャー経営とITマーケティングが専門。ITを道具に企業成長の本質を追求する投資家兼実業家。